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[エピローグ]

「…くそぉ…くそぉ…」

 去っていく[カラーバーン]を遠目に見て、[菓子団]のカラーヤたちは地面を殴った。

「また…また。純・カラーブックの好きに…」

 あるカラーヤは呆然とし、

「私たちの、生活を…壊された」

 またあるカラーヤは悲し気に目を伏せ、さらに他のカラーヤは。

「…どうして、こんな仕打ちをされるんだ…僕たちはただ」

 カラーヤ達は思う。

(ただ…幸せでいたかったのに…)

 結局はそこだった。

 豊かさも何もかも、全ては幸せというものへと繋がる。

 彼らはそれを壊され、打ち砕かれたがゆえに、純を憎んだ。

 同時に苦しみ、悲しんでいる…今もだ。

「…あぁ」

 彼らはただ、空の彼方へと消える[カラーバーン]を見送ることしかできない。

 どうしようもない現実の中、どうしようもなく、そうしているしかなかった。

 …そして。チョコはそんな彼らの様子を、[カラーバーン]の窓から見ていた。

(すみません…)

「……」

 背後で音がする。

振り向けば、広くはない箱型の、乗員用のスペースの中がある。そしてそこには、無邪気な笑みを浮かべ、純や粋、[カラーズハート]にじゃれつく二人の子どもの姿がある。

「…」

 苦しみから解放された二人はただただ幸せそうで、その笑顔を見ていれば、今回のことはただ良いだけの事のように思えた。

 だが、そうでないことを、チョコは知っている。

(よりどころにするような絶対的な正しさなんてない…)

 あるのは、正しくて間違っている、間違っていて正しい、そんな現実だ。

 どうしようもない、今なのだ。

 それを彼は、よくわかっていた。

「……」

 そんな彼の元へ、子どもたちを粋に任せた純が歩いてくる。

「…チョコ」

 彼女は多くを語らず、チョコの傍らに立つ。

「……」

 彼は、もう二度と足を踏み入れることはないであろう島と[天塔]を再び見つめる。

 だが、[カラーバーン]が羽ばたき、加速していく毎に島の景色は離れていく。

 まるで、以前というものを置いていくように島は遠くなり、ついには見えなくなる。

「…全て、変わってしまいましたね」

(そして私は、全てを知った)

 チョコは思い出す。

 純の真意や、[色抽出機]の真実。カラーヤの生活のことや、色神の苦しみ。

 [染逆鉾]のない今。豊かではない現在。そしてルパイから教えられた、全ての原因であるキャンバスなど。

 以前は知らなかった多くのことを、彼は胸の内に持っている。

 視野は広がり、知識は増え、心は変わった。

 もはや、かつての彼ではない。

 それゆえに、今までのままでいることはなく、彼にはこの先何かの道を歩まなければならなかった。

「…チョコ」

 純はそんな彼に、一つ問いかける。

「…ね。チョコは、これからどうする?」

「……純」

 彼女は心配そうにチョコを見つめる。

 沈黙していた彼が、思い悩んでいると思ったようである。

 実際、それは当たっていた。

「…行く当てがないなら、このまま私たちのところに連れてくし。何をしていくか分からないなら相談に乗るし。こうなっちゃったのは私のせいだしね。できるだけのことはするよ?」

 純は申し訳なさそうに、だがそれによって俯いたりすることはせずに、はっきりと言う。

 彼女の思いやりが、言葉と態度にはっきりと表れる。

 それを受けたチョコは少し温かい気持ちになり、

「…純。ありがとうございます」

 そう、返す。

「…うん」

 そこで会話は途切れる。

 少しの間、沈黙が二人の間に横たわった。

「……」

「……」

 おそらく、一分ほど無言の時間が続いた頃だったであろうか。

 チョコはふと、口を開く。

「これから…ですか」

「……何か、決まったの?」

 純のその言葉に、チョコはゆっくりと首を左右に振る。

「…いえ。まだ、結論は出ません」

 [色抽出機]の真実を知った時から続く心の惑い、迷いは、未だ解決せず心の中にある。

 これからをどうするかという問いが、胸の中にある。

「…場当たり的なもの以上の、何かを決めることは…まだ。私には」

「…チョコ」 

 純はそこで、何か言葉をかけようとする。またどうしようもなくなっているように見えた彼のために。

 だが、チョコは言葉を止めなかった。

「…だけど、なんですよ。私一つやろうと思うことがあるんです」

「やろうと、思うこと?」

「はい」

 …それは。

「…しっかりと考えて行こうと思います」

 すぐに答えは出せない。

 だが、本当に全てを知った今、考えることはできる。

「純のようにするか、それ以外をするか、キャンバスについて調べていくか。私がどうするか、どうしたいか、しっかりと…」

 キャンバスのことを含めた全てを最後に教えてくれたルパイは、そうするように言った。

 そしてチョコは、もはや共に入れない恩人の最後の助言を、聞き入れたのである。

「…ゆっくりでも」

 ゆっくりでもいいから。全てを知ったうえでどうするかを考えていく。

 様々なことを思い、様々な他者のことを思って。

 それが、今のチョコの中に唯一ある事だった。

「…そう」

 純は微笑し、

「…じゃぁ、じっくり考えて。それまで、私たちの[天塔]にいてもいいから。いつか、答えの出る日まで」

「…ありがとうございます」

 チョコは純をそう言い、窓の外、もはや微かにも見えない島の方角を見る。

(…考えていきます。いつか結論を出せるように…)

 そう心の中で言い、チョコは窓に背を向けた。

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