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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第一章 『森の庵』
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第003話 魔女狩りは突然に

第003話 魔女狩りは突然に


 魔女狩りの一団は数日後、フラウの住む村に現れた。遠目から見ても、貴族に仕える役人などのような文官には見えず、傭兵崩れあるいは、野盗の類にしか見えない。なにやら幟を掲げており、どうやら、魔女を火刑に処す様子を描いた拙いものであった。


「この村ぁ、魔女がいるだろ?」


 黒っぽい胸鎧をつけ、薄汚れたけばけばしい衣装を身につけた大柄の男が、村の入口で威圧するような大声を上げる。


『へんなの来た』

『臭いやつぅ』


 どうやら、あまり妖精に好まれない魔力を纏っているようだ。妖精が『くさい』と表現する場合、その性質が「悪霊」「魔物」の魔力の影響を受けている者の場合が少なくない。まともな魔術師ではないということなのだろう。


 何やら、フラウの家の方向を指さす村人と、頷き一団となって歩き始める『魔女狩り』たち。剣を腰に佩き、手には戦槌のようなものを持って腕を振り上げて気勢を上げる。


「この家ともこれでお別れかな」


 村の空家を借りたものであるので、大して思い入れはない。物心つけば誰もいないこの家に置いておかれ、むしろ、森の中や祖母の庵の方に思い入れがあるくらいだ。そもそも、この村のことをフラウは好きではない。


 この後、「故郷」と呼んで思い浮かべるのは祖母の庵と森であり、この村ではないことは間違いないのだ。忌地にちかい想いがこの村にある。


「こっそり、森に向かおうよ」

『まかせてぇ』


 妖精の使う魔術には、人の姿を隠すものがある。フラウは小さく扉を開け外にでると、早歩きで森へと向かう。その姿は、フラウから声を掛けない限り周囲から認識される事もなく、足音も消されているのだ。





 森の入口から村のかなの様子を伺うと、幾人かが大声を出し「出てこい」等と叫んでいるのだ。恐らく、フラウを人質にし、あるいは盾にして祖母の庵に向かうつもりであったのだろう。その場合、フラウは囚われ道案内の役もさせられたに違いない。


「ろくでもない村だったね」

『わすれちゃえー』

『知らない人だー』


 フラウは村人の顔も名前も忘れることにした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ここに来るのは夜だろうな」

「森に夜入るとか、随分と無謀だね」

「地元の人間がいるから案内できるんだろ? それに、松明掲げて周りを囲むと、囲まれた相手は委縮するし、囲んだ方は気が大きくなる」

「はぁ、碌でもないね」


 気配を消して村を出ると、フラウは一目散に祖母の庵へと戻った。村で見たことをビアンカに告げると、『魔女狩り』が良く使う威圧の手段だというのだ。とはいえ、普通は村はずれにある対象の小屋で行うもので、相手が反抗したり暴れたりしないようにするための常套手段だという。

 

 囲む方も囲まれる方も夜は不利なのだが、松明と数で気勢を上げ、その姿を相手に大きく見せる効果もある。不利な条件は対等……ならば、気を大きくさせる方が良い。本来は。


「俺もお前も夜目が効く」

「ビアンカがここにいることは内緒だからね。夜の方がボクも気が楽だよ」


 魔女狩りの傭兵達は当然、討伐する気まんまんのフラウだが、村の顔見知り

もその中に含まれるかもしれない。


「お前は弓を使うんだよな」

「そうそう。まあ、致命傷にはならないけど、足止めや牽制なら十分だしね」

「毒は使わないと」

「熊やコボルドじゃないんだから使わないよ!」


 弓で致命傷を与えるのは難しい。手足に遠間から弓で怪我を与え、弱らせたところを槍で突いて止めを刺す。戦につかう長弓や弓銃ならともかく、フラウが扱う70cm程度の短弓ならそこまで威力はない。


 なので、大物や危険な相手であれば神経を麻痺させる毒を使う事もある。これは、心臓に至れば心臓麻痺、あるいは呼吸を止める効果もあるので、村人相手には使わないつもりだ。村人相手には……だ。


「森の中なら間合いは精々30mくらいだ。その弓でも問題ないか」

「それと、ボクはこれも使うしね」


 フラウは短い矢を使う。本来は弓の長さとさほど変わらない矢を用いるのだが、矢が嵩張ることと重さもそれなりになるのでよろしくない。なので、本来の半分ほどの長さの矢に『マジュラ』と呼ばれる矢樋のようなガイドを添えて用いる。


 これは、聖征の時代にサラセンからもたらされた技術で、短い矢を強い弓で正確に射ることができる装備だ。帝国や王国では騎射の術が残らなかったが、サラセンの主力は軽装弓騎兵であり、その矢の幕で敵を覆うように攻撃することを得意としていた。


 とはいえ、『矢樋』(マジュラ)は短い矢を射る補助具であり、連射する場合、若干速度は低下する。一々矢をセットするひと手間余計にかかるからだ。だが、フラウのように小柄で矢を多く持つのに短い矢を有意とする者にとっては悪くない工夫だと思われる。


「屋根の上か木の横枝から射かけるんだろ?」

「いざ庵に火をかけられそうならね。放火は重罪だよ!!」


 放火は殺人並の重罪だ。死んでも構わないだろう。いいよね!とフラウは同意を求める。


「俺はお前の斧を借りる。片手で振り回すのにちょうどいい」

「羊飼いの斧って、両手用なんだけどね」

「片手斧じゃ柄が短けぇ。両手斧は森の中じゃ振り回しにくいし、殺しちまう。これならメイス代わりに丁度いいんだよ」

「刃が付いている方で殴れば斧だからね。切れちゃうよ」


 フラウの背丈ほどの柄に握り拳ほどの斧頭が付く『羊飼いの斧』。薪を割るほどの威力は無く、せいぜいが枝を払い、小石を砕き、あるいは胡桃を割り、そして「羊を襲う狼の頭を勝ち割る」故の『羊飼いの斧』である。


