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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第二章 『トラスブル』
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第008話 なやみどころ

第008話 なやみどころ


 フラウは今日は午後から半休をもらい、ビアンカと夕食を共にしている。魔女狩りの噂を聞いたこともあり、どんなものだろうかとビアンカに話を聞いている。





 魔女狩りは大都市ではおこらない。魔女狩りというのは、「魔女が悪さをした」という訴えを下級裁判所に提訴する者がいるから始まる。トラスブルの裁判所でそのような訴えを受理することはまずない。


 下級裁判所は、各領地に存在し、その裁判所の裁判官は……その地の領主やあるいは有力者が務める。小さな村社会・街においては、その裁判所が訴えを認めた時点で刑罰が確定したようなものである。


 訴えられるのは、その街や村で厄介者扱いされる老女や寡婦がほとんどであり、下手をすると家族あるいは親戚が訴人であったりする。要は、嫌がらせあるいは意趣返しのようなものである。


 中には、祖母に小言を言われたのが腹立たしく、孫娘が祖母を「魔女」として訴え、受理された事もあるという。世も末だ。


「まあ、鉈や斧で頭カチ割られるよりましだがな」

「……どうかな。いっそ、一瞬で死ねる方が良い気がするよ……」


 家族や親戚から疎まれ訴えられ、牢に囚われ尋問・拷問の末裁判で晒しものになり、やがて公開処刑されるのなら、頭カチ割られて死ぬだけの方がましという考えも判らないではない。


「かわいがってもらったこともあったでしょうにね」

「まあ、子ども扱いすんなってこったろうな。価値観が揃わねぇと魔女のように思えるというのも判らないではない」


 魔女とされる中には、昔から伝わる「まじない」のような者も含まれる。気休めであろうと、それで気分が良くなり体調が回復することもある。病は気からというではないか。あるいは、毒も使い方によっては薬となる。身近な草花が薬となり、あるいは使い方や容量を過ぎれば毒となるという事もないではない。少量なら薬、多すぎれば毒となる。酒などもそうだ。


「魔女狩りをやめさせることは難しいな。あれは流行だ」

「流行?」


 歴史的に見れば、「流行」することは沢山ある。托鉢修道士が始まった時代、身分を捨て家族を捨て仕事を捨て財産を捨て行動を共にする人たちが修道士に付き従ったことがある。


 あるいは、枯黒病が大流行した時代、自らを鞭打つ苦行をする修道士が多くの信者を引き連れ旅を行い、その先々で新たな信徒を得たこともある。


 その移動経路と病の流行が一致したという笑えない記録もある。


 今の生活が嫌になり、すべて投げ出したくなったからかもしれない。


 しかし、その手の行いと「魔女狩り」は全く性格を反対にする。自らは何も捨てずに他者を害する行いなのだ。それも、言いがかりをつけ、よって集ってである。


「ろくなもんじゃないよね」

「人間なんて、碌なもんじゃねぇ」

「半分人間だったりすると多少マシなのかな」

「さあな。人間じゃなくても碌なもんじゃねぇのは沢山いるぜ」


 どうやら、魔女狩りの訴えが頻発する領地は、その訴えを面白がって受理する裁判所の判事なり、領主のいる場所であるという。


「それで、領民が大人しくなれば儲けものってことなんだろうな。この辺の領地は小さいところが多いし、傭兵崩れに襲われたり、不作が続いて困窮したりするところも多い。農民に逃げられるくらいなら、何人か私刑紛いの裁判を起こされてもいいかってことなんだろうぜ」


『魔女』扱いされるのは、所謂弱者であり、護ったところで税が増えるわけでもない。自分の懐を傷めない懐柔策、パンとサーカスなら「サーカス」の無料配布といったところだろうか。


 人口は増えたが農地が増えたわけでもないし、収穫量が増えるわけでもない。増えた人間を喰わせることができないのだから意味がない。戦争でもあれば男が出ていき、傭兵と行動を共にする女子供も出てくる。皇帝があちらこちらに遠征した時代は、そうした人の使い途もあったが今しばらくはない。


