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【魔王誕生の真実】2

 『メメリック』の町で『マジマ商会』を訪れ、アクセサリを卸すと、シルバは町を見て回ることにした。

 セシルが稼いだ金銭はシルバが管理している。セシルはそういった管理は苦手だし、買い物を行うのはシルバの役割だからだ。しかし、シルバは私物を買うとき、かならずセシルに相談する。自分で稼いだ金ではないからだ。そのセシルから、本を買っていいという約束を取り付けていたのである。もちろん、セシルが反対することはないのだが、買ってもいいという許可が出ると、やはり嬉しい。シルバは本屋で買った本を、高台にある広場で読むことにした。

 「こんにちは、シルバ様」

 「……ガイか。久しいな」

 「おや、驚かれないのですか?」

 「この間、ルナに会った。ルナがいるということは、お前がいるということだ」

 「ははは、いやはや。相変わらず聡明でいらっしゃる」

 ガイは笑いながらシルバとの距離を縮めようとしない。シルバはそのことに違和感を覚えた。ガイは、もともとシルバの執事だ。それが、ルナを旅にやる際、一人では難しいだろうとルナにつけたのだ。久々の再開にしては距離が遠すぎる。

 「……何か、用事か?」

 「いえ、少し、記憶喪失になっていただきたくて」

 「記憶喪失?」

 どういう意味か測りかねていると、ガイは優しい微笑みを見せた。

 「はい。シルヴェスタ様、魔王に戻っていただきたいのです」

 「……なぜだ?」

 「魔王がいなくなり久しい。国境では人間が押しており、内政をできるものがいなくなり、犯罪も増えております。なにより、わたくしはシルヴェスタ様、いえ陛下に惚れておりました。その魔界を導くカリスマ性。非凡ではございませんか。わたくしとしては、是非、魔王に戻っていただきたいのです」

 「残念だが、我は魔王に戻るつもりはない」

 「あの人間、セシル様でございましょう?」

 そうか、この男はセシルに会ったのか。シルバは心の奥で舌打ちする。この男から離れて二十年ほど経つが、セシルに危害を加える思考をしているかもしれない。いや、魔族としては人間を攻撃するのに問題などないのだ。そちらのほうが正しい。

 シルバはガイの言葉を思い出す。記憶喪失。つまり、この男は魔王に戻るにあたって、問題はセシルにあると判断したのだろう。

 (ならば、我々の敵だ)

 セシルだけは、なんとしても守らなければならない。その気持ちに気持ちが引き締まる。

 「……我はもう、一人の魔人だ。魔王に戻る気もないし、セシルのことを忘れることもしない」

 「そうですか。では」

 ガイの後ろに無数の糸が張り巡らされた。鈍色に光るそれに、シルバは体を緊張させる。

 「実力行使、でございます」

 糸が、シルバに襲い掛かる。シルバは手を糸に翳し、魔術の解除を行う。糸はキンっという音と共にはじけ飛ぶ。

 糸は次々と襲い掛かってきた。シルバをとらえようとしているらしい。シルバは空に飛びあがり、魔術の解除を行い続けた。

 「しつこい!」

 雷を放つ。しかし、ガイは静かなステップで避けてしまう。相変わらず、身のこなしが軽い男だ。シルバは糸をやり過ごしながら、札を取り出す。

 (町で全力を出すわけにはいかないな)

 札はセシルからもらったものだ。たとえ、どれだけ強い魔力を注ごうとも、ある程度の威力しか出ない。シルバは札を投げ、霧を発生させる。

 「おや、逃げるおつもりで?」

 しかし、ガイは風の魔法で霧を晴らすと、周囲を見渡す。そこに、シルバの影はない。

 「どこを見ている!」

 シルバはガイの背後から魔術を放とうと右手に雷を蓄積させていた。それを目の前の男に打ち込めばいい。しかし。

 「っ!?」

 「ほほほ、わたくしが、シルヴェスタ様の動きを予測できないとでも?」

 どうやらガイの方が一枚上手だったらしい。シルバは糸に捉えられてしまった。

 「こんなの、魔術を解除すれば……」

 しかし、異変に気付く。糸がいつまで経っても消えない。シルバが身をひねると、腕から血が流れ始めた。

 「あまり動かないでいただきたい。その糸は魔術でできたものではございません。本物の鉄線でございます」

 「……魔術に紛れ込ませていたのか?」

 「シルヴェスタ様をとらえるには、魔術では難しゅうございますので」

 そう言いながらガイは、シルバの頭に手を翳す。シルバはどうにかして糸から逃げようと身をよじった。

 「さあ、あの人間のことはお忘れなさい。そして、魔王として人間を滅ぼすのですよ」

 「やめっ!」

 シルバの視界が、暗転した。

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