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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第六章 『半醜鬼』
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第039話 ド・レミ村へGo

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第039話 ド・レミ村へGo


「え、そんな話聞いちゃってだいじょうぶなんでしゅか……すか!!」


 ド・レミ村へ向かう途中、街道を歩きながら三人は会話をする。ビアンカはゆったりと歩き、プリムとフラウはやや小走りに近い早歩きの差はあるが。


「余所で話さないだろ? 歩人は話し好きってのはあるが、これは話さない方がいい。里の為だ」

「それは、そうかもです」


 ビアンカは二人をド・レミ村に住む錬金術師の工房に送った後、そのまま北上しネデルへと向かうのだという。既に、神国領ネデル総督府からの依頼を受けており、冒険者兼傭兵として神国軍に従軍する契約を結んでいる。


 その依頼内容が問題なのだ。


「神国って、魔物が軍の中にいるんですね」

「公にはされてねぇけどな。帝国にも神国にも吸血鬼化した貴族や軍の幹部がいる。そいつらは鬼強えぇんだよ」

「吸血鬼だけに」

「だな」


 とはいえ、上位の吸血鬼は人間の何倍も生きる長命な存在であり、高度な軍事・魔術・錬金の知識を有している。また、文化にたいする造詣も深く、芸術家のパトロンとなり、あるいはサロンの主催者となっていることもある。これらは、ある意味帝国・神国の強さを支える『闇』の部分であり、共生関係にあるとも言える。


 とはいえ、その従僕種である吸血鬼の下位、あるいはノインテータ―のような特殊な不死者の個体。そして、その中に入り込む『人狼』といった魔物は、統制の外で昔ながらの乱暴狼藉を行えると勘違いしているものが存在する。


「俺は、統制下にある吸血鬼や人狼の監視と、逸脱した場合の討伐が主な役割りだ。なので、戦争が発ししようがしまいが仕事がある」


 吸血鬼が上位の命令を介さず、単独で街や村を襲撃し勝手に支配下に置くという可能性もある。そうなれば、その街や村は経済的な価値は喪失するに等しい結果となる。ネデルの都市周辺の村は都市の下請けとして機能しており、都市へ半加工された商品や労働力を供給している。


 昔ながらの孤立した農村ではないのだ。故に、世の中の理とかけ離れた感覚を持っている魔物には、その意味が理解できずに本能的に支配下におこうとする。それを阻止・あるいは抑止することがビアンカとその配下の傭兵達の仕事となる。


「ま、吸血鬼や人狼は首を刎ねなきゃ死なねぇから、手足引きちぎって吸血鬼の親玉の所に連れ帰って、しっかり『教育』してもらえばいいことだし、ノインテーターは首を刎ねただけじゃしなねぇから、もっと簡単だな」

「ど、どっちにしろ、ビアンカ向きでしゅね」

『らんぼーものむきー』

『脳筋むきー』


 人狼の中でも経験を積んだ存在であるビアンカからすれば、何かやらかす存在は容易に見分けがつく。人の血の臭いを戦闘もないのに纏っているような奴は要注意だからだ。


「対魔憲兵ってところだね」

「おお、いいなそれ。『魔憲兵』あたりなら、魔力持ちか魔物担当かわかり難いだろうから、ごまかしがききそうだ。早速、依頼主にその旨伝えておこう。役目や肩書を明示するのは、軍では大事だからな」


 各傭兵団にも『憲兵』は設置されており、軍内の警察機能を担っている。傭兵団幹部と兵士の代表が裁判官役となり、憲兵は検察を兼ねる。小さな喧嘩沙汰から、内部不正の告発まで、傭兵団は独立した都市や国のような存在となる。一個連隊四千人の集団でるから、それも当然かもしれない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 トラスブルからド・レミ村までは凡そ二日。途中の街や村に宿泊せず、野営を一日挟めば可能となる。これは足の遅い同行者であるプリムを考慮した結果であり、プリム抜きなら丸二日はかからない。