 片田舎の小領地や、停滞している古い中小都市において魔女狩りが発生しやすいのは、その辺りに理由がある。


「魔女狩りを狩るっってもよ。領主もぐるなんだぜ」

『領主も狩っちゃえー』

『首刎ねちゃえー』


 その街や村から逃げ出せるはずもない。人生の全てがその矮小な街や村にあるのだ。その場所を離れて生きていけるはずもない。


「なんかいい方法があればいいんだけどねー」

「まあ、領主の首を刎ねるのはやめておけ。意味がねぇ」


 ビアンカに窘められ、フラウはそれはそうかと一先ず理解する。恐らく祖母なら「元の場所に戻してきなさい」と拾った捨て猫のように言うだろう。魔女狩りで処刑される人は一人二人ではない。何百人といる。それも帝国のあちらこちらでである。


『魔女』の加護持ちだからといって、魔女呼ばわりされる存在を助ける理由にはならない。


「まあけど、お前の婆さんはともかく、『魔女』呼ばわりされる女には大体共通点がある」


 ビアンカ曰く、敵を作りやすい性格であったり、孤立している者が魔女扱いされ処刑されるのだという。人とのつながりが希薄であれば、庇う者もおらず、簡単に魔女扱いされることになる。逃げる場所もないだろう。


「そう聞くと、厄介なことにしかならなさそうだよね」

「そうだな。傭兵でもよぉ、腕っぷしが強くても孤立している奴は大概早く死ぬ。背中に目はねぇし、人間年中無休で四六時中警戒しているわけにもいかねぇしな。冒険者もパーティーメンバーってのは大切だが、傭兵も相棒は大切だ。背中を預けられるような奴がな」


 フラウが今働いている在郷会やそれに似た職業ギルドなども同じだろう。確か、ギルド員になるには二名以上の推薦が必要だったはずだ。付け届けでなんとかなるかもしれないが、紹介者としても自分の名を貶めるような者を推薦しようとは思わないだろう。


「魔女狩りの被害者にも問題があるって考え方は理解できるけど好きじゃないよ」

「まあな。ほとんど言いがかりだし、性格に難があるからって、集団で貶めて殺していいってわけねぇもんな」


 とはいえ、人余りの地域で老女や寡婦に対した値打ちが無いというのもわからないではない。『まじない』が多少使えたとしても、フラウのような加護持ちの者はほとんどいないだろう。いたとしても、少なくとも周囲の人間とそれなりに「上手くやる」ことができる。


 嫌われ疎まれ害されることは考え難い。


「逃げる先を考えるくらいはできるかもな」

「えー どうするのさ」

「まあ、宛はある。が、そんなこと今お前が考えても仕方ねぇ。魔女呼ばわりされる性格悪いババア達を集めて何かするって……考えられるか?」


 考えたくない。


 不幸なこと、生まれ育ちの悪さで人間歪むと言うことは往々にしてある。結果、嫌われ者になるのも判らないではない。が、それを何人も集めて何とかするというのは……どうもならない気がする。ならないよね!!


「魔女狩り隊をこっそり討伐する程度なら、まあ、できなくはない。あいつらも刑吏のような役割だが、公職じゃねぇ。人攫いと似たようなもんだから、盗賊扱いに出来なくもねぇ」


 下級裁判所の刑吏ならよろしくないが、人攫いの傭兵扱いなら「自力救済」の範囲となる。つまり、殺された方が悪い。


 故に、フラウの祖母を襲撃した『魔女狩団』達が返り討ちになったとしても、自業自得と言うことになる。そもそも、反撃したのは祖母の家の客である冒険者ビアンカ。身分的には貴族に匹敵し、下級裁判所で判決が下せる存在ではない。決闘でも自力救済でもどうとでもできる存在なのだ。


