第034話 小鬼が塵芥のようだ
第034話 小鬼が塵芥のようだ
「さあ、プリムちゃんの魔術乱れ撃ち、はじまるよー」
『よー』
プリムの姿を隠す為、妖精はつけてある。が、今は一瞬姿を見せている。
中庭には数十体の小鬼がいる。半ば昏倒し、半ば苦しんでいるように見える。それも霧が晴れて十秒もすれば意識を失う。
「いきますよー」
『やっちゃえー』
既に昏倒している小鬼たちに、フラウとリンクが止めを刺していく簡単なお仕事であるはずなのだが、プリムも「見せ場が欲しい」とばかりに、30m程の高さもある城塔の屋上から「次は君の番!」とばかりに、次々とメイスを魔法杖の代わりに用いて、目標を定め『小雷球』を放っていく。
意外と射程距離の長い小魔術である。
『小雷球』『小雷球!』『小雷球!!』『小雷球!!!』『小雷球ぅ!!!』『小雷球ぅぅぅ!!』
PAPAPAPAPAPAPA!!!!!!!!!!!!!!!
倒れている小鬼に小雷球が命中する。体が跳ね上がり、体が硬直しているように見える。
フラウとリンクの姿を確認し、彼らが移動する場所を避けて雷球を放つ。
「ほっ!! はっ!!」
放つ場所を移動しながら、満遍なく小雷球を……と思うその時、こちらに
何かが向かってくる気がして思わずしゃがみ込む。
「ひゃあ」
頭上を通り抜けたのはマスケット銃の弾丸。恐る恐る頭を上げてみれば、向かいの城館の三階窓から、顔色の悪い男が銃を持ってこちらを睨んでいる。
「ね、狙うなら、下の人にしてくだしゃい!!」
本音が思わず出るプリム。とはいえ、身体強化をして動き続けるリンク、身体強化に加え、『妖精の魔法』でさらに動きを加速させるフラウに獣で狙いをつけるのは難しい。故に、動かないプリムに狙いを定めたのだろう。
「隠して!!」
『はいさ』
――― 『頭隠して尻隠す』
姿を見えなくしたプリムは、杖を構えると小雷球を一発一発正確に放ち始めた。放ったあとは速やかに移動がセット。
『小雷球ぅぅぅ!!』
PA!!!
すかさず、別の狭間へと移動するのである。先ほどまでいた場所を銃弾が通過していく。魔術の発動した位置に向け、見えなくとも反撃しているようなので、これで対応は間違いないだろう。
既に半分ほどの小鬼たちがフラウとリンクに止めを刺されているようだ。
すると、背後から轟音が聞こえた。
DOGGGOOONNNN!!
見ると、塞いだ下り口の横の壁が破壊され、ひと際大きなゴブリンが現れた。兜に上半身を板金鎧でおおい、巨大な領手持ちの戦槌を装備している。
『オマエカァ!!!』
「ち、ちがいまーす。人違いですぅ!!」
オーガの如き形相のゴブリンを見て、思わず即座に否定してしまうプリム。
あいさつ代わりに四発の小雷球を叩き込む。
『小雷球!』『小雷球!!』『小雷球!!!』『小雷球ぅ!!!』
PAPAPAPAPA!!!!!!!!!!!!!!!
鎧の表面に雷球が命中し明滅するが、大きなダメージは与えられていないようだ。
「隠して」
『ほいさ』
――― 『頭隠して尻隠す』
一先ずプリムは先ほど進んできた城門楼へと城壁を逃げることにする。
『ニオイデワカル』
「わ、わたしはくさくないですぅ!!!」
いや、フランもビアンカもリンクも黙っているが、プリムはどことなく臭う。歩人臭、あるいは日向の臭いである。良く干された藁の匂いとでも言えばいいか。ゴブリンにとっては、腐臭や血の臭い、あるいは糞尿の臭いよりも珍しい臭いなので、良くわかるのだ。
「こないでえぇぇぇ!!!」
『ニゲキレルトオモウナァァ!!』
城壁の上を突進する巨大ゴブリン。見えないはずなのだが、においでわかるのか、わき目も振らず一直線に城壁の上を追いかけて来る。
やがて見張塔の上まで到達すると、そのまま塀の外に向けて飛び出した。
『ふはははは!! キョウフデクルッタカ』
「って思うっちゃろ?」
『ナアァ!!』
魔力の塊を足場として、振り向いたプリムが姿を現す。
『小火球』
手で投げた石ほどの速度で拳ほどの大きさの火球が跳んでくる。
HUNN!!
