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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第五章 『小鬼使い』
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第036話 小汚いは正義

第036話 小汚いは正義


 広間には六体の騎士ゴブリンの死体。そして、謁見するかのように一段高い位置には足を組みいすに座る顔色の悪い薄汚い男。その左右には二体の騎士ゴブリンが立っている。背後には薄汚れた天井から吊り下げられたタペストリー。なにやら聖典の一節を示しているようだが、フランは詳しくはわからない。だって『魔女』だもの。


『くそぉ!! これでも喰らえ!!』


 背後のタペストリーの陰から現れたのは薄汚れた貫頭衣を着た農婦四人。手に棍棒のような物を持ち、フラウに向け走り寄ってきた。


『コッロース!』

『ウォアアアア!!!』


 若干小太りの中年女性とは思えない素早い動き。


『小癪な』

「リンク、手加減して!!」

『ムゥ』


 牙で噛みつき爪で切裂く魔山猫が、何故か猫パンチで狂乱した農婦たちを打ち払い、叩きのめしている。痛みを感じないのか、かなりの勢いで床に叩きつけられているものの、跳ね上がる様に飛び起き、何度もリンクとフラウに襲い掛かってくる。


「ひ、卑怯で臭いなんて最低ですぅ!! これでも喰らえ!!」

『臭いぞくらえ!!』

『くそくらえ!!』


『小雷球!』『小雷球!!』『小雷球!!!』『小雷球ぅ!!!』


PAPAPAPAPA!!!!!!!!!!!!!!!


 想定外の反射速度で回避する謎の男。人狼化したビアンカを想起させるほどの素早さ。


「な、なんでこんなに素早いの!!」

『そこのチビ娘、こっちをよく見ろ』


 プリムが小汚い男の言葉に釣られ思わず目線を合わせてしまう。その眼光は鋭く、赤い目が細かく明滅している。


『我が意思に従え!!』

「へ、なんですかぁ、なんなんですかぁ。高速の瞬き、キモいですぅ!!」

『は、なんだとぉ!! キモくない!! セクスィーだろ!!』


 どうやら、何らかの魔術を発動したようだが、残念、歩人のプリムには効果がなかったようだ。


『こ、小僧、貴様、こっちを見ろ!!』


 フラウが視線を合わせると、再び高速瞬きと明滅が見て取れる。


「ほわぁ」

『なんか良くない魔力かんじる―」

『臭い魔力だー』


 魔力に臭いがあるのか疑問だが、あまり良くない魔力なのだろう。


 一瞬、心を掴まれるような感覚に陥るが、その力を打ち払う加護が発動する。


「……『魔女』の力……かな」

『わるいやつを打ち払うちからー』

『精霊がまもったー』


『魔女』の加護持ちは、妖精と精霊に好かれる、祝福される存在である。そのお陰で『魅了』に抵抗できたのだろう。


 何度でも立ち上がる農婦、そろそろリンクも披露して来ている。そして、魔術を乱射し続けてきたプリムにもそろそろ限界が訪れつあり、それはフラウも同様。


――― 『頭隠して尻隠す』


 姿を隠し、そして、身体強化した上で。

 

――― 『されどその間に時は飛ぶ矢の如く逃げる』


 自身の時間を加速させる。


 一瞬で小汚い男の背後に回ると、その首と肺と心臓に、魔力を込めた刺突短剣を三度叩き込んだ。


『ぐわぁ!!』

「よし、やったー!!」


 しかし、魅了された農婦たちは相変わらずリンクを襲っており、その力は解除されていない。小汚い男は未だ健在と言うことになる。


「なんで。首と心臓と肺を刺されたら、普通は死ぬでしょ」

『ざんねーん、死人はこれ以上死なないんだよぉ。クソガキ!!』


 振り向くと、立ち尽くすフラウに魔力の籠った拳を叩きつける。馬車に跳ね飛ばされたように床を転がっていくフラウ。そこに慌てて駆け寄るプリム。


 幸い息はある。が、意識はもうろうとしている。


『はは、残念だな。俺は特別な体にしてもらったんだよぉ。不老不死の体だ。それに、簡単に魔物や人間を操ることができる。首を刎ねられたって死なねぇ。ほんと、便利な存在だ』

『けど臭い』

『死人だから臭い』


 魅了を操る不死の存在。


「甦りし者ですか」

『死に戻りか……面倒な』


 吸血鬼でも死に戻りの死体でも、首を切り離せば問題なく倒せる。リンクはプリムの顔をちらりと見ると、その心を理解したプリムが小水球を四人の農婦にこれでもかと叩きつける。勢いよく跳ね飛ばされる四人。


 その隙に、『死人』の背後に回り込み、リンクが魔力を込めて伸ばした爪で首を一閃する。


『おお』


 口から驚きの声を出し、やがてポロリと床に頭が落ちる『死人』。その頭を拾い上げると、再び首の上に乗せる。


『ははっ、ちょっと新鮮だな。自分の体を床から見上げるのは』

「なんですか!!」

『首を落としても止めにならないのか』


 自分の力に酔い始めたのか、『死人』の口は饒舌となった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 自分はビール男爵家の嫡流で、元はビール伯爵家に繋がる出自だという。そして、自分が成人する前に男爵家は没落。自身は傭兵となり、身を立てることになったと宣う。