 普通の農民の寡婦・老女はそんなことはできない。


 自身にはどうすることも出来ないことに悩むフラウに、ビアンカはあきれた様子なのだが、捨て置くわけではない。


「策が無いわけじゃねぇ。だが、今のお前じゃ役に立たねぇ。少なくとも星二の冒険者になるまでは、俺の案を話すつもりはねぇ」

「あるんだ。魔女狩り対策」


 星二の冒険者は自身で討伐依頼・護衛依頼を受けられる「一人前」と見做される等級になる。とはいえ、いまだ見習である十二歳のフラウにはまだまだ先の話である。少なくとも、十五歳以上でなければ星二にはなることができない。成人年齢に達することも一つの条件なのだ。


「まだ三年もあるね」

「その前に、ド・レミ村にも行かねぇとだろ」

「……そうだね……」


 祖母の師匠である錬金術師の元を訪れる為に、トラスブルで冒険者登録をして実績を積んでいるのだ。星一になって、ある程度自衛ができ、冒険者として活動できるようになれば、街から街への移動も可能となる。見習のうちは、登録したギルドのある街の周辺で雑用仕事をする以外、依頼の受けようも実績を重ねることも出来ないからだ。


「このまま実績を積んで、見習脱出が当面の目標だ。忘れんな」

「うん」


 雑に頭をガシガシと撫でられ、ちょっと嫌そうな顔を作るフラウ。妖精たちも調子に乗って一緒に髪をくしゃくしゃにする。爆発したような髪形になり、ビアンカは爆笑する。


「ぶははははは!!!」

「やめてよぉ」


 頭の上を手で払い、フラウはせめてもの抵抗を見せるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌日、フラウが厨房長の命で食材を頼んでいる店に遣いに出ていると、貴族街と商店のある通りの間辺りで、少女が数人の貴族風の男性に絡まれているのを見かけた。


「や、やめてください!!」

「子供がこんな場所で一人でいるのはいかん。この私が、保護してやろう」

「失礼な!! 私はこれでも成人しているのですぅ!!」


 茶色いクリクリ癖毛がトンガリ帽子からはみ出している。黒いローブに木製の杖をもつ少女。恐らくは魔術師だろう。


『あー歩人(ほびと)だー』

『めずらしーねー』


 歩人は成人しても子供のような容姿をしている。男性は髭もなく、余程の老人にならなければ童顔のままなので、子供と見間違える。女性も同じで、十か十二歳くらいの奉公に上がり立ての少女にしか見えない。


 素足を好み、足の裏にはたわしのような毛が生えているというが、少なくとも目の前の少女? は踝丈の半長靴を履いている。


「いいから、この方は****家のご子息様であるぞ。素直に話を聞け」


 よく見れば、先日、在郷会でフラウに絡んだ男とその連れのようだ。あの後、泥酔してフラウに絡んだことが紹介した貴族の家に伝わり、留学の話は白紙となったので在郷会館は追い出されている。


 どこぞの小領主の息子なので、地元に帰ったのかと思えば、どうやら別に宿をとって、まだトラスブルでフラフラしているようである。恐らくは、留学する事に失敗したと報告するのを先延ばしにしているのだろう。


「ちょっと止めて来るよ」

『やめときなよー』

『あぶないよー』


 とはいえ、魔術を用いなければ碌に対応できないだろう歩人の少女をそのまま見て見ぬふりをするのも面白くない。それに、ちょっとした意趣返しをしておきたいという気持ちもある。こちらは冒険者、あちらは貴族とはいえ余所者。なんとかなるだろうと思うのだ。


「こんにちは、どうかされましたか?」

「……ん!! お、お前!! お前のせいで私はァ!!」


 何かまくしたて始めたがフラウは聞き流す。どうせ大したことは言っていない。


「先日はボクに絡んで在郷会館を追い出され、留学の件も白紙になったというのに、昼日中からまた女の子に絡んでいるのですか……あなたは。ご実家に知られれば、どう思われるでしょうかね。変態幼女趣味を」

「!!!!」


 言葉にならない怒気を発し、貴族の子息は腰の剣を引き抜いた。フラウは手に天秤棒替わりの『羊飼いの斧』の斧刃を外した杖を構え、子息と相対するのである。




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