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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第一章 『森の庵』
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第005話 逃げ出す魔女

第005話 逃げ出す魔女


 フラウは村を出ることにした。村を出た『元村人』には幾つかの選択肢がある。街に留まるには金が要る。入場税もかかる。


 とはいえ、幾つかの職業に登録するとそれが多少融通される。


 商人や職人の見習になれば問題ないが、その場合、朝から晩まで住み込みで親方也主人のために働く必要がある。その代わり、衣食住が保証される。とはいえ、何らかの繋がり、例えば他の商人の子弟であるとか、親方が世話になった人間の親族といった者でなければ、下働きで終わる可能性が高い。


 親方の人数は限られており、商人もまた同様。当然、自分の子供や親族に継がせたい。赤の他人が職人になることは可能だが、一生下積みのままである。


 それが嫌なら、幾つか選択肢がある。


 一つは、「傭兵」になることだが、今のところ戦争はないので募集が掛かっていない。その前に冒険者登録をして実績を積むという方法がある。


 ビアンカと同行するのならばこれが最も良い選択になるだろう。狩猟ギルドに登録し素材採取や狩りの依頼を受けるというのも一つだが、冒険者よりも割りが悪い。定住向けの選択肢と言えるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 祖母の「師匠」とされるエルフの錬金術師。『ド・レミ』という帝国西方にある山村に住んでいるとか。今は王国に所属しているかもしれない。


 国を超えるにはただの村人というのでは問題がある。


「そこで、お前は冒険者になるっつーわけだ」

「何言ってるの? ちゃんと説明してよ」


 ビアンカの提案はこうだ。ビアンカは何を隠そう、有名な傭兵で「灰色の雌狼」という二つ名を持つ。傭兵は冒険者登録して戦争以外でも仕事が出来るようになっている。ランクは星四で、貴族との面会も直接できる高位の冒険者である。


「フラウは冒険者見習兼俺の従者ってことにする」

「なるほど。……どういうこと?」


 普通の駆け出し冒険者・登録しただけの星無冒険者は、登録したギルドのある街の外で活動することができない。ただし、パーティーに所属し、面倒を見る星三以上の冒険者がいれば「おまけ」として同行することができる。傭兵や騎士も従卒・小姓の類が必要であり、装備や馬具の世話をする雑用係を連れているからだ。


「つまり、ボクを連れて身の回りの世話をさせたいってことね」

「そ、そうじゃねぇよ。旅をするのにも冒険者は有利なんだよ!! 関所や入場税で金とられねぇしよぉ。それに、小姓なら同じ宿の部屋に泊めても問題ねぇだろ」

「はいはい」


 これまでも、祖母の庵の居候であるビアンカは、生活能力皆無であり、家事には全く手が付けられていなかった。やれば「破壊」しかねないので、触らせなかったということもあるのだが。フラウが毎日森の庵に通っていた理由の一つは、ビアンカの世話と祖母の庵を維持する為であった。





 ビアンカ曰く、あらかじめパーティー名を決めておく方が良いのだという。ビアンカ一人の実質パーティーなのだが、見習を入れるにはパーティーの形式を取らないといけない。


「名前? なんでもいいよ。ビアンカ隊とかでさ」

「ん? わかりにくいだろ。まあ、二つ名の灰色雌狼とかでもいいけどな」


 人狼ですと自ら告知していないでもない。


「フラウの要素も入れたいんだよな。人狼妖精とか」

「馬鹿ですか。討伐されたいんですか?」


『人狼』も『妖精』も挑発的な名称である。とはいえ、不可思議な力を得る為の象徴でもあるから、冒険者向きの呼称な気はする。が、気付く者もいるだろうから、余計なヒントを与える必要はない。魔女狩りにあいかねないのでやめておく方が無難だ。


「じゃあ、どんなのがいいんだよ」

「無難な……あ! 『森工房』とかどうかな」


 森の工房は、祖母の庵の異名。祖母は簡単な鍛冶や短弓のような武具、あるいは革の簡素な鎧なども手掛けていた。薬師・錬金術師・武具師・鍛冶師と色々な事の出来る人であった。


