【超短編】救世主ジジイ
わしの名は椎名権三、80歳。昔はヤンチャしたもんだが、嫁ができ子も産まれ随分丸くなったと自分でも思う。
「あなた、隣の杉山さんから救難信号よ!」
このババアは時子、わしの嫁だ。わしが昼寝をしていると死んだと勘違いしてその場で火葬しようとするお茶目っ子。10も年下のくせにわしよりボケている。
「こんの朝っぱらから救難信号とは、杉山のジジイは何をやっとるんだ!」
「なんでも隣町の銀行に強盗が入ったらしくて、そこに向かったら返り討ちにあったみたいなの。」
「腰が悪い癖にでしゃばるからそうなるんだ!」
「とにかく現場に向かってちょうだい!」
「……チッ」
面倒だが仕方ない。わしは素早くコスチュームを身にまとい、現場へと駆けた。
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「おいてめぇら!大人しくしやがれこの腐れ一般市民が!!」
強盗の1人が天井へ向けてショットガンを放つ。
バァン!という音と共に白い天井に複数の穴が空いた。
「うあああん!怖いにょおおおおお!!」
「ガキコラ!うるせえぞカス!」
「すみませんすみません!」
母親と思われる女性が子供を必死でなだめている。
「ババア!母親なら子供の躾ぐらいしとけやボケが!」
「すみませんすみません!」
「すみませんじゃあねぇーんだよ!オラ!」
強盗が女性に向けて拳を振り上げた瞬間。
「とぉーーーう!!」
「ぐぎゃあ!」
窓から謎の男が飛び出し、強盗をそのぶっとい足で蹴り飛ばした!
「うわぁー!」
強盗はそのまま壁を突き抜け見えなくなった。
「行先は留置所だ」
「あっあの方向は警察署か!くそーやりやがったな!」
「人の稼いだ金で自らの欲を満たすなど度し難き所業。このイエローパンダが殴る!!」
「まっまさか!あの黄色い目出し穴が黒く塗られた頭巾は!イエローパンダ!!引退したんじゃなかったのか?!」
「しかし我々はストームチャイルドを捕まえた!こんなジジイ余裕だ!!」
「権三じいさん!来てくれたか!!」
「本名で呼ぶんじゃないわ!返り討ちにされおって情けない!」
ストームチャイルド、もとい杉山が手足を拘束され床に座らされている。
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「喰らえ必殺ショットガン!」
フン、ショットガンなぞ効かんわ。
身体を高速で動かしその散弾を全て躱した。
「何だとぁ!」
「弾丸?発砲後回避余裕だ」
「クっこうなったら!」
「させんわ!」
ベルトの右側のポケットを開き、取り出したアイテムを強盗に投げつける。
「喰らうがよい!卵の黄身!」
「ぐああああああ!丁寧に白身を分けているだとおおおおお!!」
強盗は気絶し、その後1週間目を覚まさなかったという。
「貴様で最後だ小僧、神妙にお縄につけ!」
カウンターに隠れていた強盗を指さし、最後の警告をする。
「クククククソゥ!!」
最後の強盗は大きなバッグを二つ抱え、出入口へ走った。
「ふぅ…愚かな」
既にわしは出入口に"アイテム"を置いておる。
強盗が自動ドアを抜け、床に撒かれた白米に足をつけてしまった。
「ギャア!炊きたて…ホカホカ…でごぜぇます…」
最後の強盗が気絶し、わしの仕事は終わった。
「おいストームチャイルド、みっともない姿だのお」
「早く縄をといてくれんか権ぞ…イエローパンダのじいさんや」
わしはポケットに手を入れ、あるアイテムを取り出し、杉山に向けた。
パシャ
「おあっやめんか!」
「ぎゃはは!」
インスタントカメラ、孫がよくわしを撮るもんだから影響されて買ってしまったがなかなか悪くない。
「おや」
遅れて警察がやってきた。全く今更来るなどそれでよく国の番人を名乗れるものだ。
「さて、わしは帰るとするかのう」
「ありがとう!イエローパンダ!」
「助かりました!」
「ありがとうおじいちゃん!」
「聞こえんのう、わしゃ最近耳が遠いんだ」
そのまま出入口を通り、帰路に着いた。