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絡みつくは嫌悪の影。


翌朝、重い足取りで動き出した私。

「アリス、大丈夫?」

昨日食べたミートパイに当たってしまったのか食後お腹を壊してしまった。

「大丈夫よ。ミートパイ美味しかったし……。」

「やっぱりアリスには露店の物は合わなかったか。」

「そんなこと無いわ!大丈夫、ちょっとお腹が慣れない物を食べてびっくりしただけよ。」

そのうち慣れるからと言ってジョンを安心させる。というか慣れないといけないのよ!

「今日は夕方にペティさんのところに行くから……ジョニーは隣町に行くの?」

「ああ。庭師の売り込みをしないとな。アリスは家にいる?」

「ううん、私は町に……。」

本屋で料理の本を買わないと!

「わかった。1人で町は危険だから長居しないようにね。路地裏にはアヘンの売人や売春婦もいるかもしれないから絶対行かないようにね。」

アヘン……!政治の勉強で習ったけど私には関係ないとどこかで思っていた。

「ありがとう。気をつけるわ。」

私はブランケットで顔を隠すとゆっくり町に向かった。




「…………。」

歩く度にとても視線を感じる。ジョンと歩いていた時も感じたけど、今はもっと感じる。

珍しい物を見るような、嫌悪感が混じった嫌な視線。

”平民は貴族様が嫌いだから”

町長さんが言っていた言葉が頭に響く。

どうして貴族は平民に嫌われるんだろう。ノブレス・オブリージュ。結構意識してたつもりなんだけどな。


少し歩くと広場に出た。昨日のような酔っ払いは居なくて安心した。やっぱり昼間は居ないのね……パブは開いてるみたいだけど。昼間とは思えないほど賑わっているパブを尻目に私は本屋に入った。

本屋は私が思っていたよりずっと種類が少なく、埃が積もっている商品もあった。歴史の本などは全くなく、新聞などの生活がわかるような物ばかりだった。平民は生きてくのがやっとだから、勉強はなかなか出来ないのです。だから貴方は恵まれているんですよ、と口うるさく言っていた先生の言葉の意味がわかった気がした。

2冊料理の本を買うと次は本に書かれていた食材を買う。野菜を売っている店へと急いだ。


「いらっしゃいませ……おやおや、珍しいお客様だねぇ。」

店員のおばさんは私の顔を見るなり目を丸くした。

「ここには旅行にでも来たのかい?何にもない町だけど……。」

「いえ、こちらに住むことになりまして……。」

私がそう言うとおばさんはさらに目を丸くした。

「えっ!こんな寂れた町に!?よりによってなんでこの町に……。」

私が返事に困っているとおばさんは何かを察したのか「いやいや、ごめんよ。貴族様にもいろいろあるんだね。」と話を切ってくれた。

「それで今日は何が欲しいんだい?」

「えっと、じゃが芋と人参とレタスに……あとウインナーありますか?」

「ごめんよ、お嬢さん。うちは青果屋さんだから肉は売ってないんだ。肉ならあっちのお店にあるから。」

おばさんはそう言って斜め後ろを指さした。

「分かりましたわ。」

私がお金を出そうとしているとやり取りを見ていたらしい女性達がクスクス笑った。

「嫌だわ。青果店でウインナーを買おうとするなんて。」

「貴族様だから自分で買い物なんてした事ないんだよ。」

「まぁまぁ良いご身分だこと。」

私がチラリと見ると女性達はそそくさと立ち去った。

「……気にしないでお嬢さん。ここは貴族が嫌いな平民が多くてね。……領主様があまり良い人じゃなくて。」

「領主様が……?」

「ここは見ての通り寒い土地だから作物が出来にくくてね。鉱山も無いからお金になる物が少なくて。でも領主様はそんなことお構い無しに税を納めとうるさくて。」

「そう……。」

「あ、ごめんよ。こんな話をお嬢さんにしてしまって。貴族が全員嫌な奴とは私は思ってないさ。ほら、新生活祝いにつけておくよ!」

おばさんはそう言ってレモンを袋に2つ入れてくれた。

「ありがとうございます!」

「とんでもない。私はスージーって言うんだ!ご贔屓にね。」

スージーさんにお礼を言ったあと向かいの店でウインナーを買い家に帰った。



********


ここの領主様って誰なんだろう……私の知ってる人だろうか。もし知ってる人なら会わないように気をつけないと。

とりあえずお昼を作らないと。私は家に置いてあった調理器具に向き合った。

「ここの前の住民は料理をしなかったの?それとも長い間空き家だったのかしら。」

フライパンや鍋には見事に蜘蛛の巣が張っていた。

私がブツブツ文句を言いながら調理器具を綺麗にしているとジョンが帰ってきた。

「ジョニー!おかえりなさい!」

笑顔で出迎えたもののジョンの顔色は少し悪かった。

「ジョン?何かあった……?」

「いやぁ、隣町、専属の庭師が居るとかで断られちゃって……。上手くいかないもんだなぁ。明日はもっと遠くまで行ってみるよ。」

隣町……そこまで大きい屋敷は無かったけど専属の庭師を持つ貴族だったのか。

「それよりご飯を作るのか?」

「ええ!寒いし今日はポトフという物を作ってみようかと思って!」

鍋を綺麗にした私はじゃが芋の皮を剥こうとして……指を切った。

「痛い!」

「アリス!?」

白くて細い指から血が滴り落ちてくる。

「ごめんなさい……包丁使ったことなくて。」

包帯を巻いてくれてるジョンに謝る。

「知ってるよそんなこと!アリスは座ってて!」

「大丈夫!私だって出来るんだから!」

私もやる!と何度も言ったけど、ポトフに指を入れられたら困ると言われた私は大人しく味付けやその他の手伝いをした。

初めての料理は凄く時間がかかり味もそこそこだったけど、ジョンとの料理は本当に楽しかった。




******

夕方、ペティさんのところに行った。

「組み立ては家でやるから。家はどこだい?」

ベッドの部品とペティさんを連れて家に戻ると直ぐに組み立てを始めてくれた。

そして1時間ぐらい経ったころ、小さくて素朴なシングルベッドは完成した。

「ありがとうございました。」

私は銅貨を払う。

「せっかくですし、紅茶はいかがでしょうか?」

「紅茶?要らん。帰ったらジンを飲むんだ。」

「ジン?」

「安いお酒さ。平民たちはジンが大好きなんだよ。安くて酔えるからなぁ。」

ペティさんは上機嫌で帰って行った。


「そっか、アリスはジンを知らないんだね。俺のお父さんはよく飲んでたけど……。」

「お父様はワインかブランデーしか飲まなかったから。」

「……そっか。」

ジョンは少し、困ったような顔で笑った。


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