「あー なんか足の速くなる魔術ってありませんかぁ」

「『風』の精霊魔術の系統か、あとは身体強化だよね」

「そうだな。まあ、ちっせぇ魔術を連続発動させることができる魔力があるんだから、プリムは身体強化一択だな」


歩人は土の精霊以外の加護や祝福を得ることが難しい。土夫もそうだが、魔力の親和性が土に偏り過ぎており、他の精霊が毛嫌いするのだ。フラウに従う二人の妖精がプリムに辛辣なのも「風」と「水」の妖精である……からだけではないのだが、その割合が大きい。


 故に、身体強化を選ぶことになる。


「で も 射っぽ辺りの歩幅は変わらないじゃないですかぁ」

「あ? あのな、走る時ってのは、足の指の付け根あたりで地面を蹴っている感覚ねぇか?」

「む……ほ、ほら、私、足の裏……」


 歩人は長く歩くのは得意だが、走るのはあまり得意ではない。足の裏の剛毛のお陰で、蹴り足が効きにくいのだ。厚底靴で走るイメージをしてもらうとそれに近いだろうか。


「なら、膝で跳ねるように蹴るしかないか」

「あー プリム、やってみろ」


 膝を大きく跳ね上げ、蛙が飛び跳ねるようにぴょんぴょんと走るプリム。二人はそれを後ろから爆笑してみている。ひどい。


 立ち止まり振り返ると、二人を睨むプリム。


「なーに わらってるんですかぁ!!」

「いやほら、笑わずにはいられないでしょ」

「駄目だな。実際、この走りでは目立ってしょうがねぇ。膝を伸ばして目いっぱい歩幅を広げて、あとは左右の足運びを素早くするくらいだな、お前の場合」

「こ、これでも、里では一番の早駆けだったんでしゅからぁ!!!」


 流石『馳女』である。が、歩人の足は短く、そして足の裏は走るのに適していない。残念。





 街道を行く、あるいは草原であれば「走る」という技術は必要かもしれない。しかしながら、森や山岳を早く移動するのは必ずしも「走る」という技術は重要ではないかもしれない。


 道なき道を「走る」ということは獣であっても難しい。四つ足の獣にも難しいことを二本足でこなすのは相当な困難を伴う。四本のうち二本を残して他の二本を動かす四つ足と比べれば、二つの足の片方だけに体重を預ける二足歩行で速度を出すのは不安定すぎる。二足歩行となる人間以外の動物と言えば「熊」だが、あれは後ろ足で立ち上がっているだけであり、同じように走るわけではない。


 兎が後脚だけで走っているが、あれは先ほどのプリムの様に飛び跳ねていると考える方が正しい。


「あしが早いことに越したことはないが、それよりも確実に素早く移動することが大事だ。罠を見つけ敵の痕跡を発見し、自分の痕跡をのできるだけ残さずに移動する。走るのはもっぱら馬にでも任せておきゃあいい」

「ま、ボクもプリムも足が短いのでポニーでなければ乗れませんけど」

「あー ラウ君はそのうち背が伸びるでしょ? 結局、私だけが足が遅いんです」

「なんなら、鞍前に抱えてやりゃいい。脚は届かねぇけど早く走れんだろ?」


 女性が男性の鞍の前に横乗りするというのは目にするが、素早く駆けるのであれば跨る必要がありそうだ。


「二人の利用の鞍もあるみたいですよ?」

「ああ、二段になっている長い鞍ですね。それなら一緒に乗っても恥ずかしくなさそうです!!」


 今の体の大きさなら、ビアンカの前と後ろに一人ずつでも問題なさそうだが。ビアンカは、二人の利用の鞍を手配しておこうと考えるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 街道を少し離れ今日の野営場所を探す。水場が近く、雨風がしのげその上で獣道や巣の側ではない場所。周囲から見晴らしの良い小高い丘の斜面にある大木の根本がその場所となる。


