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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第五章 『小鬼使い』
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第031話 駆け抜ける準備

第031話 駆け抜ける準備


 在郷会館に戻ると、既にプリムはアマリア嬢救出の件を耳にしており、「お疲れ様」といたわられた後……


「ああ、二人だけで討伐したんですかぁ!!」

「いや、あれはプリムが居たら間に合わなかったから」


『妖精の小径』を通すのに、フラウとリンクでフラウの魔力的にギリギリの大きさと量であった。走って追いかけるなら、時間的ロスと不意打ちにならずかなり苦戦しただろう。それに、プリムの魔術の精度では救出対象にも魔術が当たりかねない。


「討伐する時には、必ず誘うから」

「もーーー絶対の絶対のぜーったーいぃですよ!!」

『ぜったーい!!』

『ぜったーいとまれ!!』


 足並みをそろえた行進を止める二体の妖精。


 確かに、ゴブリンに攫われた貴族のお嬢様を助け出すなどというのは冒険者の夢見る王道。とはいえ、見た目美少女の少年が助け出しても、騎士物語は始まらぬ。歩人のアラサー幼女(見た目詐欺)でも同様。だから何も悲しむ必要無し。一片の悔いなし。





 そこからフラウは自分なりにビール城塞攻略の策を考え始めた。ビアンカが戻ってくるのを待って相談するということは念頭にあったが、いつになるかはわからない。


 加えて、冒険者ギルド経由で話を聞くところによると、ビール城を管理する辺境伯家に直接トラスブル市参事会が討伐の依頼をする事も難しいのだという。一旦、庇護者である皇帝を通してメイン宮中伯兼辺境伯にビール城に魔物が棲みついており、近隣の商人・農民が被害にあっているという陳情を受けた旨を伝え、「討伐できないか」と頼む形になる。


 これが王国なら、王国全土が王家の庇護下にあるため即座に騎士団なり冒険者ギルドが討伐隊を編成し向かう事になるのだが、選帝侯領のような大貴族になれば皇帝が命令できることも限られてくる。あくまで、内政の問題であり、討伐するかどうかの優先順位は各領主に委ねられる。


 そのやり取りで時間がしばらくかかるだろうというのだ。


 独自の討伐軍を編成するか、宮中伯から冒険者ギルドに依頼をするのかすら今の段階では不明だ。


 もしかすると、そのまま放置かもしれない。冒険者ギルドにトラスブル市が依頼を出せば魔物討伐依頼の範疇でビール城への立ち入りは許されるだろうが、パーティーを幾つか揃えなければならないだろう。ニ三十人の冒険者で城攻めができるほどの技量となれば、一流=星三以上で揃えることになるだろうか。そうなると、依頼料も跳ね上がる。具体的な被害が未だトラスブルに発生していないので、市の予算で依頼を出す事は現状無理だろう。


 ある程度被害が出るまでは動かない。


「ボクももう少し魔力があればね」

『『無いものねだりー』』

「だよね」


 フラウ自身は、『魔女』の加護、すなわち妖精へのお願いによる妖精の魔法が行使できるので、然程魔力を必要としていない。使えば鍛えられると言われる魔力だが、少々のお願いやポーション作り、あるいは身体強化程度では余り増えない。


 魔力の有り余るプリムに聞いたところ「畑への水まきとか、耕したりとか子供の頃から魔力で沢山してました」と答えが戻ってきた。元々の才能に加え、日々魔力を大量に使い続けた結果の積み重ねであるのだ。


 今から始めても、魔力でどうこうするには時間が掛かるし、間に合いそうにない。




 

 一先ず、フラウは安い短剣の類を集めることにした。


 本当は、ビアンカの貸してくれた魔装の短剣が欲しかった。カッツバルゲルくらいのフラウでも何とか扱える幅広の刃の曲剣である。魔力を通せばスパッと断ち切れるだろう。


 しかし、借りているのは刺突短剣。首なら斬り飛ばせそうだが、背丈の大して変わらない小鬼の首を落とせるほど近寄るのは難儀なのだ。おまけに、切るのではなく『刺す』ことになる。


