【人間と魔族】1
「ですから、別れてくださいと何度も言っているではありませんか」
「別れないよ」
お茶を入れながら、セシルはルナの話を流していた。あれから度々、シルバが買い出しに行ったタイミングで家を訪れている。ガイは笑いながらルナの横に控えているだけで、特に何を要求するわけでもない。
「絶対に後悔しますよ」
「後悔するのも、人生だよね」
「ははは、うまくかわされますな、ルナ様」
「本気で言ってるんです。貴方のためなんですよ?」
「ありがとうね」
お茶をルナに差し出す。前にカフェインの入ったお湯を出した後、さすがにまずいと思いシルバに淹れ方を教えてもらったのだ。シルバほどではないが、美味しいはずである。
「……ずっと気になってたんだけど、なんで魔族と人間が結婚したらいけないのかな?確かに、種族の違いを感じることは多いけど、でもシルバを召還して半年くらい問題なんて小さなことしかおきてないよ?」
セシルが魔術棟から逃げ出した件を、問題とするのなら話は別だが。
「恋愛ホルモンは三年しか続きません。三年を過ぎれば状況は変わります」
「んー、三年後を心配してもなあ……」
ルナは机を叩くとセシルを睨んだ。ただ、セシルからすれば妹の反抗期にしか見えず、特に怖さは感じない。
「強情な人ですね!」
「初めて言われたよ……で、本当はどうして魔族と人間が結婚したらダメなの?男と男が結婚したら……なら、まあ、分からなくもないけど」
「どうしても、です」
「はいはい」
セシルはルナに背を向ける。あまりにも定期的にルナが来るので、アクセサリのデザインに意見をもらうことがあるのだ。そのアクセサリを取ろうとすると、急に背後から椅子の倒れる音がした。振り返ると、ルナが青い顔をして立っている。
「どうしたの?顔色悪いよ?少し、横になる?」
「……婚姻紋……」
「え?」
「……っ!」
するとルナはマントを掴み全力で家を出て行ってしまった。残されたガイは笑いながらセシルに言う。
「……ルナ様にも事情があるのです。どうか、分かっていただきたい」
「ガイさんは、僕とシルバが結婚していることは不満ですか?」
「ふむ……」
ガイは考えるように手を顎に添える。
「……そうですね。どちらかと言えば」
「そうですか」
魔族と人間の結婚も、男と男の結婚も、ほめられたものではないことは分かっている。ただ、心のどこかで、誰かは祝福してくれているものだと思っていた。もし、魔術棟のクライヴやギルバート、勇者のアレックスであればどうだろう。彼らにも拒絶されたとき、セシルはどうすべきなのだろうか。
「ただ、ご結婚されていたとしても、どうにでも出来ますので」
「……なんのことでしょう?」
セシルの問いを無視してガイは静かに礼をすると、ゆっくりとルナを追う。手を振り見送りながらセシルはそう考えた。
「……誰にも祝福されない関係、か」
それが、どれほど孤独なのかセシルには想像できなかった。




