【人間と魔族】2
「なんだ、勇者か」
「なんだ、勇者じゃ不満かよ?」
セシルがルナと家で問答を繰り返している間、シルバは森でアレックスに会っていた。アレックスはセシルに会っていないらしく、シルバの買い物帰りを待ち伏せしては、話して帰っていくを繰り返している。何がしたいのか、シルバには分からなかったが、別に害があるわけではないので放置している。
「……で、セシルさんと結婚式はしたのかよ?」
「いや、まだだな」
「あのな……セシルさんを娶るなら、ちゃんとした手順は踏めよ。セシルさんが可哀そうだ」
「ふむ……」
シルバの中では、婚姻紋が体に刻まれた時点で娶ったというつもりなのだが、人間はそうではないらしい。
「人間は儀式が多すぎる」
「ケジメ、って言葉になるんだよ」
その言葉を最後に、アレックスは考え始める。座っている岩の感覚が冷たい。シルバは何をするでもなく、森から見える空を見ていた。
「……幸せか?」
アレックスは急にそんな言葉を吐いた。何事か、と思ったがその真剣な声色に、シルバも真剣に答える。
「幸せだな」
思い出すのはセシルに召還されたからのことだった。召喚され、一緒に生活し、研究し、魔術棟から逃げ出して、家を建てて、一緒に商売をし……たくさんのことがあった。そのどれもが、魔王だったころに比べればどれほど幸せか。
「セシルは、我を享受してくれる。心地よくて、離れる気がせんな」
「……セシルさんは、幸せかよ?」
「さあな。ただ、幸せにする自信はある」
「……そうか」
ふと、足音が近づいてきた。特に敵意の感じない足音に、二人とも岩から腰も上げない。すると、木々の間から女性が現れた。
「……ルナか」
少し驚いたように、シルバが言う。ルナは息を切らしながら、怒鳴った。
「あなたは、昔のことを忘れてしまったのですか!」
「……覚えている」
「じゃあ、なんで同じことを繰り返そうとするのですか!あの人間、セシルさんは関係のない一般人ですよ!?あなたに関わらなければ、幸せに暮らせるんです!」
「我は、セシルを幸せにする自信がある。大体、今の我は魔王ではない。あの時と状況が違う」
「あなたなんか、大嫌いです!」
ルナは、そう怒鳴りつけると、足早にシルバたちの前から消えてしまった。何が起きたのか分からないアレックスはぽかんとしてしまう。
「……知り合いか?」
「我の妹だ」
「……妹は大切にしろよ」
「うむ。我なりに、な」
ルナが行ってしまった方向を、シルバはじっと見つめていた。




