蝕むのは白い悪魔。
「どうして…どうしてよ!」
翌朝。私は変わらず小さいベッドで目を覚ました。
隣のベッドにはジョンの姿は無かった。…どうやら昨日は帰ってこなかったようだ。
「なんで…私昨日、ちゃんと星を飲んだわ。どうしてやり直せないの?お願い…お願い誰か助けて…。」
私がベッドの上で泣いているとドアがノックされた。
「アンネさん?居ないのですか?」
コリーだ。
「アンネさん?あれ鍵が空いてる…ってアンネさんどうしたんですか!?」
私の姿にコリーは驚いて近づいてきた。
「コリー…、ジョンがね、アヘンを使っていたの…。」
私の言葉にコリーの顔色が青くなる。やっぱり知っていたんだわ。
「やっぱりコリーも知っていたのね!どうして教えてくれなかったの!」
「申し訳ございませんアンネさん!でも、ジョンも痛みを抑えるために仕方なく…。」
「わかってる!わかってるわ!でも…それでも…!」
ジョンのあのやつれ方はアヘン使用者のそれだったわ。ああ、どうして気づかなかったの私…!鈍感だった自分に腹が立つ。
「アンネさん落ち着いてください…!」
「そもそも何故ジョンは危ない鉱山で働こうとしたの!?鉱山で働かなければ…!」
「アンネさん…!」
「庭師になっていれば、こんな事になってなかったじゃない!」
「アンネさん!何故貴方がそれを言うんですか!」
突然のコリーの怒鳴り声に私は口を噤んだ。
「庭師になっていれば…?なれなかったのでしょうジョンは!貴方のお父様が庭師協会に圧力をかけて、ケリーさんとジョンから庭師の仕事を奪ったんでしょう!」
「え…?」
私はコリーの言葉に呆然とした。お父様が圧力を?庭師にはもうなれないから…あの時のジョンの言葉はそう言う意味だったの?
「アンネさん…?もしかして知らなかったのですか!?」
申し訳ございません!とコリーは何度も頭を下げた。
「いえ…いいのよ。…全て私のせいだから。全て私のせいなの…。」
「アンネさん…!決してアンネさんのせいでは…。」
「本当にこうなると思ってなかったのよ…。私はただ…ジョンが好きだっただけなの…。」
「アンネさん!あの…!」
「お願いコリー、1人にして。お願い…。」
コリーは何度も頭を下げると静かに去っていった。
まさかこんな事になるなんて…。私が巻き返したせいで運命の輪が狂ったのかしら。私の好きだった人達が皆不幸になってしまった。
「不幸なのは…私だけで充分だわ。」
私は顔を洗うと着替えて町へと繰り出した。
********
「おや、久しぶりだね。」
スージーさんが声をかけてきた。最近はあまり食事を取らないのでお店にも頻繁に行かなくなったのだ。
「お久しぶりです、スージーさん。」
「大丈夫かい?なんだかまた痩せたような。」
「大丈夫です!ではすみません、私急ぐので!」
何か言いたげなスージーさんを置いて私は広場へと歩いて行った。
「すみません、ロンドンには行かれますか?」
私は広場にいる商人に片っ端から声をかけていた。
「ロンドンに行きたいのかな?」
聞き慣れた声に振り向くとアルバーンが馬車から降りてきた。
「アルバーンさん、ごきげんよう。」
「久しぶりですね。なんだか痩せたみたいだ。まぁ美しさは変わらないけれど。それより君、ロンドンに行きたいのかい?」
「ええ、アルバーンさん、ロンドンに行かれますか?行くのなら連れてって貰いたいのです。…お礼なら何でもしますわ。」
「何でも!?そんなことを言わない方がいいですね。貴方みたいな美しいレディがそんなことを言うと…あまり良くないことも考えてしまうから。」
何故かアルバーンさんは顔を赤くして答えた。
「私は本気です!」
「…なんだか凄く焦っていますね。ただ申し訳ないけど私はロンドンに行く予定は無くて。」
「そうですか…。」
「だけど私は英国紳士だから優しいうえに顔が広い。ロンドン行きの貴族がいないか探しておいてあげますよ。だから他の男にお礼は何でもしますとは言わないように!」
あ…アルバーンさん!と引き留めようとしたが急いで馬車に乗って行ってしまった。
「……とりあえず今日は帰ろうかしら。」
ジョンが帰ってきてるかもしれないし。私はジョンのことが心配になり家に帰った。
「ああ!アンネ!良かった!」
家に帰るなりジョンは私に抱きついた。
「ジョン…良かった…帰ってきてたのね。」
「ああ、昨日はすまなかった。それにコリーのことも…。」
「コリーのこと?」
「酒場に居たらコリーが泣きながら俺に言ってきたんだ。アンネを傷つけてしまったって。私じゃどうにも出来ないからジョンが助けてあげてって。」
「そう…私なら大丈夫よ。…ジョン、コリーから聞いたの。お父様が庭師協会に圧力をかけたって。…本当にごめんなさい。私は貴方から家族も仕事も奪ってしまったの。」
「…そうか、コリーから聞いてしまったのか。いや、いいんだ。俺にはアンネさえ居れば…。アンネ、君は今幸せかい?」
「……ええ。もちろん。ジョンは?」
「俺もだよ。」
ジョンの唇が私の唇と重なった。―その時だった。
「ぐっ…!」
「ジョン?」
ジョンが苦しそうに胸を抑えながら前屈みに倒れ込む。
「ジョンどうしたの…きゃぁ!」
ジョンは大量の血を吐くとそのまま倒れてしまった。