『へまして死にかけたところ、こうして不死者となって蘇ったってわけだ。吸血鬼や喰死鬼と違って、首を刎ねただけじゃ死なねぇんだよ。おまけに、戦場に立てば、仲間を鼓舞して狂戦士にする事も出来る。だから、敵無しってわけだ』

「でも死人ですよね」

『このままずっと過ごせるなら、男爵家、伯爵家を再興することも不可能じゃ

ねぇ。その為には、この辺のトラスブルを始めとする帝国自由都市を痛め

つけておかねぇとな』


 なにやら、没落の遠因となった、トラスブルを中心とするメイン川流域の都市が気に入らないようなのだ。


「時代は戻らないでしょ?」

『いいんだよ。我が世の春をいつまでも謳歌できるわけじゃないと、身をもってわからせてやれれば。この城に、手下の魔物を集めて、商人が行き来できないようにしてやる。そうすれば……』


 途中で意識を取り戻したフラウが口を挟む。


「無理ですよ。大体、大半はメイン川の水運で運ぶんですから。街道を魔物が襲っても、大したことはありません。とくに、トラスブル市は」

『はっ、嘘をつけ』

「嘘かどうか、試してみればわかるでしょうが、この城の魔物はもうほとんど討伐しちゃいましたから。また集めてみてください。城の出入口も塞いだので大変でしょうけど」

『うがああぁぁぁ!!! 赦さん!! お前ら絶対殺してやる!!!』


 魔物を討伐したよりも、ビール城を使えなくしたことの方が腹立たしいようだ。

元領主・城主の末裔ゆえか。


 背中から取り出したのは、両手持ちも可能なメイス。俗に、モルゲンシュテンと呼ばれる球形のヘッドに幾つかの棘状突起がついた打撃武器である。騎士同士の戦いが盛んであった頃、剣では与えにくい打撃を効率よく叩きつけるための武具。


 力任せに振り回し、フラウめがけて叩きつける。


『あぶなーい!!』


――― 『されどその間に時は飛ぶ矢の如く逃げる』


 相手の動きを読むために、自らの時間を加速させ回避する。戦い慣れていないフラウが暴風雨の如き不死者の乱撃を避けるには、身体強化とともに、相手の動きをゆっくりと見切ることができる『妖精の魔法』が有効となる。


 自らの力を振るいモルゲンシュテンをフラウに向けるも回避され、大広間の床や壁、あるいは柱へと打撃を加える。柱は天井を支えると同時に、天井は上階の床と一体故に、支えられなければ天井が崩れ石材が降り注ぐことになる。


『いい加減、叩かれろぉ!!』

「それ死んじゃうから!!」


 フラウと不死者が接近している為、プリムも容易に魔術を放つことができない。間違いなく、味方撃ちフレンドリー・ファイアとなるだろう。耐久力から考えて、フラウが先に倒れることは明白。


「ああ、じ、じれったいですぅ」


 プリムは、農婦たちを小雷球で攻撃して倒してしまおうかと思うのだが、後々、面倒なことになりかねないので躊躇している。幾ら狂化しているとはいえ、雷で打たれたならショックで死ぬかもしれない。魔物に操られていたという説明も、証明する手段がないので訴えられたら罪に問われるだろう。まあ、最悪ゴブリンと一緒に埋めてしまっても良いのだが。


 リンクを囲む動作も徐々に巧みになりつつある。魔山猫がそれなりに強い魔物であったとしても、狂戦士四体に囲まれて滅多打ちされたなら殺されかねない。リンクも慎重に牽制に専念しつつある。


 フラウは回避一方、リンクは四対一で抑えるので精いっぱい、そしてプリムは魔力が枯渇しつつあり、接近しての致命的な攻撃を不死者に与えられそうにない。首を刎ねて死なない不死者をどうすれば討伐可能なのかも皆目見当がつかない。


 



 ジリ貧の中、逃走するという手段に心が傾きかける。


 足を滑らせたフラウに、モルゲンシュテンが振り下ろされる。立ち上がる余裕もなく、横に転がってその殴打を回避する。床が弾けるように砕け、石材がフラウの顔にあたり血が流れる。


「くそっ」

『はは、あきらめ……いってぇ!!』


PAPAPAPAPA!!!!!!!!!!!!!!!


 倒れ伏すフラウのお陰で、不死者への射線が通り、プリムがここぞとばかりに『小雷球』を叩き込み、フラウはふらつきながらもなんとか立ち上がる。が、疲労は蓄積されており、首を刎ね飛ばす手段も思いつかない。不死者には毒も効かないので、これまでの切り札は使えない。


 逃げ出そうかと考えていると、屋上の方からものすごい音が聞こえる。


『おい!! 生きてるか、おまえらぁ!!』

 

 円形階段を下ってくる魔力の塊を感じる。


DONN!! 


 大広間の入口に降り立ったのは見慣れた心強い姿。


「待ってられなかったのかおまえら」

「「ビアンカァ!!」」


 そこには、『人狼化』したビアンカが愛用のヴォージェを携え佇んでいた。


『おそいー』

『主役はおくれてくるよー』


 妖精たちにとってビアンカとの再会は嬉しいようで、ビアンカの周りをクルクル飛び回るのである。





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第七部 連合王国編 更新中☆


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