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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第五章 『小鬼使い』
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第033話 壁を塞げ

高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。

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誤字報告、ありがとうございました。

第033話 壁を塞げ


 途中で早めの昼食をとる。街道を眺めれば、徐々に破壊された馬車・兎馬車の数は増え、どうやら情報の遅れた商人、農民はゴブリンに狩られ憐れ食料となっているようだ。


「騒ぎにならないのはなんでなんでしょう」

「領主や支配層には別の関心事が沢山あるんだろうね」


 もう五十年ほど前になるが、この辺りの貧しい騎士達が数万人も集まり叛乱を起こしたことがある。幾つかの街を滅ぼし、大司教領の領都を包囲したのだ。


 とはいえ、叛乱を起こすほど食い詰めた騎士達がいつまでも在陣することは難しく、半年ほどで包囲は解かれてしまった。結果、包囲された大司教領を中心とする討伐軍が騎士達の所領に向かい、多くの騎士達が討取られ首謀者は逃亡するか捕らえられ処刑された。


 トラスブルは対抗するだけの防衛力を持っていたのだが、持っていない小都市は身代金としての軍税を騎士軍に支払い襲撃を逃れるか、つっぱねて攻撃され破壊・略奪されたのである。


「放っておけばそのうち立ち行かなくなり消えるだろって発想がね」

「信じられませんけど、人間というのはつまらないところで合理的です」


 貧しく荒れた土地が、さらに貧しく荒れるのであるから救いようがない。このビール廃城の小鬼軍に対する処方箋も同じ事なのだろう。放置し、弱体化したところで適当に討伐依頼を出す。


 その間に発生する損害は無視する。


「百五十の小鬼をまともに討伐するなら、五百や千の傭兵が必要だと思うんだよね。その傭兵を雇う費用は小鬼被害よりかなり高くつく」

「だから放置されてるんですね。現実は非情です」


 野良ゴブリンが数匹なら、冒険者や見回りの兵士辺りで討伐できる。五十くらいなら、ギルドの支部上げての依頼になる。その三倍ともなれば、まともな依頼ではなく、兵士を集めた討伐になる。領主の仕事だ。


 そんなところに乗り込むつもりの二人と一頭。





 先日、令嬢を救い出した場所へと至る。


――― 『頭隠して尻隠す』


 フラウは妖精の魔法で姿を隠し、前回おりてきた山道を登っていく。フラウ個人だけではなく、その周囲にいあるプリムも姿を消せている。リンクの姿は見えているが、傍から見れば大きな猫。妖精二体では二人をそれぞれ隠すのが精一杯なのである。


 野良妖精に『魔女』の加護で、一時的に頼みごとをするのは可能だが、魔力の消費量も多く、尚且つ、あまり細かなことは依頼できない。他の仲の良い精霊は、祖母の庵の周辺に残してきているのだ。


 なので、あまり多種多様な魔術を行う事は難しい。


「お、来たよ小鬼の遠足団」

「はっ!! ぐぎゃぐぎゃ声がしましゅ……」

『声も出ぬ間に仕留めてくれる』

 

 ここは任せろとばかりにリンクが駈出していく。三匹のゴブリンが山道をおりてくる。上位種あるいは指揮官らしきものは見当たらない。勝手に抜けだしてきているのか、あるいは小鬼の警邏方法が変わったのか。フラウはそこまで詳しく周辺を見ていなかったので把握できていない。


 姿勢を低くして山道を駆けのぼったリンクは、先頭のゴブリンの首筋に噛みつくと首を支点に地面へと叩きつけた。


 BOGYA


 首の骨の折れる鈍い音。そして、それに気が付き一瞬固まる二匹のゴブリンの首を前脚の爪で薙ぎ払う。魔力を纏えるようになった前爪はスパスパと斬り落とす。音もなく倒れる二体のゴブリン。


「さて、鼻を削がないと。死体はこのままで取りあえずいいよね」

「そうですね。魔力大事にで取りあえず行きましょう!!」


 本来ならプリムが魔術で『土牢』を用いて穴を掘り、死体を埋めるのだが、今回はどの程度魔力を使うかわからないので、すべてが終わってからでも問題ないだろう。だが、鼻は削ぐ。


「リンク、鼻は攻撃しないでおいてね」

『わかっている』


 首、手足首を爪で切断することに専念してもらうのだ。





 斜面を登ると、廃城の城門が見えてくる。こちらにあるのは裏門であろうか。正面の門は「黒森」に面して築かれている。あくまでも、メイン川沿いの街道から城への納品などに用いるための通用口。


「さて、小鬼の衛兵はいるかな」

『ああ。あの門の前に三体、門の上に三体。上の三体のうち一体は上位種だ』

「ありがとう。じゃあ、先に倒してしまおうか」


 プリムの魔術では、敵の存在をこれでもかと広めてしまう。速やかに下の三体はアコナの毒で死んでもらう。


 バゼラードを一本引き抜き、アコナの毒壺に切っ先を差し込む。塗り薬のように加工された毒薬がそこには入っている。


 姿は見えずとも何かが接近してくる気配を感じた勘の良い小鬼が一体。残りは明後日の方向を見てボケっとしている。


『いけー!!』


 前方を凝視する小鬼の胸にバゼラードを差し込む。


GUGE……


 胸を押さえて前かがみに蹲る小鬼。その姿をゲハゲハとあざ笑う二体の小鬼。だが、その直後、首にちくりと痛みを感じた後は、力ががくりと抜け倒れ伏す事になる。見上げると、いつの間にか城門の上に駆け上がったリンクが、上位種であろう武装したゴブリンの首をあり得ない角度に圧し折るところであった。