 とはいえ、大男と称されるほどの体格を有するビアンカならば、片手で振ることも容易なメイス代わりになるだろう。剣やヴォージェでは押し出しは兎も角、武器として振るった場合、加減できるとは思えないからだ。


「夕方まで交代でひと眠りするか」

「そうだね。夜食の用意もしておくよ!」


 すっかり迎え撃つ用意を心身ともに終えた二人は、夜を待つのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『もうすぐくるよー』

『臭いやつ、いーっぱい!!』


 フラウの「友人」である妖精の『ハイレン』と『グリッペ』が、不審者がこちらに近づいてくることを告げる。


「何人くらいかわかる?」

『えーとね……いち、にい、さん……たくさん!!』

「はいはい、沢山ね」


 庵を取り囲むほどの人数であろうから、『魔女狩り』のメンバー数人に加え、村の男衆も十人やそこらは同行していると考えられる。とはいえ、フラウとその祖母は「現在進行形」で村に貢献している。傷薬や解熱剤、痛み止めといった薬を決まった数、村に納めている。勿論、不足すればその分も依頼があれば追加で作っている。


 祖母が健在であった頃は、近くの街の冒険者ギルドにポーションも卸していたし、薬師ギルドには入っていなかったものの、相応の敬意は払われていた。祖母亡き後は、ビアンカを通してフラウの作ったポーションを冒険者ギルドに提供しているので、何もおかしなことはない。


 祖母が既に死去している事は伏せて、ポーションをギルドに販売している。薬師ギルドや錬金術師ギルドであれば問題になるかも知れない。だが、冒険者ギルドへの販売は手元にある余剰の物資を換金している……という態である。討伐した山賊の資材から回収したそれと同じこと。完全中古か新古品かという差である。これが、新品ポーション扱いなら相応のギルドに所属する薬師・錬金術師の作ったものであるという保証がつくことになる。


 フラウの祖母あるいはフラウの作るポーションや傷薬は、薬師ギルドのそれと同等か上回る効果を持つと評価されており、冒険者ギルドではそれを安く買えるという事で喜ばれていたりもする。


「村には話がついているんだろうさ」


 ビアンカは、恐らく街の薬師ギルドと『魔女狩り』を進める街の有力者とが結びつき、今後は街の影響下に入るこの村の者たちに、今まで通り薬をギルド経由で提供すると申し出がなされたのだろうと推測を口にする。


「でもさ、小麦やハムや卵とじゃ街のギルドは交換してくれないよね」

「あったりめぇだ。その辺、都合よくお互い解釈してるんだろうな。馬鹿ども」


 フラウならなあなあで済まされることも、ギルドの薬師ならそうはいかない。金に色はついていないが、相手の言い値で買う必要がある。その現金が用意できなければ、薬は提供されない。同じ村に住んでいるフラウや、娘と孫が住んでいるフラウの祖母なら融通が利いたが、これからはそうはいかない。


「他に『魔女』扱いされる人がいるんだろうけどさ」

「そいつらは、まあ、体のいい人身御供だ。お前が何もせず逃げだせば、取っ捕まって、拷問されて、魔女認定されて処刑だな」

「それは……だめだよね……」


 村でフラウに優しくしてくれたのは、身寄りのない老女や寡婦ばかりであった。フラウも食べ物を融通したり、薬を直接無料であげたりしたこともある。村では爪弾きにされた者同士ということもあるが、何も持たない者ほど優しかったりする。『貧しき者ほど幸いである』とかいうじゃないか。


 フラウは、ならず者の『魔女狩り』とその尻馬に乗る恩知らずな村人に情けを掛ける気は全くなくなっていた。


「さて、そろそろ表に出ておけ」

「後はよろしくね!」


 村の方角からざわめきが近づいてくる前に、フラウは庵の背後にある森の木々の中へと隠れるのであった。





 手に手に松明を持ち、先頭には胸当とS字の護拳がついた曲剣を腰に吊るした『魔女狩り』一行の傭兵らしき男が数人、その背後には、十数人の村人が、フォークや鎌を手に、あるいは鉈を持って並んでいる。その中には、猟師のネルベの顔も見て取れる。


『ネルベ裏切者ぉー』

『やっぱり、臭いやつはだめー』


 妖精たちは、ネルベのことをよく貶していた。恐らく、フラウと祖母に大して悪意を持っていることを見抜いていたからであろう。一人の立派な顎ひげを蓄えた、いかにも『帝国傭兵』という面構えの男が前に出て大声を上げた。


「あー 魔女がここにいるのはわかってる!! 家に火をつけられたく無かったら、大人しく出てこい!!」


 フラウは「大人しく出てきても捕まって処刑されるんだけどね」等と内心おもいつつ、庵の背後の大木の太い横枝に足をかけ、静かに弓を構えている。最初の一撃、上手くいけばニ三本、命中させられるかもしれない。


 胸当がある分、胴体には命中させられそうにもないが、この位置からなら太腿前面に当てることができるだろう。


「『ハイレン』『グリッペ』力を貸してよ」

『いいよ』

『ほいきた』


――― 『頭隠して尻隠す』


 妖精の魔術でフラウは自らの姿を隠蔽した。そして……


――― 『梟鷹の目』


 妖精の視力を借りて、夜間、遠間の物をはっきりと目にすることができるようになった。


 シッ!!


 夜の闇を切裂き、松明を持つ傭兵の右太腿に短い矢が深々と突き刺さる。林間には、情けない男の叫び声がこだましたのである。



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