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溶ける溶ける甘い夜。


――翌日。私は旦那様に湖でボートに乗りたいと言った。

私の突然の申し出に旦那様は驚いたがすぐに手配をしてくれた。やり残した仕事を後回しにしてまで。


「……突然わがまま言ってごめんなさい。」

「いや、……むしろアンネはもっと私に何をしてもらいたいか言ってくれ。」

2人きりのボートの上。旦那様はシルクハットで顔を隠しながら呟く。サラサラの銀髪の間から除く耳が赤くなっているのは気のせいかしら。

「……旦那様、私昨日もわがままを言ったのです。リネに。」

「わがまま?」

「はい、夜に町に出たいと言いました。」

「2人きりで行ったのか!?いくら馬車でとはいえなんて危険な……!リネは許したのか!」

「私がわがままを言ったのです。リネを怒らないでください。」

私が真顔で言うと旦那様はしぶしぶお許しになった。

「……そこで旦那様をお見かけしたのです。」

私の一言に旦那様の顔が真っ青になる。

「アンネ……!違うんだ!あれは……!」

「わかっています……!旦那様は私を喜ばせようとしていたんですよね?わかっています……!」

ああ、明るく話そうとしたのに涙が出てしまった。

「アンネ……!すまない、俺は……!」

「話を聞いてしまったのです。何をしても喜ばない私にどうしたら良いか聞いてましたよね…!……私、旦那様に愛されてないと思っていたんです。」

一度出た涙は止まらなくなってしまった。

「俺がアンネを愛してない?……そんなこと…。」

「結婚した理由も、ただの女性避けだと思ってました!だから結婚後も私に素っ気なかったのかと……!」

「違う、違うんだ!俺はアンネがずっと好きだった。……アンネに好きな人が居るのを知ってて求婚するぐらいに。でもそんな強引にした結婚だ。アンネが俺を嫌いなのはわかっていた。」

「旦那様……。」

「だから俺はこれ以上アンネに嫌われないよう距離を置いたんだ。寝室も毎日夜遅くに行き朝早く出てアンネを起こさないようにした。」

「毎日!?旦那様は毎日来ていたのですか!?」

「……ああ。疲れて帰って来てアンネの美しい寝顔を見るのが好きだった。」

そんな……毎日寝顔を……と私は恥ずかしくなる。

「という事はこの間リネと一緒に寝たのも……。」

「ああ、夜に俺の場所にリネがいて驚いた。」

「申し訳ございません……。怖い夢を見て…。」

「リネから翌日聞いた。理由が理由だからな。リネに処分は無いから大丈夫だ。」

良かった……と私は胸を撫で下ろす。

「……まだ怖い夢を見るのか?アンネ、怖いなら俺がリネの代わりにずっと手を繋いでいる。……だからお願いだ、俺をもっと頼ってくれ。」

いつも自信満々の旦那様から想像が出来ないぐらい弱々しい声に私は驚いた。

「アンネがまだあの男性が好きなのはわかっている。強引な俺が嫌いなのも……。だけどお願いだ。俺の前から居なくならないでくれ……。」

「旦那様……。」

アンネがあの男性と駆け落ちする夢を見たんだ……と旦那様は力なく呟いた。


「旦那様……ジョンは2年前に結婚したんです。コリーという素敵な女の子と。」

「アンネ……。」

「私はもう、旦那様のものです。……旦那様、私をずっと愛してくれてありがとうございます。私も旦那様を……クライン様を愛しております。」

「アンネ……!!」

「きゃっ!!」

突然抱きつかれてボートが揺れた為私は小さい悲鳴をあげてしまった。

「アンネ……愛している。アンネ…。」

クライン様は私を見つめるとそのまま優しくキスをした。




*******

「アンネ様、この後旦那様がお部屋に……。って大丈夫ですか?」

リネは緊張している私を見て驚く。

「そういえば旦那様と一緒に寝たことってないですよね…初夜でさえも別々に……。という事は今日が初夜じゃないですか!」

リネの言葉に私はやめて!と赤くなる。

「大丈夫ですよ!ヘルバーツ公爵家は代々夜も上手いと評判ですからね!旦那様はアンネ様一筋ですが大旦那様はご結婚する前はそりゃぁもう凄い浮名を流していまして……。旦那様もアンネ様と結婚する前に関係があった女性がいたようで、あの夜が忘れられないの!と押しかけてくる令嬢が何名も……。」

「わかった!わかったからやめて!」

私はリネを枕で何度も叩く。

「ああ!アンネ様ってばそんなに暴れたら髪が乱れて……!」

リネはブラシでとかしてくれた。

「ふふ、本当に2人が仲良くなって良かったです。旦那様ってば、一緒に寝ていた私に焼きもち妬いたんですよ?アンネに一緒に寝るよう言われたらまずは私を通しなさいって。旦那様を通すってどういうことですかね?笑いそうになりましたよ。旦那様って美しすぎて威圧感が凄いけど、結構子供っぽいんですね。」

旦那様ってばリネにそんなことを……。


そんなことを話しているとドアがノックされた。

「あら、旦那様だわ。……アンネ様、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。あ、今の話は秘密にしてくださいね。」

「あ……待ってリネ……。」

リネは私に頑張ってください!と言うと出ていってしまった。

――寝姿の旦那様と入れ替わりに。


そういえば旦那様の寝姿って初めて見たわ。旦那様って寝姿も素敵なのね。

「……アンネ?大丈夫か?」

「あ!旦那様!ごきげんよう!」

緊張のあまり何故か突然挨拶をしてしまった。

「ぶはっ、アンネ嬢、ごきげんよう。」

旦那様は笑い出してしまった。

「……そんなに笑わないでください。緊張してるのです。」

私は不貞腐れたように言う。

「そんなに怒らないでくれ。こういった場面で挨拶されたのは初めてでね。」

こういった場面……そうだ。旦那様は慣れていらっしゃるんだ。そして上手いと……ああ!リネが変なことを言うから!

「アンネ大丈夫か?無理そうなら……。」

「大丈夫です!が、その…私はこういった事に慣れてなくて……お手柔らかにお願いします。」

私が小声でお願いすると旦那様はまた笑いだした。え、こういったことの前にこういうお願いはしないの?

「アンネ、私達は今から試合をするのでは無いのだから……!まぁこういった事に慣れていると言われなくて安心したよ。大丈夫、優しくするさ。ああ、だけどアンネ、2つお願いがある。」

「お願い?なんですか?」

「旦那様では無く、クライン様と呼んで欲しい。そして……アンネが可愛すぎてたまらなくて…歯止めが効かなくなったらすまない。」

え!さっき優しくするって言ったじゃないですか!と赤い顔で抗議する私をクライン様はいたずらっ子のような顔で押し倒したのだった――。




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