身分に散ったいくつもの愛。
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暖炉に火をつけてキャンドルにも火を灯す。
「アンネ様、風邪をひかれたら大変です。」
リネはそう言って私にブランケットをかけてくれた。
「……リネ、私ね、この結婚が嫌で仕方なかったの。」
リネは突然話し始めた私に驚きつつも静かに聞いてくれた。
「私にはずっと好きだった人が居て……リネはわかってるわよね?そう。あの手紙のジョンよ。私は彼と一緒になりたかった。だからヘルバーツ公爵様から縁談話が来た時はショックで倒れそうになった。」
リネは黙って頷く。
「よりによってあのヘルバーツ公爵様よ?断れるわけないじゃない!お父様や周りは私を幸せ者だと祝福した。ヘルバーツ公爵様に思いを寄せていた女性達は皆私に嫉妬した。……私の気持ちを知らないくせに!優しかったお母様まで結婚に賛成したわ!この世界では身分が大事だからジョンを諦めるようにと……!」
私の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。リネは慌ててハンカチを用意した。
「……リネ、お母様の言っていることは正しかったの。愛でなんとかなるなんて、それは空想の世界だったわ。……夢でね、私はヘルバーツ公爵様では無くジョンの手を取った。でもね、全く上手くいかなかった。最初は幸せだったわ。でも本当に最初だけ。生きてく術を持ってなかった私達2人はやっていけなかったの……皆不幸になってしまったわ。」
「アンネ様……見当違いなら申し訳ございません。もしかしてアンネ様は、あの老婆の言葉を聞いて過去戻りをされたのでは……。」
私は肯定とも否定ともとれない笑顔で返した。
リネは何も言わずただ私の手を握りしめた。
「アンネ様、そろそろ夜遅くなってきました。もう寝ますか?」
「ええ……そうね。」
リネはベッドに行き寝支度をする。
「ねぇリネ……さっき私が望むなら一晩中一緒に居てくれるって言ってたわよね?……手を握っててくれないかしら?」
リネは目を丸くした。
「嫌なら良いのよ……。私が寝付けるまででもいい。またあの夢を見そうで怖いのよ…。」
「アンネ様……。」
リネは微笑むと私の手を優しく握った。
「かしこまりました。朝までアンネ様と一緒に居ます。旦那様の場所を借りることになりますが……。」
「旦那様には私から言っておくわ。」
「……かしこまりました。では私も寝姿に着替えてきますね。」
「ありがとう……リネ……。私って本当にわがままなのだわ……。」
顔を手で隠しながら呟くアンネをとても可愛く思いながらリネは急いで自分の部屋へと向かった。
「……アンネ様は眠りましたね。」
隣の美しい女性は静かに寝息を立てていた。私の手を強く握りしめながら。
アンネ様の美しい寝顔を見つめる。白く透き通った肌に長いまつ毛。本当にビスクドールのようだと私は感心した。
「……初めてお会いした時より随分大人になられましたが…やはりこう見るとまだ幼いですね。」
*********
初めてアンネ様とお会いしたのは旦那様との結婚が決まり初めて正式に公爵邸に来た時だった。
私は貴族が嫌いだった。特に貴族の女性が。
レディなんて美しい呼び方をされてお高くとまっていても、実際はドロドロで醜いものだった。
「ちょっと!ヘルバーツ公爵様はいつ私にお会いしてくれるのよ!」
「申し訳ございません。旦那様は忙しく……。」
「本当に使えない執事ね!あんた達が使えないから公爵様が忙しいんでしょ!」
旦那様を慕っていたその女性は執事の手を扇子で叩くとこちらを睨みながら出ていった。
私達はただ頭を下げることしか出来なかった。
「ああ……頭にくるわ!」
「ダメよ、リネ。貴族様に聞かれたら大変よ!」
「でもフラン、分かるでしょ?彼女達はただ生まれが恵まれてただけよ?それなのにどうしてあんな横暴が許されるの?」
「リネったらジンの飲みすぎよ……!明日に響くわ。そろそろ……。」
「身分ってそんなに大事?……どうして私はムリル伯爵様と一緒になれないの……?」
「リネ……。」
私は当時お付き合いをしていた人がいた。ムリル伯爵……身分の低い私にも優しく紳士的に振舞ってくれた。彼と一緒に居る時は私はまるで貴族のレディになれたようだった。だけどムリル伯爵様にも縁談話が持ち出され私は呆気なく捨てられたのだ。
「別にムリル伯爵様を責めてはいないわ。彼は最後まで私を真剣に愛して大事に扱ってくれたんだから。」
泣きそうな顔で謝るムリル伯爵様を忘れられない。きっとムリル伯爵様のお父様にきつく言われたんだわ。あのお方は私達の交際に大反対だったから……。
「ああ!私が貴族だったら!もう1杯飲んでやる!」
「ダメよリネ!帰るわよ!」
私はフランに引きづられながら公爵邸へと帰って行った。
*********
「えっヘルバーツ公爵様に縁談話!?」
その日。私達は休憩室でザワついていた。
「良かったわ。ここ最近あまりにも女っ気がなかったから男色家になったと思っていたよ。」
「ちょっと失礼よ!でもこれで公爵様に群がる女性達を相手にしなくなるわね。」
「当分騒がしくなりそうだけどね。でもその幸運の女神が微笑んだ貴族様は一体誰なの?」
「シャルロン家のアンネ様よ。」
「シャルロン家!?子爵家じゃない!大旦那様はよくお許しに……。」
「こら!あんた達!こんなところでサボってるなんていい度胸だね!」
突然のメイド長の雷に私達は慌てて仕事へと走って行った。
「……まさか子爵家の方とご結婚なさるなんて。」
公爵様の結婚はすぐに決まった。まぁあのヘルバーツ公爵様からの求婚には逆らえないだろう。
シャルロン家が汚い手を使って結婚に持ち込んだのでは……とメイド達の間では言われていたが、実際は公爵様から求婚と聞いて皆卒倒しそうな勢いだった。
「アンネ様って大変美しい方みたいよ。きっと色仕掛けで公爵様を誘惑して既成事実を作ったのよ!」
そんな事を言うメイドもいた。
「そんな馬鹿な……。」
さすがの私もその話を信じなかった。実際この目でアンネ様を見るまでは。
「アンネ様がお見えになりました。」
美しい動作で挨拶した彼女を私達は呆然と見ていた。
公爵様と4つほど年が離れていると聞いたのでアンネ様は14か15のはず。
確かにあどけなさもあるが……あの大人びたどこか妖艶さも醸し出す表情に私達は呆気に取られていたのだ。まさか本当に公爵様は誘惑に負け既成事実を…!
「コホンッ」
執事の咳払いに私達は我に返る。
「あ……アンネ様、よろしくお願い致します!」
私達は慌てて頭を下げる。
「……よろしくお願いしますわ。」
彼女は無表情でそう静かに呟いた。




