キラキラ星は過去への切符。
「おい!!」
「ひゃい!?」
突然の大きな声に思わず出た素っ頓狂な声。
「あはは、ぼーっとしてると思ったら何だその声は。」
私の間抜けな姿を笑うのは――愛しいジョンだった。
「ジョン!?どうしてジョンが…!?」
「えっアンネ様大丈夫か?今日は俺とお茶する日じゃないか。」
ジョンに言われ私の姿を見るとまだ幼い…。
まさか…本当に過去に戻れるとは…。
「おい、本当に大丈夫か?」
心配そうに見つめるジョン。赤いくせ毛に日に焼けた肌にはソバカスが目立つ。決してかっこいいとは言えないけど私の大好きなジョンだった。
「ジョン……。」
「えっアンネ様、泣いてるのか!?」
本当は今すぐジョンに抱きつきたい。でももしお父様にバレたら…。あ!そうだ!
「ジョン!今日って何年何日!?」
「突然なんだよ…。えっとお父さんの新聞がここに…。」
私はジョンから英字新聞を奪い取ると日付を確認した。
今は春…そしてこの年は……私が14才の時…。
夏になったらジョンに会えなくなる!
覚えている。ジョンは私が14才の夏から、姿を見せなくなった。お父様に言われて、隣町に行ってしまったから…。
「ジョン…。夏になったら隣町に行くんだよね?」
「えっ!なんでアンネ様が知ってるんだ!?アンネ様には言うなって言われてたのに…。」
やっぱりお父様が…。私は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そんな顔するなよ!隣町に凄く腕の良い庭師がいるんだって!俺頑張って修行して立派になって戻ってくるから…。「無理よ!!」」
ジョンの言葉を遮るように言う。
「な…なんだよ。俺は1人前になれないって言うのかよ…。」
「違うわ、そうじゃない。戻ってくるのが無理なの。」
ジョンは結局この町に戻ってこなかった。庭師になれたかはわからないけど、お父様が戻ってこないよう手を回したんだろう。
「何言って…。」
「お父様に言われたんでしょ?おかしいと思わない?ケリーだって立派な庭師なのに他の人に息子を任せるなんて…。」
「で…でも……。」
「私ね、お父様に結婚させられるのよ…。だからジョン…あなたを遠くに……。」
「アンネ様…俺は……。」
「お願いジョン…私を置いていかないで。………私も連れて行って。」
私は大粒の涙を流してジョンに懇願した。
「アンネ様………。」
その日の夜。私達は静かに町を後にした―――。
******
「おい、アンネ様大丈夫か?」
隣町ではさすがにバレてしまうので、私たちはもっと遠い小さくこじんまりした町を目指していた。
「大丈夫よ。…ダンスとかで体を動かしていたから心配無いと思ってたけど…考えが甘かったわね。」
思い返せば移動は常に馬車だった。平民であるジョンは馬車なんて滅多に使わないから足腰が丈夫なんだろう。平然としていた。
「あの小さい宿なら大丈夫じゃないか?ボロっちいから貴族は絶対使わないだろうし。今日はあそこに泊まろうアンネ様。」
「わかったわ…。ジョン、お願いアンネ様はバレるからやめて。私のことは…そうね、アリスって呼んで。ジョンのことは…ジャバウォックで良いかしら?」
ジョンの大反対を喰らい、結局ジョンはジョニーになった。
私たちは何日も歩いた。バレないように見窄らしい格好して、自慢だったツヤツヤの髪は肩までバッサリ切った。新聞に私たちのことが載ってたら…と思って何度か新聞売りの少年から買ったけど、一度も私たちのニュースは載らなかった。…きっと平民と駆け落ちしたなんて言えずにお父様が隠したのだろう。
「ジョン…じゃないジョニー大丈夫?」
私が家から資金源として持ってきた荷物はジョンが持っている。
さすがにジョンにも疲れが見え始めた頃――。
「着いた…。アリス、着いたぞ!」
最北の町に私たちはたどり着いたのだった。