 なので、フラウは長めの『バゼラード』を数揃えることで対応することにした。数打ちにしては良い品質の鋼を使っている短剣で、ショートソードに近い長さのものもある。刃は細く薄いので斬り合いには向いていないのだが、銃兵や槍兵の自衛用の剣として支給される装備に多い。


 ゴブリン程度なら十分に致命傷を負わせられる片手直剣。長さは片手剣としては短いのだが、フラウの小柄な体型からすればむしろ好ましい。


 下級の傭兵に与えられる剣であるから、トラスブルの武具屋にもそれなり中古のものが出回っている。短矢に毒を塗り突き刺すよりも、何匹か殺せば折れるなり曲がる程度の剣を数多く持って突いて回る方が素早く討伐できるだろう。


 普通の冒険者にはそんなに多くの剣を持ち歩くことは難しいだろうが、魔法袋持ちのフラウにとってはわけないことだ。





 冒険者ギルドに紹介してもらった武具屋でありったけの中古バゼラードを購入。銀貨一枚で二本買えるような質の悪いものであるが、フラウには手立てがある。


 自室に戻り、床にバゼラードを並べる。使い込まれているが、破損しているものはない。とはいえ刃は鈍で、ハンドルも古びて汚れている。本来は、刃の部分だけを研ぎ直し、古い柄や鞘を分解し新しいものと交換して再利用することになる。「本来」はだ。


――― 『むかしに戻りたい』


 並べたバゼラードの上を妖精が飛び回る。その体から魔力が流れ落ち、やがて古びたバゼラードがおろしたての様に真新しくなる。汚れは落ち、剣身は輝きを取り戻し、柄の革や装飾も新品同様となる。


『きれいになったー』

『たー』

「ふたりとも、ありがとうね」


 ふい、とばかりに額の汗をぬぐうフラウ。妖精の魔法とはいえ、数多くのものに行使すれば、頼んだフラウから持っていかれる魔力も相応に増える。長短ニ十本もの短剣を真新しくしたのであるから、フラウにとっては大半の魔力を持っていかれたように感じるのだ。


 倒れるほどではないが。


「毒を使わず、ボクとリンク、あとはプリムで討伐できるような方法はどんな手段があるかな」


 数がこの前と変わらなければ、各配置された場所のゴブリンたちを各個撃破し、なんとかできるかもしれない。それと、あの小汚い男がどのような能力を持っているのかわからない点も気になる。


 魔物使いとはいえ、百に近い小鬼たちを使役するというのは聞いたことがない。数を使役するのなら、例えば群れをつくる狼のような動物の群れのリーダーを従魔にする事で、群を使役することはできる。しかし、その場合、実際魔物使いが使役しているのはリーダーの狼だけである。


 あの廃城の小鬼たちは、少なくとも数体の上位種を指揮官として仰ぎ、

襲撃を複数個所で行わせているように思える。まるで、人間の傭兵の

ようにだ。


「すっごい魔物使いなのか、もしくは、別の能力で支配しているのか。ちょっとわかんないよね」

『わからんー』

『わからんちーん』


 わからないことを深く考えても判らない。とはいえ、あの数の小鬼を集める能力に加え、何らかの強力な魔術也何かが使えるとは考えにくい。何故なら、数を揃えるのは大切だが、それを覆せるほどの能力があれば、わざわざあんな場所に小鬼を集めておく必要はないからだ。


「定期的に様子を見て、あとは、罠も仕掛けておこうかな」

『わなだいじ』

『りょうしは罠をつかうものだから』


 猟師は獲物を追跡する能力は当然大事だが、追いかけて倒すということよりも、行動パターンの中に罠を仕掛けるほうが有効だ。例えば、水場に向かう獣道を見つけ、そこに罠を仕掛けたり、季節柄好物であるものを縄張りの中に置き、そこに罠を仕掛けるなどだ。


