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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第五章 『小鬼使い』
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第032話 熱くなれよ

第032話 熱くなれよ


「それってヤバくないですか」

『やばー』

『やばないわけがないー』


 ビール廃城の偵察結果をプリムに伝えると、顔が引き攣ったのが言うまでもない。


「まさか、二人で討伐に向かうとか言いませんよねぇ」


 プリムの問いにフラウは笑顔で答える。


「もちろんだよ。リンクも一緒だし、『ハイレン』と『グリッペ』もだよ」

『はんばるー』

『がんばれよー』


 違う違うそうじゃないと、プリムは否定する。


「いや、でも、百五十の小鬼軍団を、駈出し冒険者二人と従魔で討伐とか絶対無理でしょ」

「無理というのは卑怯者の言葉なんだよプリム」


 できるまでやるなんて言わないでほしい。命は一つなのだからと即座にプリムに反論される。


「はは、正面から戦えば無理だよ。あと、小鬼は夜目が効くから、早朝に攻撃するつもり」

「正面じゃない?」

「そうそう。プリムにも頑張ってもらう。あ、危険はないよ。土壁で城門を埋めるだけだから」

「……なるほど……」

『分かっておらんだろ』

『『わからんちーん』』


 最年長のプリム。が、年齢と理解力は必ずしも比例しない。だって駆け出し冒険者・ニ十五歳なんだもの。


 フラウは、ベラドンナの毒を妖精の魔法の『霧』に含ませて昏睡させた後に殺して回ること、その前段階として、ビール城の二か所の出口を土壁で塞ぐことを説明する。


「城の門を塞ぐって……」

「トラスブルの街壁の門と違って防御用の城門楼の扉だから小さいよ。馬車一台が通れる程度だからね」

「そ、それならなんとかなりゅましゅね」


 なんとなかりそうと安心し噛みまくるプリム。


『明け方はゴブリンにとっての夕方。であれば、真昼なり午後に行う方が効果的ではないか』

「そだね。朝早くでなくて済むし、昼過ぎ頃に始めようか」

「よかったですぅ。早起きは苦手ですぅ」


 プリム、実家で甘やかされて生きてきた二十五歳である。





 市外の河原で『小土壁』の重ね掛けを試してみた。縦横4m、厚さは1mほどの壁を作るのに使用した時間は五分ほど。1m四方の『小土壁』を四度発動した後に、『堅牢』の土魔術を四度掛ける。それなりの詠唱を伴うので、『小火球』『小雷球』の様に瞬時にとはいかないのだ。


「ふぅ、大変でした!!」

「じゃ、戻さないと」

「え」


 勝手に河原に構造物を作ってはいけません。河原のような場所は共有地か領主の持ち物扱い。トラスブルの場合は、市の共有財産扱いであろうか。


 城門を塞ぐ方法は確認できた。その上で、どのような段取りでビール城を攻略するかだ。


 河原から帰りつつ、フラウはプリムに簡単な腹案を説明した。


「その場合、どうやって城壁の上へ移動するんでしょうか」

「妖精に協力してもらうつもり」


 フラウは妖精の魔法『妖精の小径』を使う事で、壁抜けができる事を説明する。その延長で、城壁の下から最上部へ移動するのだ。


「泥棒入り放題!!」

「するわけないでしょ!! そもそも、ボクが大金持っていたら怪しくてしょうがないじゃない」


 宝物など、換金する手段が無ければ持っている意味がない。貴族や富豪がもつような金品を子供冒険者がもっていても、どうやって換金するか手段が無いに等しい。金貨程度なら、武具屋への支払いでと考えられるが、それにしても一枚二枚といったところだ。


 平民は精々銀貨程度までしか扱う事はない。帝国ではなおさらだ。王国は比較的金貨が流通しているものの、日常的に使う機会がほぼないのは普通のこと。


「おばあちゃんが残してくれた財産が多少あるから、ボクが成人するくらい

までなら特にお金に困ることはないけどね」

「そうなんですね。お金を持っていても働くのが苦にならないのはいいことですよ」


 祖母はそれなりに対価を得てビアンカのような冒険者の治療や、高価なポーションなどを作成していたが、村に売る薬などは多少安くして渡していた。でないと、金がないので薬を手に入れられず人が死ぬことで、逆恨みされかねないからだと語っていた。


 ただで施しても侮られ、本来の価値で売れば逆恨みされる。ということで、祖母の薬師・錬金術師としての能力は村ではあまり知られず、村の外で個人的な紹介により知る人ぞ知る存在となっていたのだ。おかげで、ビアンカによってフラウは村を無事に出ることができた。フラウは無事にである。恩知らずな村がどうなっても知った事ではない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その後、一週間ほどビアンカの戻りを待ったものの、約束の目安一月経っても戻ることはなかった。


 冒険者ギルドに討伐がどうなりそうか確認しても「検討中」としか返事はない。街道沿いの警備は強化され、トラスブルの商会はメイン川東側の街道を使用しないように通達されていた。その為、小鬼による襲撃は報告されなくなり、警戒心は希薄になりつつあると感じられた。


 しかしながら、三日置きに様子を見に行っているフラウからすれば、小鬼たちはかなり苛立っており、周辺に現れる近隣住民や行商人を襲って虐殺していることが確認されている。


