求めたのは美しいマリオネット。
――旦那様に初めてお会いしたのは、その1ヶ月後だった。
「………。」
「………。」
初めて訪れた公爵家はまるでお城のような豪華なものだった。
豪華な庭で私達はずっと無言でお茶を飲んでいた。
目の前に居るのはまるでおとぎ話に出てくるような美しい王子様。
陶器のような白い肌に黄金に輝く大きな瞳、美しく輝く銀色の髪はサラサラとそよ風になびいていた。
…なんでこんな美しい人が私を?
もちろん私も自分で言うのもなんだけど、負けず劣らず美しい。白く透き通る肌に真っ直ぐツヤツヤの金の髪、澄んだ青色の瞳はまるで宝石のようだってお父様やお母様に褒められた。……黙ってれば最高なのにってジョンによく言われてたっけ。
私はついクスッと笑ってしまう。
「アンネ嬢…?」
「あ、申し訳ございません。」
私は持っていた扇子で慌てて口元を隠した。
「……失礼ですがヘルバーツ様、1つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。…あと名前はクラインで良い。」
「ありがとうございます、クライン様。あの、クライン様はどうして私を婚約者に選ばれたのでしょうか?クライン様なら引く手あまたでしょうに。」
長い沈黙に耐えられなくなった私はずっと気になっていたことを聞いた。私の記憶では、クライン様に会うのは今日が初めてなのだけれど。
「………アンネ嬢の評判を聞いて。」
私の評判?自慢じゃないけど私はそんなに良い評判は無かったと思う。庭を走り回って泥だらけになりジョンと一緒に叱られたり、他のお嬢様が刺繍をしている時間、私はジョンとチェスをして大負けさせて泣かしてたり…まぁ小さい頃だけど……。
考えれば考えるほど頭がこんがらがってきたので、私は考えるのをやめて「そうですか…。」と返事をした。
――旦那様との結婚が決まったのはそれから1ヶ月後のこと。
ジョンとは結局、一回も顔を合わせることも無いままだった。何故ならジョンは、お父様からの命令で庭師の仕事をする為に隣町へと行ってしまっていたからだった―――。
結婚が決まりウェディングドレスを選んでいた時、旦那様が私を選んだ理由がわかった。
メイドが話していたのだ。
「クライン様の結婚相手、アンネ様で良かったわ。ミーネ様みたいな浪費家の人なんて溜まったもんじゃないわよね。」
「テート様みたいな我儘なのも嫌よ。」
「エリー様みたいにベタベタなのもねぇ。」
「アンネ様みたいに、物欲が無く大人しい人が1番よね。」
…そうか。そういうことか。
あんなに美しいクライン様に浮いた話が無かったのは女性嫌いということ。そしてその女性避けに私みたいなのが良かったのか。
……別に初めから期待はしていなかったけど。
私はこれから始まる結婚生活に絶望をしていた――。