第038話 次の冒険へ
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第038話 次の冒険へ
トラスブルへの帰り道、ビアンカは『ド・レミ』村にいる、祖母の師匠である
錬金術師との遣り取りについて説明してくれた。
「お前のことを話したら、薬師・錬金術師の孫弟子として成人まで住み込みで
働いてもいいとよ」
祖母の師匠である錬金術師。はっきりとは言われていないのだが、長命種
の得夫であろう。祖母の師匠であるなら年齢なら百歳近いはずだ。
歩人は人と同じか若干早く老化するが、土夫の寿命は三百年程度。得夫は
それ以上であり、精霊に近い上位に進化しているならば千年以上生きるとも
世間では思われている。
奇術師・詐欺師が長命の魔術師だと詐称することもあるので、その実は
本人しかわからないのだが。
「成人ということは、十五歳まででしょうか」
「概ねな。三年ってところだろ。元々それなりに学んでいるんだから、
学び足らないことを教える期間としては妥当じゃねぇかな」
職人になるには十年二十年かかる等と言われているが、その実、下働き
の期間が相当長い。それに、余程近親者か世話になった親方の子供を
内弟子にしたのでもなければ、衣食住面倒見る代わりに使い潰すつもりの
奴隷同様の扱いでもおかしくない。口減らしで追い出された十歳前後の
子どもを何年か住み込みで雇い、多少の仕事を覚えさせるということだ。
フラウの場合、祖母の庵を継げるだけの基本を幼少のころから孫の面倒
を見る代わりに教えられていたようなもの。遊び相手になるかわりに、薬師・
錬金術師の仕事を祖母は教えた。
「それと、村の猟師が高齢化していてな。お前がその役割をしてくれると
助かるとさ。だから、村には受け入れられると思うぞ」
「芸は身を助くですね!!」
歩人の里の次期里長プリム・二十五歳。特技はとくにない。
「リンクも連れて行って大丈夫なのかな?」
「まあ、猟師は猟犬を飼うからな。従魔証をつけた魔山猫なら問題ねぇだろ。
その分、狩りも助かるしな。猪が増えて困っているらしい。あいつら、人間の
畑を荒らすし、下手にちょっかい出すと攻撃してくるからな。子供は下手すると
喰われるしよぉ」
赤ん坊や幼児が猪や豚に喰い殺される事件は頻繁ではないが珍しくもない。
雑食で、小動物も餌にしているので弱い人間なら餌も同然に思える個体が
存在する。中にはそれをきっかけに魔物化するものもいる。食べた人間が
たまたま魔力持ちであった時などである。
それは小鬼に関しても同様で、魔石持ちの個体を食べた場合、猪も
魔物化することがある。それが『魔猪』である。
因みに、人間が人間、特に魔力持ちを食べると人喰鬼となる。
飢饉や冬季の遭難などで食料が無くなり、飢えて人を食べるとなるとされる。
「あ、あの」
プリムがおずおずと会話に入ってくる。
「薬師をされているのなら……薬草園を持ってるんじゃないですか?」
フラウは多分そうだろうと思い頷くも、実際直接会っているビアンカは
「知らん」とそっけない。
「得夫の錬金術師様のところで、私も下働きをさせてもらいたいです」
「……あ?」
プリム曰く、歩人の里でも『ド・レミ村の女賢者』の噂を聞いており、是非、
繋がりを持ちたいと考えていたのだが、何しろ外部とのコネがない。トラスブル
の都市の有力者のような世俗との関わりは多少あるものの、隠者・賢者・
高位の魔術師のような存在とは縁がないらしい。
「この機会に、お見知りおきしてもらえないかなーって。それに、わ・た・し、
畑の世話大得意です!! 歩人の里の料理だって振舞える……」
「プリム、料理苦手だよね」
「……れ、レシピは持っているので、そこはラウ君との共同作業でお願い
しようかなって……」
得夫の女賢者と二人きりというのも中々息がつまりそうだとフラウは思う。
祖母の師匠であって祖母ではない。フラウは抜けたところもあるが、基本は
善人であり関係も悪くはない。子供のフラウのことを侮ったりせず、対等に
扱ってくれる。それに、畑の世話だって分担すれば自分の修行時間も
確保しやすい。
「ボクはプリムが一緒にいてくれると嬉しいかな」
「でしょー。ラウ君からもお願いしてもらえると、たすかるよー」
ビアンカは「怒られねぇかな」などと不穏なことを言っているが、女手は
多い方が良い。まして、魔術自体は小さいものばかりだが、豊富な魔力量
は魅力的だ。
「はぁ。私の魔術、もっと派手な威力にならないかなーっていうのもあります」
「なるほど」
「それに、何かあったら、歩人の里に疎開する事も出来ますよ!! この辺
魔女狩りが増えてるって話ですし。魔女狩りも歩人の里には関われない
でしょうから」
魔女狩りを行うのは表向き、街や村の領主が管轄する下級裁判所への
訴えから始まる。歩人の里やトラスブルのような帝国自由都市のような自治領
には影響がない。魔女がりの訴えが起こるのは小さな街や村ばかりだ。
ド・レミ村も波及しないとも限らない。
「その辺は、自分で手紙を書いて内諾もらっとけよ。ま、歩人の里の里長の
娘を粗略には扱わんだろうさ」
「はい!! 礼儀正しくですね!!」
いきなり「きちゃった」は通用しないだろうから当然だ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
冒険者ギルドへの報告。これは、勝手に常時依頼の延長で「こんなこと
あったんです」という程度のことなのだが……
「また、奥に通されちゃいましたー」
『おちゃがしーたのしみー』
