悪夢の先の光。
「アンネ様、起きてください!」
「ん……。」
眩しさに目を覚ますと暖かくて柔らかい布団に包まれた。
「アンネ様が起きないなんて珍しいですね。昨日お酒を飲めなかったため寝つけませんでしたか?」
そう言って水の入ったボウルをサイドテーブルに置いたのは……リネだった。
「こちらに水を置いておきますので洗顔の方を……。ってアンネ様!?どうされたのですか!?」
突然泣き出した私にリネは慌てふためいた。
「落ち着きましたか?」
リネが持ってきてくれたホットミルクを飲んで私は頷いた。
「突然どうされたのですか?」
「怖い夢を見たのよ。酷く怖い夢。」
「夢……ですか?」
「ええ……。ねぇ、リネ、私のお母様は元気かしら?」
「アンネ様のお母様ですか?ええ、元気で来月の旦那様とのパーティにも出席されると…。」
「そう。ならやっぱり悪い夢だったのよ。」
「もしかして…お母様が亡くなられた夢なんですか?」
私が頷くとリネは笑いだした。
「あら、笑うなんて失礼ね。」
「申し訳ございません。でもなんだかアンネ様がいつもより子供のような可愛らしい感じで……って申し訳ございません!」
「いいのよ。本当の私はお転婆でわがままで手に負えないんだから。」
「ふふ、そうなんですね。」
「……ねぇリネ、ジョンから手紙来てたわよね?あれ全部持ってきてもらえるかしら?」
「アンネ様……もう大丈夫なのですか?」
私は大丈夫と微笑んだ。
ずっとジョンから来ていた手紙。結婚してから私は一度も開いたことが無かった。読むのが怖かったのだ。ジョンが私の知らない場所で幸せに暮らしているのが。……でももう大丈夫。
「ジョン……2年前に結婚してたみたい。コリーという幼なじみの子と。」
「それは……その。」
「コリーはね、とても良い子なのよ。家事も得意だから安心ね。」
「知ってる子なんですか?」
「ええ。それにジョン、庭師になれたんですって!夢を叶えたって。ケリーさんと一緒に庭師を頑張ってるみたい!良かった!本当に良かった……!リネ、手紙の返事を書きたいからインクと便箋持ってきて。」
「はい!」
私は涙が止まらなかった。良かった!皆幸せになれたんだ!本当に本当に良かった……!
「アンネ様……大丈夫ですか?」
リネが何度も心配をする。今日はどうしてもすぐに泣いてしまう。あんな経験したんだ。許して欲しい。
「何かあったのでしょうか……?」
「大丈夫よ。」
トントン。
「旦那様がおかえりになりました。」
執事にそう呼ばれて私は玄関ホールに行く。
「おかえりなさい。今日は早かったのですね。」
「ああ。……アンネ、目が赤いようだが大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。」
こんな些細なことにも気付くなんて。やっぱり旦那様はあの世界と同一人物なんだわ。
「……旦那様、もしよろしければ夕食を一緒にいただきたいのですが。」
私の言葉にホールがザワつく。
旦那様も一瞬目を見開いたがすぐにまた無表情に戻ると「ああ……。」と呟いた。
旦那様と一緒に食べる夕食。そういえば何年ぶりだったのだろう。結婚当初はよく一緒に食べていたのだが、無言で息が詰まる空間に耐えきれず私が嫌がるようになったのだ。
……思えば旦那様は元々あまり喋らない方だった。私が一方的に嫌がったのかな。だから旦那様は私を見限ってあの女性を……。胸がチクリと痛む。
「そういえば旦那様、旦那様はアルバーン=テッドという方はご存知ですか?」
旦那様はまたも目を見開いた。
「テッドは私の友人であり仕事仲間だ。」
そうか。友人なのか。だからアルバーンさんはあんな砕けた雰囲気だったのね。
「何故アンネがテッドのことを……。」
「アルバーンさんにはお世話になりましたから……。」
「なんだって!?」
アルバーンさんが私を見つけてくれなかったら旦那様は私に会いに町に来てくれなかった。そうしたら私はやり直すことが出来なかったから……。
「旦那様にももちろん感謝しております。でもアルバーンさんにもとても感謝しているんです。今度お礼をしたいので、是非ともお会いしたいです。」
「お礼だって!?」
アルバーンさんには怒られたけど何でもしますと言っちゃったからなぁ。こっちの世界のアルバーンさんにも何でもしますと言ってあげよう。
なんだか考え込んでる旦那様を置いて、食べ終わった私はお先に部屋に戻った。
本を読んでいたらすっかり夜になっていた。……こうやってゆっくり本を読めるなんてもう1つの世界では考えられなかったことだわ。
「アンネ様、今日はお酒飲まれますか?」
「いえ、いいわ。要らない。」
正直寝るのが怖かった。目覚めてまたあの世界に戻ってたらと思うと……。
「アンネ様大丈夫ですか?顔色が……。」
「大丈夫よ。……ねぇリネ、貴方少し時間ある?少し話したいの。」
リネは一瞬驚いた顔をしたあと微笑んだ。
「私はアンネ様付きのメイドです。アンネ様が望むなら一晩中一緒に居ますよ。」
「ふふ、少しでいいわ。」
「ホットミルク持ってきましょうか。」
「そうねお願い。リネ、貴方の分もね。」
「!!……はい!」
リネは急ぎ足で厨房へ向かった。




