嘲笑う満月に安らぎを。
「じゃぁ今日も行ってくるね。」
あれから数ヶ月が経ちジョンがうなされることは少なくなった。良かったと思う反面、やつれてきたジョンに私は不安が募るばかりだった。
1度ジョンにそう告げたらアンネだって痩せてきてるじゃないかと言われてしまった。私はダイエットよ、と誤魔化したけど…。
「ねぇ、コリー。ジョンってどんどん痩せてるわよね?」
手伝いに来てくれていたコリーに聞いてみるが、そうですかね?仕事で痩せてるんじゃないですか?とはぐらかされてしまう。コリーは何か知ってるのでは。私はコリーの態度にも不安が募ってきていた。
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そんなある晩のことだった。
寝室に行くとベッドの脚にズボンが絡まっている。
「あら、ジョンってばズボンを出し忘れてたのね…。」
ベッドの下から出てきたズボンを洗濯籠に入れようと持ち上げた。と、ポケットから何かが落ちた。
「なにこれ…?え…?」
「アンネ、先輩からジンを貰ったんだ。良かったら一杯…。」
ジョンは私が手にしている白い粉を見て顔を真っ青にした。
「ジョン…。これってアヘンよね?どうしてジョンが?」
「アンネ!それは…!」
「ジョン!どういう事か説明して!」
「アンネ…すまなかった。」
ジョンは力無くベッドに座るとぽつりぽつりと話し始めた。
「後遺症で足がまだ痛むんだ。日常生活にはししょうがないけど仕事となると…それに…。」
ジョンは泣きそうな顔をした。
「怖いんだ…。まだあの事故が忘れられない。鉱山に入る度にまた落盤事故が起きるんじゃないか、今度はガス爆発も起きたら…そんな事ばかり考えてしまって足がすくんでしまうんだよ。」
「ジョン…!」
「でもアヘンを取るとそんな痛みも恐怖も安らぐんだ。皆も使ってるんだ。アヘンさえあれば徹夜だってできるぐらいだ…!」
「でも…アヘンは危険よ!取り続けたら…!」
「そんなことわかってる!でも俺は働かないと!俺は…アンネにこんな思いをさせたくて一緒になったんじゃない!」
「ジョン!私は幸せよ?何も不満なんて…。」
「嘘だ!こんなに痩せてしまって…!」
「痛いっ!」
ジョンが強く腕を引っ張ったため私の腕に痛みが走った。
「ごめん!アンネ!…ちょっと頭を冷やしてくる。」
ジョンはそう言って家を出て行ってしまった。
「私は…皆を不幸にしてしまった。大好きだった皆を…。違うの。私はこんなつもりは…。」
ただ、ジョンと幸せになりたかっただけなの。どうして私は幸せになれないの…?
涙で景色が霞む。ぼやけた視界には大きい満月が私を嘲笑うかのように輝いていた。
「満月…!そうだわ!」
私はグラスに水を入れると星を映し出した。
そして―。
「お願い、全て戻して。もう1度やり直させて…。」
星の入った水を一気に飲み干した――。