 メイン川東岸の村や街では、そろそろ問題視され始めているのではないだろうかと思われる。が、冒険者ギルドに依頼が上がるまでにはまだまだ時間がかかり、被害も増えるだろう。


『あのくさい奴やっつけたーい!!』

『庵に来た臭いやつと同じ匂いのするおっさんー』


 それは、下見の最中に妖精たちがふと漏らした言葉。


「なにそれ」

『死人の臭い、くさいやつなんだー』

『おばあちゃんの庵に来た奴とおなじにおいだよー』

「それ、早く言ってよ」


 妖精たちは、魔女狩団の「羊飼い」達が纏うくさい臭いと、廃城の小鬼使いが同じ「死人」の臭いがするというのだ。


 小鬼使いも『魔女狩り』を進める存在の一員なのかもしれない。であるなら、処することを迷う必要はない。準備でき次第、討伐し始めよう。


 何なら、小鬼だけでも削れるなら十分である。





「というわけで、次の休みは楽しい勝手討伐に向かう事になります。いいよね」

「え、何がどうなったんですか!!」


 フラウは、自らが村を出るきっかけになった『魔女狩団』と、廃城の小鬼使いの間に同じくさい死人の臭いがするという共通点を妖精たちが指摘したことを説明する。


「なので、勝手に討伐します」

「ええ」

「プリムも同行するよね。誘ってるんだからさ」

「はぁ、でもその場合討伐報酬ってどうなるんですか」


 小鬼たちの討伐数は、逃げ道を断っているので全滅させることは可能だと判断して百五十くらいだろうか。


「一匹銀貨一枚くらいの常時討伐依頼だから、金貨二枚くらいにはなるんじゃないかな」

「むむ、日当金貨一枚……悪くないですね」


 見た目は幼女、中身はアラサー歩人・プリム。金の計算にはうるさい。


「プリムは出口塞いで、あとは城壁の上からバンバン小雷球を中庭にいる小鬼に放ってくれればいいよ。あとは、自分の身は自分で守ってくれる程度で」

「ふむふむ」

「小鬼の止めはボクとリンクで済ませるよ」


 足元にいるリンクも同意する。さっさと小鬼退治を済ませて、余計なことを考えずに済むようにしたいというのがフラウの本音だろうか。


「あ、討伐証明の剥ぎ取りは手伝ってね」

「畏まりました!! じゃ、さっさと終わらせましょう」


 プリムもだんだんとその気になってきた。フラウの小鬼話に付き合うのも面倒になってきたからというわけではない。ないったらないんだからね!!


 こうして『魔女狩団』と関わりのある存在として、フラウは小鬼使いを討伐することを速やかに決定した。仮に関係ないとしても、小鬼を集めて使役し人を襲わせているのだから討伐する事自体は問題ないのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 フラウは一応、冒険者ギルドに手紙でビール城に巣食う小鬼討伐を伝えた。窓口で話をすると奥へと案内され、ギルマス辺りに「勝手なことをするな」と釘を刺されかねないからである。常設以来の小鬼討伐をどこでしようが冒険者の自由である。フラウとプリムの討伐自体を冒険者ギルドが公式に止めることはできない。


 領主や参事会の頭越しに勝手な行動をするとギルマスが文句を言われる。それを嫌がるギルマスが、あくまでもビール城での討伐をしないよう「お願い」しているだけなのだ。強制の意味を含むのだが。


 精々、冒険者としての昇格の審査の際問題視される程度であろう。十二歳で一人前の冒険者となったフラウにとっては、これ以上等級を上げる必要性も感じていない。星三になると指名依頼が来たり、パーティーを組む時にリーダーとして扱われるといった可能性があるが……そんなものはフラウに不要だ。





 すっかり人影のまばらになった東岸の街道を進むフラウとプリムとリンク。ビール城の近くまで行けば、『頭隠して尻隠す』で姿を隠して接近することになる。


「上手くいきますかね」

「逝くよ」


 何やら不穏な言い間違えである。


 街道を進むと、道端には争ったような跡が散見される。そして、小さな足跡がみられる。破損した兎馬車の跡。


「兎馬は美味しくいただかれちゃったかもね」

「仕方ないですよ。その間に、人間が逃げられていればいいんですけど」


 人の足跡がフラウたちの進んでた方へと残っているので、逃げ出せてはいるのだろう。兎馬車の荷台には恐らく野菜を積んでいただろう籠が破壊されて転がっている。中身は持ち帰っているのかもしれない。


「これ、多分、近くの街に売りに行くところだったんでしょね」

「そうだね。まだ、村だとビール城の異変に関しては通達されていないのかもしれない」


 積極的に民を守る意識が低い帝国の諸侯貴族。皇帝は神に選ばれた存在のはずなのだが、その皇帝となるアルマン王を選ぶのは選帝侯たちという矛盾。選帝侯七人のうち三人は大司教が占めており、その大司教を始め、帝国内の多くの高位聖職者が世俗の君主以上に世俗的という現実。それは、帝国から『原神子信徒』『聖典派』が生まれるのも道理である。


 教会も皇帝も領主も民を守らないのであるから、神との契約の書である聖典のみを信じるという帰結に至るのは至極当然。


「聖典には魔女を殺せなんて書いてないんだけどね」


 歩人のプリム、人狼のビアンカ、そして魔女のフラウ。三人とも「聖典」は物語であるとしか考えていないのである。




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