「ボクより全然早いね」

『魔法を使えばよゆー』

「そうだね。次は使おうか」


 この後のことを考えると、フラウは未だ少ない魔力をここで消耗したくなかった。小鬼を三体仕留める程度なら、毒と一撃で問題なく処理できる。




 

 姿を現し、後方で待機中のプリムに向け手招きをする。その間に、降りてきたリンクが鼻の削ぎ終わったゴブリンの死体を城門脇の茂みへと引き摺り隠していく。


「はや」


 手際の良さに感心し、しばし固まるプリム。


「さて、姿を隠したままでいいから、ここを『土壁』で塞いでもらえる?」

「このプリムちゃんにお任せあれ!!」


 素早く魔力を連続発動させる為、メイスを魔法の杖の様に振るい、その構築位置を指定するように指示す。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土壁の姿を作りだせ……『(barba)(cane)』」


 音もなく地面が隆起し、1mの土の立方体が現れる。


(barba)(cane)』」

(barba)(cane)』」

(barba)(cane)』」


 四つの立方体が城門を塞ぐ。そして、更に『(adaman)(teus)』が重ね掛けされる。


 繰り返すこと四回。


 城門楼の一つが完全に出入りを封じられる。


「はっ、はっ、や、やりましたよぉ!!」

「ちょっと、声押さえて。姿隠している意味ないよ」

『詠唱はしっかり聞こえてるのではないか』


 リンクの言う事が正しい気がする。が、そのまま、城壁の縁を移動し、正面へと回り込む。


 繰り返すのは同じこと。そして、数分と経たずに、二か所の出入り口は塞がれる事となる。通用門のような人間だけが出入りできる門がある城塞も存在するが、規模が小さく、丘の頂上にあるビール城にはその備えは無かったので、これにて完全封鎖となる。


 街一つを囲むような城壁であれば、幾つもの円塔とそれを連結する通路と防御のための兵溜りを兼ねた城壁上のスペースがあるのだが、この城の場合、二つの城門楼周辺だけがそのようなスペースであり、他は単なる石壁が連なっているだけなのが外郭の城壁である。


 さほど大きな伯爵家ではなかったのかもしれない。


 正面の城門楼の出入り口を『土壁』で塞ぐと、見張台へと三人で駆け上る。


『これは便利だな』

「プリムの魔術は凄いよね。小さいの限定だけど」

「そうでしょ。もっと褒めていいんですよ!!」


 プリムの展開した魔術は、魔力の塊を足元に形成し、階段の様に扱う方法。なんでも、王国にいる伯父から手紙で自慢されたことに腹を立てた母親に「できるようになりなさい!!」と厳命された上でできるようになった魔術なのだという。


「魔力が多ければ、この『魔力壁』は結構便利に使えます。魔力を固めているだけですからね」

「ふーん」

『あれば便利だが、無くてもなんとかなるな』


 魔力の少ないフラウにはできない芸当だが、フラウには擦り抜けられる『妖精の小径』がある。ただ、弓の狙撃等をする際に、高所に足場となる魔力の壁があれば便利かなとは思うのだが。





 正面の城門楼からそのまま壁伝いに城塔へと移動する。


 そこには、見張のコボルトの陰。


「どうしますか」

「ここからは派手でも良いと思う。先ずはあの上を掃除して、あの屋上への出口を土魔術で塞いじゃおうか」

『行くぞ』


 さっさと駆けだすリンク。そして、そのまま一体のコボルドの首に噛みつき、引き倒すようにすると、勢いのまま中庭へと放り投げる。


「あ、折角こっそりやってるのに!!」

「プリムも派手にやっちゃって。こっちも始めるから」

「わっかりましたー!!」


 プリムは目についた屋上のコボルドに向け、小雷球を放つ。派手な音を立てて吹っ飛ぶコボルド。屋上の見張が消えた時点で、『土壁』で屋上への入口を塞ぎ始めるが、その前にリンクが階段を駆け下りていく。


「さて、お願いするよ。混ぜて欲しいのは、この薬」

『どくだー』

『どくきたー!!』


 毒の瓶を床に置き栓を抜くと、瓶の周りをクルクルと妖精たちが回り始める。何が楽しいのかはわからないが、いつも以上にテンションが高い。


――― 『霞か雲か、毒霧か』


 瓶の中身が消え去り、中庭には薄灰色の霧が足元から立ち上がり始める。ゴブリンもコボルドも暗視ができる種族なので、霧程度ではさほど視界に問題は発生しない。


 騒ぎを聞いたゴブリンやコボルドが中庭に集まり始め、テンション高く声を上げていたのだが、霧が頭の高さまで立ち込めると、糸の切れた操り人形のようにバタバタと倒れ始めた。


『おい、中庭の霧に入るな!!』


 城館のテラスから顔色の悪い男が現れ指示を出した。


『ニカイニアガレ、キリカラデロ!! GYAAAA!!!』


 フラウたちのいる城塔の階下から断末魔の悲鳴が中庭へと響き渡る。既に、階段を下りて掃討に入っていたリンクの仕業だろう。


「さて、プリム、霧が晴れたら中庭の小鬼に一撃をお願いするよ」

「かしこまりました!!」


 フラウが城壁を蹴りつつ中庭に降り立つと、毒霧は一瞬で消えたのである。




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