「故郷を思い出させる名前ってのは悪くねぇ」

「だよね。忘れないようにさ」


 二度と戻ることのないあの村。いや、将来的には戻りたいとは思う。時代が変われば、あの庵もただの山荘になるかもしれない。それまでは、妖精たちが『隠れ家』として守ってくれるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 フラウの住んでいた村から西に『黒森』を抜けると、小山の稜線を越えた先にはメイン川の上流にある都市『トラスブル』が見えてくる。


 メイン川は、山国を形作る大山脈を水源とした川であり年間通して水量も一定して多い。川の流れにより削られた平地が流れに沿って南西から北東に向け進んでいき、やがてメインツの街近くで別の南東からの流と合流することになる。


「結構、遠いね!」

「まあ、ニ三日はかかる。が、シュドアゲドの街には『魔女狩り隊』が壊滅した話は当然伝わっているだろうし、 ヴュルテンベルク公国の中に留まるのはいい考えじゃねぇ」

「だから、帝国自由都市に向かうんだね!」


 帝国自由都市とは、皇帝から直接自治に関する特権を受け取り、その対価として皇帝に税を納める都市である。近隣の諸侯はこれに対して干渉することは難しい。とくに、トラスブルは機械加工や出版で経済的な影響力が大きく、都市を運営する評議会の独立性も高い。


「それと、冒険者ギルドも大きい。隣は王国だし、北に行けばネデル・ランドルにも近い」

「確か、『ド・レミ村』も近いよね」


『ド・レミ村』とは、祖母の師匠にあたる錬金術師が住む村である。とはいえ、祖母の師匠であるから祖母以上の高齢であるはずなのだが問題ない。相手は得夫なのだから、何百年も生きる存在だからだ。


「得夫も長生きってだけで、永遠に生きられるのは極一部の高位の得夫だけらしいがな」

「どこ情報?」


 フラウの質問にビアンカは「先輩冒険者だ」とだけ答えた。




 山道を時折休憩と野営を挟み進んでいく。フラウは魔力による多少の身体強化をビアンカから習い、手足に纏わせている。加えて……


『薬草みつけたー』

『こっちー』


 ふたりの妖精たちが、日頃の森の探索同様、旅先でも休憩や野営の場所で採取できる薬草や食用になる山菜や茸のありかを教えてくれる。『猟師』の技術ももつフラウは、近くにいる兎などを「括り罠」を仕掛けて掴まえることもできるので、夜の間に仕掛け、野営地を離れる前に罠を確認し、罠にかかった兎を捌いてから旅を続けるということを幾日か繰り返した。


 とはいえ、少々気になることもある。


「あのさ、魔女狩りの傭兵を殺した事って、問題にならないの?」


 正当防衛かどうかといえば微妙な気もする。


「問題ない。俺が居る家を襲撃したんだろ? それに、囲んだ奴らの中で殺したのは傭兵だけだ。村の連中は怪我をさせたが、それだけだ。襲うつもりがあったんだから、反撃されても文句は言わせねぇよ」


 ビアンカは言われたとおりに表に出て、明らかにフラウの祖母ではないとわからせた。それでも、剣を振るって襲い掛かってきたのだから殺されても文句は言えない。それに同調した村人も同罪だ。


 これがフラウだけならまだしも、ビアンカは高位の冒険者であり、社会的信用が異なる。いざとなれば、貸しのある貴族に働きかけることもできなくはない。少なくとも、今回のことで罪に問われたとしても、『ヴュルテンベルク公国』の領域内だけにしか適用されない。


 帝国はその配下の独立した諸侯領・帝国自由都市の領邦であり、単純な刑事・民事の罰則はその各領邦でしか罪を問う事が出来ない。勿論、重罪を犯して他の領邦に逃げ出したとして追手がかかる可能性はあるが、たかが魔女狩り傭兵が死んだところで、替わりは幾らでもいる。よほどの者を害さない限り、逃げるが勝ちなのである。


