素敵な謎解きをどうぞ。
「今日は旦那様の帰りが遅いとのことで奥様1人で夕食をお召し上がりください。」
執事が部屋に来るなり申し訳無さそうに言った。……そう。今日は彼女と会う日なのね。
「夕食はどちらでお召し上がりますか?」
「……私の部屋でいただくわ。」
私は夕食を部屋に運んでもらうと窓の外を見ながら静かに食べ始めた。
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「……アンネ様、よろしいでしょうか?」
夕食後。本を読んでいるとリネがやってきた。
「リネ?どうぞ入って。」
「アンネ様、申し訳ございませんが今からちょっと来ていただけませんか?町に行きたいのです。」
「あら、こんな時間に?女性2人では危ないのでは……。」
私はジャック・ザ・リッパーを思い出しながら答える。
「馬車で行くから大丈夫です。路地裏など危険な場所へは行きませんので、どうかお願いいたします。」
リネの真剣な表情に私は断れず町へと繰り出した。
「ふふ、夜の町も案外素敵ね。」
馬車から町を見ながら言う。いつも夜は部屋から覗くだけだった。
お酒を嗜んだのか楽しそうに肩を組みながら歩くおじさん達やパブの光が明るく照らしていてまるでお祭りみたいだ。
「あら、ミートパイを売っているわ。……またお腹壊すかしら。でも久しぶりに食べたいわ。リネ、止まってあのミートパイを……。」
「アンネ様、もう少しで着きますのであと少し我慢してください。」
リネの真剣な表情に私は黙って頷いた。
「こちらです。足元にお気をつけください。」
従者に手を引かれてゆっくりと馬車から降りる。
「ここは……?」
小さいパブに面した道だった。
「リネ?私とお酒を嗜みに来たのかしら?」
「しっ!静かに!アンネ様こちらに!」
リネは私を暗い小道に連れていく。
「リネ?一体どうしたの?」
「アンネ様……アンネ様がお見かけしたのはあちらの光景ですよね?」
リネが指さす方を見るとそこには。以前見た時と同じような深く帽子を被り目立たない格好で綺麗な宝石を女性に渡す旦那様がいた。
女性は嬉しい!とでも言ってるのだろう。綺麗なウェーブのかかった赤毛を揺らしながら手を口元にあて喜んでいるようだ。
旦那様はそんな女性を見て照れているのか口に手をやり下を向いた。
「……リネ、言ったでしょう?私は気にしないって。…気にしないとは言ったけど、また見たいとは言ってないわ。」
そう。私は気にしないとは言ったけど私の見えないところでやって欲しい。私はただ平和に暮らしたいのだ。
「……あら?」
女性が顔を上げるとその顔がパブの光に照らされた。
「あの人は!ガーネット夫人じゃない!」
なんで気づかなかったんだろう。あの美しい赤毛はガーネット夫人だ。そしてガーネット夫人は旦那様の友達のルルド侯爵の奥様だ。
「どういうこと?旦那様は友達の奥様と出来ていたの?」
それは流石にまずい。ルルド夫妻は来月の私達のパーティにも招待する方達だ。私は一体どんな顔で接すれば……!私が青ざめていたその時。
「いやぁ、お待たせ!ちょっと商談が長引いてしまってね。」
となんとも緊張感のないルルド侯爵の声が向かいの通りから聞こえてきたのだった。
「え……?ルルド侯爵……?」
どういうこと?ルルド侯爵公認の仲なの?いや、そんな馬鹿な事……。混乱した頭でリネをチラリと見ると真剣な顔で3人を見つめていた。私も慌てて3人に目線を戻す。
「ねぇ、見て貴方。今日はこんな素敵なネックレスをいただいたわ。」
ガーネット夫人がルルド侯爵に旦那様から受け取った宝石を見せる。ダイヤがチラリと見えたがあれはネックレスだったのか。
「クライン……。もっと安いものでいいんだぞ?」
「気にするな。そんなに大したカラットでは無い。」
「ちょっと貴方余計な事言わないでよ。ふふ、それにしても綺麗ね。」
「ああ……アンネもガーネット夫人のように宝石が好きな女性なら良かったのに。」
「……その様子だと花束もダメだったみたいだな。ドレスもか?」
「ああ。ドレスも一着しか買わなかったようだ。」
「宝石も花束もドレスも興味が無いなんて……。クライン様の奥様は本当に無欲な方なのね。修道院にでも興味がおあり?」
「こら、ガーネット!」
「あら、ごめんなさい。でもそういう女性私は嫌いじゃないわ。英国紳士だってそういう無欲な令嬢がお好みでしょう?」
「そうだな。アンネ夫人は美しいうえに無欲な方……。そもそもアンネ夫人の美しさなら宝石なんて要らない……痛!」
ガーネット夫人はルルド侯爵の足をハイヒールで踏むと睨みつける。
「とまぁ、英国紳士の憧れの的のアンネ夫人だけどクライン様はどうしても彼女を喜ばせたいと言うことね。」
「……もう一度、あの心からの笑顔が見たいんだ。」
「……本当に愛してるのね。ふふ、それにしてもあのヘルバーツ公爵様が1人の女性にこんなに振り回されているなんて……。」
「おい、さっきから失礼だぞガーネット。クラインは私の友達だが位は上なんだからな。」
「わかっているわ。だからこうして相談に乗っているんでしょう!ちゃんといただいた報酬以上の仕事をしますわ公爵様!さぁ中で作戦会議と致しましょう!」
「あ……!ガーネット!すまないなクライン……。」
「いや、大丈夫だ。こんなことを相談出来る令嬢なんて他に居ないからな。ガーネット夫人には感謝している。」
勢いよくパブに入って行ったガーネット夫人に続いて、ルルド侯爵、そして旦那様もパブに入って行った。
「……旦那様が…プレゼントを渡していた理由って……。」
私は力なく座り込んでしまう。
「……アンネ様に旦那様が女性にプレゼントを渡していたと聞いて旦那様に直接聞いたのです。あ、もちろんアンネ様が目撃したとは言っておりません。私がお見かけしたとお伝えしました。そしたら絶対に秘密にして欲しいと念を押されたうえでお話してくださりまして……。」
もう一度、あの心からの笑顔が見たい――。
旦那様は今でも私のことを……。
「あ、アンネ様はたまたま散歩に出て、たまたま目撃したことにしてくださいね。じゃないと私、旦那様にクビにされてしまうので。」
「大丈夫よ……!貴方をクビになんて絶対させないわ。……リネ、ありがとう……。」
「アンネ様、もう夜も遅いし帰りましょうか……。」
リネは座り込んで泣いている私の手をそっと掴むと立ち上がらせ、馬車へとゆっくり歩き出したのだった。