 熊狩りなどは、冬の時期、冬眠に失敗した熊相手に罠のある餌場を築いて身動きを封じて狩ることもある。餌台を作り、その周りに落とし穴也、括り罠なり仕掛けるのだ。もっとも、罠を確認する間が空くと、すっかり死に絶えてボロボロになった遺骸しか手に入らなかったりするのだが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 三日に一度、フラウは仕事の休みを利用してビール城に足を運んでいた。距離は少々遠いのだが、身体強化の鍛錬に丁度良いと考えていた。リンクはなんとも無いとばかりに先を行く。大山猫や熊は、一日50kmも縄張りの中を移動するという。


「不味いことになってるね」

『数が日増しに増えている。厄介か』


 三度目の偵察。その都度、毒入りの鹿や兎などを残して去り、残した場所には、アコナの毒を喰らったゴブリンの死体が数体残っているのだが、それ以上の数、廃城内の小鬼は増えているのだ。


「あれ、なんなんだろうね」


 小鬼の群れを集める能力。そのからくりが気になる。


 あの小汚い男は、廃城から逃げ去るのではなくさらに数を集めることを選択したのであろう。最初に見つけた時の倍ほど……百五六十ほどにも数が増えている。その分、餌も必要となるだろうが、その手当はどうしているのかも不思議である。


「巡回の数を減らしたのかもね」

『毒を黙って喰らい過ぎだ』


 リンクの言う通り、外で拾い食いをして死ぬ小鬼が増えたので、城から出さずに確保する方向に判断を変えたのかもしれない。


『少々苦労しそうだな』

「うん。こんなの三人じゃ無理だよね」

『半分でも厄介だったぞ。できなくはないだろうが』


 フラウは考えてみれば、廃城を巨大な落とし穴だと考え、出入り口を塞いでしまえばあとは刈り取るばかりだと思う事にした。その為に、使い捨ての短剣を揃えたのだ。


「ボクとリンク、プリムだけでなんとかなるかな」

『何とかするのだ』

『だよねー』

『いっしょだよー』


 妖精ふたりも一緒だという。なら、なんとかできるかもしれない。


「あの毒を霧に出来れば」

『できる!! できるよ!!』

『あきらめんなよ!! あきらめたらおわりだよ!! もっと熱くなれよ!!』

『煩い』


 フラウはやはり毒をある程度使おうと思った。一つは『硫黄と酸を混ぜ作る毒の気体』で、火山の回りなどで動物が死ぬ原因とされる毒。これは、臭いがきつく存在が分かりやすい。また、影響が出るのに少々時間が掛かる。あと、臭い。腐った卵の匂いがする。


 硫黄は火薬の原料の一つであるし高価。さらに、酸を作るのも手間暇がかかる。そして、成果物は臭い。なので次点に移る。


 今一つは、『ぺラドンナの毒』を使う方法。これは『美人薬』等と呼ばれ、貴族や富裕な家の女性が瞳を大きく見せる効果があると流行したことのある薬なのだが、何のことはない、強力な痺れ薬なのだ。


 瞳が開きっぱなしになるので、眼の大きな美人に見えるということなのだ。これを吸い込むと、意識を失うので大怪我をした時に出血を抑える為に与えたりする。心臓の鼓動が弱まり、出血が減るからだ。さらに投与すれば心臓が止まるのだが。


『こっちはくさくない』

「そうそう。無味無臭なのはアコナと同じ。これを『霞か雲か』の魔法に混ぜて」

『いーよー』

『ノー しんぱいない!!』


 毒をもって小鬼を制す。数が多くても、身動きできないものが相手ならばどうとでもなる。一先ず、フラウはプリムに相談することにしたのである。


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