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色褪せないラベンダー色の思い出。


******

「今日も良い天気ですね。」

朝食を終えた私はリネと一緒に新しいドレスを買いに馬車に揺られていた。

「新しいドレスを買いに行くお店、新しく出来た素敵なお店なんです。」

「そう。」

興味の無い私はリネの言葉に素っ気なく返すと馬車から街を見ていた。


結婚した当初、私もジョンを忘れるためにも旦那様に歩み寄ったこともある。

そんな時に見てしまったのだ。街で女性に宝石を渡している旦那様の姿を。

馬車に乗っていたため女性の姿はあまり見られなかったけど、深く帽子を被った旦那様がはにかんだ様な困ったような顔で話していたのは見えた。

初めて見た旦那様の顔…私には絶対に見せない顔…。

そうか。旦那様にも愛する人が居たのか。

女避けとかではなく、愛する人のカモフラージュに使われたのか。私は。

涙は出なかったが、心の中で何かが崩れる音がした―。




「……様、アンネ様?」

ふ、と気付くとリネが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「アンネ様着きましたが…大丈夫ですか?体調が悪いなら他の日でも…。」

「いえ、大丈夫よ。ちょっと考え事をしていたから。」

手を引かれながら馬車から降りると美しい建物が目に入った。


「お待ちしておりました。」

数人のスーツを着た男性が頭を下げ扉を開く。

お店に入ると何人もの女性が深深と頭を下げた。

…やっぱり公爵夫人になると扱いが違うわね。子爵家の時はここまでの対応は無かったわ。

私が少し気後れしていると個性的なドレスを着ている女性が颯爽と歩いてきた。


「はじめまして、アンネ様。わたくしはデザイナーのルース・アンスロットと申します。」

ルース・アンスロット…どこかで聞いたような…。

あ!思い出した!つい最近新聞に載っていた今とても人気のある新鋭デザイナーだ。

個性的かつ洗礼されたデザインは貴族の人達の心に刺さり、今じゃドレスを買うのも順番待ちと噂されていたけど…。

「はじめまして、ルース。あなたのドレスを買えるなんて…旦那様が予約でもしていたのかしら。」

「いえ、ヘルバーツ様はお得意様ですので…。」

なるほど、お得意様でなおかつ大貴族のヘルバーツ公爵は順番なんて関係ないと言う事ね。

…でもお得意様だなんて。旦那様はお洒落だけどそんなに散財する人では…。ああ…そうか。

私は街で見たあの女の人を思い出していた。



「本日はアンネ様にお会いできて誠に光栄です。アンネ様に似合うドレスを、デザインさせていただきました。」

わざわざデザインまで…?私が驚いているとルースは1着のドレスを持ってきた。

「綺麗…。」

まるで夜空のようなキラキラと輝く深い青色のドレス。胸元に黒いレースが入っており、子供っぽくならず上品さも出ている。

「お気に召しましたでしょうか?こちらはアンネ様の美しい瞳と色を合わせたドレスでございます。どうぞご試着くださいませ。」

ルースが手をかざすと後ろに控えていた女性達がドレスを持ち私を囲む。そして――。

「わぁ!アンネ様とてもお似合いです!」

あっという間に着替えが終わっていた。


…さすが高級ブティック。スタッフも一流なのね。

「アンネ様!とても素敵です!」

リネが大きな声で言う。ちょっと大袈裟過ぎない?

でも確かに素敵だわ。私は鏡に映る自分のドレス姿を見ながら思う。

「これ、胸元だけじゃなくて裾のところにも黒いレースが付いているのね。」

「はい、歩く度に黒いレースが見える形になっております。」

「素敵ね。こちらいただくわ。」

ありがとうございます!とルースは嬉しそうに微笑むと丁寧に頭を下げた。


「アンネ様、せっかく来たのですし他にもドレスをご試着しませんか?」

着てきたドレスに着替えている私にリネが言う。

「それは良いですね!アンネ様に着ていただきたいドレスが沢山あります!」

ルースは嬉しそうに言う…が。

「いえ、悪いけど結構よ。」

私がピシャリと言う。

「アンネ様!?旦那様には好きなだけ買って良いと言われていましたが…。」

「別に遠慮をしているわけでは無いわ。私はこの1着が気に入ったの。それでいいのよ。」

何か言いたそうなリネを置いて、着替え終わった私はそそくさと店を出た。



「アンネ様、この後どうされますか?先程のドレスに合う宝石を買いに行きますか?それとも何か甘いものでも召し上がりますか?」

帰りの馬車でリネが遠慮がちに聞く。

「いえ、宝石も甘いものも要らないわ。」

「…では公爵邸に戻られますか?」

そうね…と窓の外を見ているとふ、と思い出した。

「リネ、ちょっと行きたい場所があるの。」


********


「ここ…ですか?」

馬車を降りてから歩いて数分。私たちは小山を前に立っていた。

「ええ、懐かしいわ…。」

ジョンが私にパンジーを見せてくれた小山。さすがに今の時期にパンジーは咲いていないけど。

「あった。」

端っこに小さく咲いていたラベンダー色の花を摘む。

「その花は…。」

「ええ、私の大事な花よ。」

ジョンが作ってくれた栞に押されていた花。

本当はジョンに作ってもらいたかったけど…。私は大切にハンカチに包んだ。

「さぁ、帰りましょう。」

立ち上がり歩き出そうとすると

「もし、そこのお嬢さん。」

背後から不気味な声が聞こえてきた。





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