 火を使えば遠くから見えてしまうので、焚火は離れた場所で行いうことになる。丘の上などで野営すると、はるか遠くからでも観察されるので火の使い場所含めて、その辺りは要注意でもある。


「錬金用の釜で調理すればぁ、火加減も簡単でしょ?」

「使わないのならいいですけど、明日はド・レミ村なんですから、駄目です」


 恐らく、祖母の師匠である錬金術師に道具を見せるように言われるだろう。その際に、手入れ不十分であればその後の指導に悪い影響が出るかもしれない。


「プリム、お前が料理で使う道具を使ってフラウが毒薬づくりをするから貸せって言われれて素直に貸せるか?」

「……まあ、ちょっと躊躇します。いえ、貸さないです!!」

「それと同じだ。いや、それ以上に錬金道具はフラウにとって大切なものだ。祖母の形見だしな」

「あっ」


 母親は恐らく存命とはいえフラウとは縁が半ばにれている。育ての親であり、薬師・錬金術師の師匠でもあった祖母の存在はプリムが想像するより遥かに大きい。その祖母とフラウを結びつけるものが錬金道具たちである。大切でないわけがない。


「そ、その、無神経でした……」

「いいよ。いつものことだし」

「ひどっ!!」

『むしんけー』

『むしんけーは歩人のとっけーん』


 特権ではない。





 干し肉と干した野菜を湯で戻して塩味で整えた簡素なスープと、固く少々癖のある酸味が特徴の黒パン。どうやらこの野営食と似たものが、歩人の里での常食であるらしく、プリムはさっさと作り、率先して食べ始める。


「酢キャベツが足りません!!」

「持ち歩くもんじゃねぇだろ」


 肉か魚が一品ついてそれに酢キャベツが山盛り添えられるのが基本。豆もそこに加わるとなお良い。


「三人でご飯を食べるのも暫くないかもしれませんね」

「まあな。俺は傭兵だし、フラウは錬金術師として腕を磨く。プリムは……まあなんだ、適当な所で里に帰る」

「私だけ雑」


 プリムは次期里長として見聞を広める為にトラスブルへとやってきたのであるから、目的は十分果たしている。あとは、ド・レミ村の『隠者』と邂逅し顔を繋げれば今後の為にもなる。長い滞在は考え難い。


「何事も旅には始まりと終わりがある。俺達の旅はド・レミ村で終わりってだけだ」

「寂しいですね」

「だな。だが、生きてさえいれば、また旅の仲間となることもある。それに、もう俺達は只の顔見知り程度じゃない。一緒に冒険した仲間だ。だから、離れていても、何かあれば駈けつける。そのくらいの仲間になったと俺は思っている。だから、遠慮せず冒険者ギルド経由でもいいから困った事があれば俺を呼べ。力を貸す」

「はい。ありがとうございます」

「ビアンカもいいところありますぅ」

「あー 里の依頼は冒険者として受けるぞ。そこは友情とは別だ」


 里の依頼を「仲間」として押付けようと一瞬考えたプリムの表情を呼んで釘をさすビアンカ。さすが一流の冒険者である。そして、歩人は図々しい。


「さて、今回の旅はこれで終わりだ」


 食事を終えひとしきりくつろいだ後、ビアンカは話し始めた。


「だが、人生はずっと旅みたいなもんだ。一度しか会わねぇ奴もいれば、同じ方向を歩いていると、しょっちゅう出くわす奴もいる。突っかかってくる奴もいれば、仲間になり何度も同じ方向へ歩き、どこかで分かれ亦出会うこともある」


 だから、と断り


「さよならとは言わねぇ。またな、また会おう元気でなって挨拶して別れようじゃねぇか」


 ビアンカはとっておきの蒸留酒の瓶を取り出し、一口飲んでフラウに渡す。


「また会おう相棒」

「はい。また会いましょうビアンカ」

「またね、ビアンカ」


 最後の晩はこの一口の蒸留酒でフラウとプリムが爆睡してしまったため、見張はビアンカ一人で務めることになったのは思わぬ出来事であった。



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