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焦げたクッキーは愛の味。


スラッとした背丈、華奢でありながら逞しい背中、そしてなによりこのサラサラと靡く美しい銀髪は―。

忘れたくても忘れられない昔の旦那様だ。

「へ……ヘルバーツ公爵様!!何故こんなところに!」

領主様が慌てて頭を下げる。領主様につられて周りの町民達も頭を下げる。

「フリン伯爵。この騒ぎはなんだ。」

「申し訳ございません!この平民が私を愚弄しまして……!」

「そうか。……私には伯爵が町民に対して圧力をかけてるようにしか見えなかったが。」

公爵の黄金の瞳に睨まれて領主様はただオロオロすることしか出来ない。

「伯爵、私の耳が悪くなければこの少年の手を切り落とすか農作物の納品を増やすか迫っていたように聞こえたが……気のせいか?」

「気のせいです!そんな命令はしてません!」

「そうか。なら納品量は変更無しだな。」

公爵様がそう言うと町長は泣きそうな顔で安堵していた。

「さて、見世物では無い。」

公爵様はそう言って人払いした。領主様はそそくさと自分の馬車へと走って行った。


「……………。」

無言で公爵様が私の方を向く。まだ18歳ぐらいで見た目はあどけなさが残るが、美しさのせいか威圧感が凄い。まさか……また会うなんて……。過去に戻ったら関わらない人物だと思ってたのに。

「あの……助けていただきありがとうございました!」

私は急いでお礼を言うと走って家に向かった。

「あ!ちょっとアリスさん!」

まだ隠れていたコリーを置いて。




***********


「もう!置いてくなんて酷いです!」

私は家に帰るなり自分を落ち着かせるため紅茶を入れた。置いて行ってしまったコリーにも出してあげる。

「ごめんなさいね。ちょっと気が動転してて……。」

「そうですよ!まさかアリスさんがあの場で出ていくとは!」

今のアリスさんは平民なんだから気をつけてください!とコリーに釘を刺される。そうよね…平民が貴族を罵倒するなんて処刑されてもおかしくないわ。

「そうね……ちょっと貴族がまだ抜けなくて。」

「もう!あの公爵様が止めに入らなかったら今頃大変なことに……!でもあの公爵様本当に素敵でしたよねぇ。」

うっとりしているコリーを放っといて私は考えていた。何故あの場に旦那様が?いや、深く帽子を被っていたこともあり私だと気付いていないはず。きっと仕事関係で来たのだろう。うん、きっとそうだ。

そもそも私がアンネだと気付いたところで旦那様は特に関心も無いだろう。だって彼はカモフラージュのお飾り妻が欲しかったわけで、男と駆け落ちした令嬢なんて結婚相手に真っ平御免だと思う。


紅茶を飲み終えたコリーはその後夕飯作りも手伝おうとしたので丁寧に追い返した。

ついでにコリーにスージーさんからいただいた野菜をいくつか持たせてあげた。



********

「ごちそうさまでした。」

夕飯を食べ終えて食器を洗う。

「大丈夫?洗い物なら俺がやるよ。」

「大丈夫よ。ゆっくりしてて。」

ジョンは私には言わないけど重いものを持ったりして節々が痛むみたいだ。あとでペパーミントオイルでマッサージでもしてあげようか。お店で買えないから私が作った簡易的なオイルだけど……。


コンコン。

あれ?こんな遅くに誰だろう。

代わるよというジョンに残りの洗い物をお願いして私はドアに向かった。

「はい!あっ……昼間の……。」

ドアを開けるとそこには昼間の少年とお母さんが気まずそうに立っていた。

「あの……今日はありがとうございました!ほら!あんたもお礼をして!」

少年はお母さんに言われて慌てて頭を下げた。

「貴方のおかげでこの子の手を切り落とされなくて済んだわ。納品量だって増やされなかった。……これ以上増やされたら私達生きていけなかったわ。本当にありがとうございました。」

「いえ、気にしないで。それに助けたのは私じゃなくてヘルバーツ公爵様よ。」

「ううん、貴方が声を上げてくれたから。それに……あの領主様に……ふふっ。」

女性は思い出して笑いだした。

「あの領主様にあんなにハッキリ言うなんて……聞いていてスッキリしたわ。その意味のお礼もあるのよ。」

「そうなの。一緒にいた子にはヒヤヒヤしたって怒られたけどね。」

「まぁヒヤヒヤもしたけどね。……あと今まで悪口言ってごめんなさい。私貴族って領主様ぐらいしか接したこと無かったから、皆嫌な奴だと思ってたの。」

「あの領主様と接してたら貴族嫌いになってもしょうがないわ。」

私が笑うと女性もつられて笑った。




「アリス、どうしたの?」

「うん、ちょっと昼間いろいろあってね。」

女性達を見送って家に入るとジョンが心配そうに聞いてきた。

「あの男の子を助けたのよ。そしたらお礼にクッキー貰ったわ。」

焦げているのも混ざっていたがなかなか上手くできたクッキーだった。

「一緒に食べようか。」

私たちは紅茶を入れると仲良くクッキーを食べたのだった。






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