前腕鎧で軽く弾き飛ばすデカゴブリン。
『小火球』
『小水球』
再び火球が投射され、顔めがけて水球が放たれる。
『ミズノタマナドサケルマデモナイ』
顔面にべしゃりと水か叩きつけられるが、ゴブリンの面になんとやらである。
『ハハハ、イツマデソコニトドマッテイラレルカミモノダ』
魔力の壁を足場にしているプリムは、魔力が尽きれば足場を失う。その時は、城壁に辿り着くか、あるいは落下するしかない。城壁の外は急斜面が続いている。落ちれば大怪我は必至。
「はは、おバカなゴブリンに教えてあげましょう」
『ツヨガリヲ』
メイスの先をゴブリンの胸に向け、プリムは早口言葉もかくやとばかりに得意の小玉シリーズを乱射する。
『小火球』『小火球ぅ!』『小火球ぅぅ!!』
『小水球』『小水球ぅ!』『小水球ぅぅ!!』
『からのー』
『小雷球!』『小雷球!!』『小雷球!!!』『小雷球ぅ!!!』
PAPAPAPAPA!!!!!!!!!!!!!!!
GYAWAWAWWWAAAA!!!!
体を硬直させ、仁王立ちとなるデカゴブリン。魔力壁の足場を蹴って城壁の上に戻ると背後に回るプリム。
「では、よい旅たちを!」
『ばいばーい!!』
背中を思いきり蹴り飛ばし、メイスで叩き伏せると、城壁から崖下へ向け頭から落ちていくゴブリン。岩棚に削られ、叩きつけられ手足は四分五裂。
「ふいぃ。もう仕事終わりで良いでしょうか?」
『だめー 鼻削ぎがあるからー』
中庭を上から眺めると、踏み潰された蟻の死骸の様に、小鬼たちがあちらこちらに倒れている。
「まるで塵芥のようですぅ」
『びかに協力しましょー』
妖精は綺麗好きである。とくに、フランの祖母の庵では、フランと共に妖精たちも掃除や片づけを手伝っていた。鼻削ぎは掃除ではないだろうが。
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プリムが中庭へと降り立つと、その場所にいた五十余りの小鬼たちはすでに息の根を止められていた。城への進入時に十数体、リンクが襲った城塔の中の小鬼も二十くらい入るだろう。ということで、半数以上は既に討伐されているはずだ。
既に何本かの刃こぼれしたバゼラードが打ち捨てられており、リンクも相当に魔力を消費しているようで疲れたのか、一旦息を整えている。
「お疲れ様ですぅ!!」
「どうしたの? 何か追いかけられていたっぽいけど」
『ゴブリン・ソルジャーに襲われていたんだろう』
あのデカゴブリンはソルジャーらしい。どうやら、魔力持ちの人間の脳を喰うと人語が話せるということをプリムが呟く。
「詳しいんだね」
「たまたま耳にしたことがあるだけですぅ」
母から伝え聞いた伯父の手紙の内容。騎士や冒険者の魔力持ちは脳を食われてゴブリンが魔力や魔術を扱えるようになると書かれていたようだ。あえてゴブリン討伐に向かわせ、優れた個体に人間を食わせて強化する。その結果、強力な魔物の集団が生まれる。
そうした実験を行った反王国勢力が国内に存在したのだという。
フラウに聞かれるがままプリムが話をすると。「ここがそれなんじゃない」
とフラウが口にする。
「王国じゃありませんよここ」
「もう、トラスブルの周辺は王国の影響下にあるじゃない? 王国内では厳しいから、ネデルや帝国西部に拠点を作っているとかかもよ」
「えー とばっちりじゃないですかぁ」
トラスブルの参事会でさえ他の領主の領地に簡単に介入することはできない。帝国と王国はここしばらくは戦争をしていないが、祖父の代の頃には五十年ほど断続的に法国北部を戦場に戦争をしていた。ネデルから王国北東部へ侵攻したこともある。
「詳しくは、城館の中にいる怪しい人に聞いてみないと分からないけどね」
「やっぱり入るんですか」
プリムの魔力の乱打で中にダメージを与えてから、姿を隠したフラウとリンクの襲撃を行うつもりなのだ。城館の中には使用人として働く人間の女性もいるはずなので、その安全確保が必要となるのだが。
『ごぶりんはー』
『みなごろしだー』
「どこで覚えたのそんな言葉」
悪霊が土の精霊ノームを侵食して発生するゴブリンと妖精は相性がとても宜しくない。陽気で能天気な『ハイレン』と『グリッペ』もゴブリンに対して容赦がない。コボルドに対しても似たようなものなのだが。
中の様子を妖精たちに探らせることにする。
――― 『梟鷹の目』
妖精の視覚を借りて、離れた場所を見ることができる。そして……
――― 『壁に耳あり正直メアリー』
離れた場所の音を聞くことができる。
『ハイレン』と『グリッペ』は連なると、屋上から様子を確認していくのである。
「ねえ、プリム。この城館の一階全部の窓と出入り口、全部塞いで。その前に、中庭の入口の門もお願い」
プリムは小鬼の死体を避けながら、渋々と中庭の出入り口をふさぎに行くのである。
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