「冒険者ってそういうもの?」

「元は戦争がない時の傭兵を管理するための方便だ。傭兵隊長やその子分たちにはそれなりの生活手段があるけど、下っ端は契約が終わればそれで収入が無くなる。それで、勝手に武装して村を襲ったりするんだ」


『帝国傭兵』は、元々小領邦に住むあぶれものの騎士の子弟や農民、あるいは都市の貧民が雇われる。傭兵の収入が無くなっても戻る場所が無い者ばかりであり、放っておけば悪さをする。


「まあ、冒険者登録させて、元同僚の山賊やらが襲ってくる村から依頼を出させて戦わせる。元傭兵対元傭兵の戦いだな」

「えー 領主の騎士とかが討伐するんじゃないんだ」


 ある程度大きな領地でも、常備の騎士の数は五十人程度。

それも、領主の護衛やら執務を執り行う者も含めてである。なので、百人も山賊が集まれば、簡単に討伐することは出来なくなる。加えて、人を募るにも時間が掛かり、その間に村は襲われ、山賊は他の領邦へと移動してしまうことになる。


「どうせ賊に奪われるなら、冒険者に依頼を出した方がましってことだ」


 金も命も失い、村も破壊され女子供も拉致されるより、金だけ失う冒険者への依頼の方がマシだと言うことだろう。


「それ以外の、素材採取とか魔物の討伐なんてのもある。フラウなら、そっちが得意だろ?」

「うん! そだね。そっちがいいかな」


 ゴブリンやコボルドの数はここしばらく減っているのだが、代わりに『魔兎』などが増えている。『魔狼』『魔猪』といった強力な魔物と比べれば弱いが、魔力を持たない者にとってはゴブリンなどより余程強力である。


「魔兎は力も強いし、直ぐ増えるからな」

「うん。まあ、肉付きも良いし肉食じゃなきゃ、兎と変わらないしね」


『魔兎』は猪のような雑食である。人を積極的に襲う事は少ないが、小動物は餌にする。山猫に近い能力で、力は更に強い。山猫が幼児や老人を襲う事はあるので、似たようなものかもしれない。少なくとも、無害で放置して良い存在ではない。


「簡易な罠だと壊されちゃうから、嫌になるよね」

「金属製の罠か。金もかかるし、設置も難しいよな」


 括り罠なら木の枝や蔦などでもつくれるが、魔物化した兎なら簡単に破壊して逃げてしまう。『熊挟み』と呼ばれる金属の口のような踏み罠か金属の環を使った鎖でなければ難しい。金属の環も運が悪ければ広がってしまい、外れて逃げられてしまう。


「依頼を受けながら考えていけばいいかな」

「そうだな。俺もいつまでも一緒にいられるわけじゃねぇし」


 ビアンカは名の知れた傭兵であり高位の冒険者。一方、フラウは冒険者未満であり、祖母の仕込まれた技術はあるものの、無名でどこにも所属していない子供に過ぎない。


「ド・レミ村までは付き合うつもりだ」

「助かるよ!!」

『いっしょー』

『いっしょだよー』


 フラウには妖精たちもいる。ビアンカのような腕っぷし頼みの依頼は不向きだが、失せ物探しや失踪した人を探したり、あるいは、真贋の判断などもできなくはない。


 薬師・猟師としての腕もそこそこあるつもりだが、如何せん実績に乏しい。先ずは冒険者として一人前? になってド・レミ村の祖母の師匠を訪ねる事にしようと思う。


「先立つものが大事だしな。冒険者になってある程度稼げねぇとな」

「そうだね。薬草採取して余分を買い取ってもらうとかでも実績になりそうだしね」


 フラウの日常は割と駆け出し冒険者の依頼のようなことを数多くこなしている。そう考えると、滑り出しは順調になるよう思えるのである。



【第一章 了】


これにて第一章終了です。第二章は、帝国自由都市『トラスブル』に移ります。


読んでいただきありがとうございます。連休中に10話まで続けて投稿したいと思います!

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