フランとプリムの分を勝手に食べるのは妖精の常識、あるいは通常営業。
奥には、ギルド支部長がおり、その横には貴族の使用人風の男がいた。
「待っていた。座ってくれ」
ビアンカ・フラウ・プリムの順に並んで座る。
「では、報告を」
「いや、その前に話がある」
支部長は使用人風の男性を紹介する。驚くことに、先日、プリムに絡んで
いた貴族子弟の家人であるのだという。丁寧に謝罪され、プリムも「気にして
おりません」と貴族風に返答をする。意外と真面である。
金貨十枚での剣の買取に加え、迷惑料として二人にそれぞれ金貨十枚
の合計三十枚。これで手打ちをして欲しいと言うことだ。フラウはちらりと
ビアンカの顔色をうかがう。ビアンカは黙ってうなずいたので、世間的には
妥当と言うことなのだろう。
「有難く頂戴いたします」
「では、こちらをお納めください」
大きい革袋がフラウ、小さな皮袋はプリム。プリムは中を確認していたが、
フラウはそのまま収納した。中が石ころでも確認するつもりはない。それが
フラウの知る貴族との遣り取りだ。
「それで、ビール城の件だが、こちらの方も同席のままで頼む」
「我が領内のことなのです。是非、お話を伺いたく存じます」
ビール城は現在「ピール男爵」領の中にあるのだという。ビール伯爵家の
家士の家系に始まる家で、伯爵家との血縁もあるのだという。名前も、伯爵
家を守る『皮』というニュアンスで『ピール』と名付けられたらしい。
それではとばかりに、今回の経緯を若干遡り説明を始めた。
一通りの話を行い、最後に魔法袋から干からびたノインテーターの生首
を取り出す。
「これは……吸血鬼ではないが、ちかしい不死者ということか」
「……耳に……ビール家の特徴がはっきり出ております」
やや尖った耳で、薄く特徴的な耳たぶをしているのだという。つき位置も
眼より高い場所にあるのだとか。
「吸血鬼って、こういう顔してるんじゃねぇのか?」
「そうとは限らんぞ。生前の顔の特徴はそのままだからな。吸血鬼に
なったからといって、耳が尖ったり耳の位置が変わることはない」
トンガリ耳と目の位置より高く耳が付いているというのは、因果関係が
逆なのだそうだ。吸血鬼に魅入られた一族の特徴が、トンガリ耳であった
のだ。
「そ、それで、城跡は魔物が入り込めないように塞いでくださったのですか」
「はい!! 折角なので」
無い胸を張るプリム・二十五歳。家人はホッとした顔を隠す
事もなく頭を下げた。
「プリム様、この短剣をお持ちください」
「……これは?」
家人曰く、この場で主人に変わって何かしらのお礼をする事は出来ないが、
後日お礼をする為の印として、男爵家の紋章入りの短剣をお渡しすると
いうことである。本来は、目の前の家人の身分也地位を示すものなのだが、
それをプリムに預けるということなのだろう。
「でも」
「問題ございません。一先ず、お返しいただく剣がございます」
男爵令息から取り上げた剣は、子息個人の佩剣というわけではなく男爵家
の人間を示すものであったという。それを代わりに預かれば帰路も問題なく
対応できるのだそうだ。
プリムは「お、恩賞?」となにやら訳が分からないとばかりに自分の世界に
閉じこもっているが、報告も終了したと言うことで話は終了となった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
冒険者ギルドを立ち去る際、ビアンカは二人を『ド・レミ』村に連れていく
ことを受付に伝えた。現在、『ド・レミ』村は王国の領地となっている為、
冒険者ギルドを王国所属に変更する必要があるかどうかの確認のため、
話をしたのだが。
「帝国の冒険者ギルド証はそのままご利用いただけます」
「けどよ、こいつら星二だが王国だと十五歳未満は、討伐等級に加え
られないだろ。あ、ラウだけだけどよ」
星二は王国では『黄』という等級扱いになる。魔熊討伐の功績で例外として
フラウは星二となったが、王国にその例外を認めさせられるかと言えば
難しい。
「そうですね。あくまでも、トラスブル支部の判断ですから、他の支部や
国を跨いだ場合は『見習』枠が十五歳までは適用されてしまいます」
ちなみに、プリムは全く問題ない。中身は二十五歳だから。見た目は
幼女だが。
「ボクは全然気にしませんよ!! 討伐依頼は受けられなくても討伐しては
イケナイってわけじゃありませんし。素材採取の方が性に合ってますし」
「まあ、何かあったらプリムちゃんが討伐しちゃいますから、ラウ君だって
安心ですよ!!」
「……まあ、ラウだけならどうとでもなるしな。それで構わないか」
フラウだけなら妖精の魔法で逃げる事が難しくない。『小径』や姿を
見えなくするだけの術だって使い方では有効だ。何より、本職は猟師で
あるから、罠を仕掛けて狩る事も難しくない。
「まあ、猟師ギルドってのもあるしな。そっちの方が融通が利く」
「……え」
猟師ギルドは王国・帝国には少ないが、連合王国や大原国・大沼国には
それなりの支部を持つ猟師の互助会的組織である。特に、貴族が管理して
いる森林の狩りなどで指名が付く事が多い。貴族の狩猟は『鹿狩り』が
主であり、猪や狼、あるいは熊などは対象外。聖征の時代から百年戦争が
始まる前の頃は「騎士の嗜み」の一つとして猪と闘う、あるいは熊と闘う
といった度胸試しが存在したが、今は昔の話だ。
こうして、フラウとプリムは活動拠点を一先ず『ド・レミ』村へと移す事に
なるのである。
【第四章 了】
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