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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第四章 『修行考』
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第030話 一時の帰還

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第030話 一時の帰還


 フランもリンクも種族の違いは有れども「狩人」の系譜。姿を現し正々堂々などということはもっとも忌避すべき事。気配を消し、相手の死角を狙い不意を突く。


 待伏せが基本、相手に反撃の余地を与えず、急所に一撃を与え死命を制す。


 霧に紛れて接近したフラウは、アコナの毒の付いた鏃を握り、ゴブリンの首筋へと突き刺していく。


 GAAA!!


 GUGYAGA……


 首を刎ねれば死ぬ程度の魔物。毒もそれなりに効果がある。数秒の後、呼吸困難となるか心臓が止まるかのどちらか先に発生する。矢が刺さった事に驚き、抜いたとしても体に入り込んだ毒は遠からず小鬼の命を終わらせる。


「ひゃあぁぁ!!」

『マズイ!! ココニアツマレ!!』


 恐らくは捕らえた女が逃げ出さないように、武装ゴブリンは押さえつけようとその声のする方に女を抱えたゴブリンどもを集めようとしたのだろう。恐らく、最初の悲鳴は、ゴブリンが手傷を負い取り落としたために上げられたものだろう。先行したリンクの仕業か。


『アツマレ!! アツマランカ!!』


 その声の元に向け、フラウは走り寄る。腰の|バウアーンヴェール(Bauernwehr)を抜き、毒を塗った刃を武装ゴブリンの鎧の隙間、脇の下辺りに見当をつけて突き刺す。


『ガアッ!!』


 刺されて初めてフラウがそこにいることに気が付いた武装ゴブリンは、手に持った剣を緩慢に振るう。既にフラウの短剣の先で脇の下の血管が切裂かれ、毒も心臓と肺に回っていく。


 剣を落としがくりと膝をつく武装ゴブリン。口から泡を吹きつつ、ごぼごぼと越えにならない声を発している。が、既にフラウは落とされたであろう女性の元へと近寄っていた。


「リンク、ゴブリンに止めを刺して回って。ボクは女の人を守るから」

『承知』


 妖精の魔法 『霞か雲か』を解除すると、山道にゴブリンがあちらこちらと倒れており、その首をリンクが噛み砕く様子が見て取れた。


「あの、大丈夫ですか」

「わ、わわわわたくしは大丈夫です!! それより、エマが」


 目の前の女性は、十代後半ほどであろうか貴族の少女らしく思える。身につけているドレスのあちらこちらが土で汚れ、やぶかれているが傷はなさそうである。エマとはお付きの使用人の名前なのだろう。


 フラウは、特に目に見えてけがはないと判断し、エマなる女性を探すことにした。


 山道から離れた少し下った斜面の先に、エマらしき女性が倒れている。


「エマさんですか?」

「だ、だれ、ああ、お嬢様が!!!」


 人間に声を掛けられ正気に戻ったのだろうか、主人のことを思い出し混乱しているようである。


「大丈夫です。若い女性は無事ですよ」

「ああ、ありがとうございます。アマリアお嬢様はどちらに」


 どうやら令嬢の名は『アマリア』という名前らしい。フラウは許しをもらいぐるりと体の傷を見て回る。細かい擦り傷はみられるが大きな傷は一見みえない。本人も足を捻って少し痛いが、歩けなくはないという。


「簡単に手当てしますね。下の街道迄は歩かないといけませんから」

「そ、それよりお嬢様を」


 すると、頭上から女性の悲鳴が再び聞こえた。


 四つん這いで斜面を登るエマと、それを横目に駆け上るフラウ。元居た場所に戻ると、アマリアお嬢様の目の前にリンクが対峙していた。魔山猫の姿を見て襲われると思い悲鳴を上げたのだろう。


 フラウは急ぎ駆け寄り、目の前の山猫が自分の従魔であることを告げる。


「ボクの名前はラウ。今はトラスブルを拠点に冒険者をしています。この先の廃城にゴブリンが集まっていて、今日は討伐の下見に来たのですが、あなた達が襲われている事に気が付いて、この従魔のリンクと一緒に助けに来ました」

「……この、大山猫は従魔なのですね。安心しました。そ、それとエマは」


 四つん這いで山道の先に件の女使用人が現れた。


「エマさんは足を挫いたようですが、それ以外はけがはないようです。城のゴブリンが現れる前に街道迄下りましょう。馬車が残っていればボクが馭者を務めます」


 背後を警戒するリンクに殿を頼み、フラウは手元の布で挫いたエマの足首を固定し歩ける程度にすると、先頭に立って山道を下って行った。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 街道に戻ると、そこにはまだ馬車が存在していた。馭者は逃げ出したのか、救援を走って呼びに行ったのかはわからないが、とりあえず二人を馬車に乗せ、魔法袋から水の入った革袋を出して渡す。


「ワイン入じゃないんですけど、飲んでください」

「ありがとう」

「残りは、傷口を洗ったりしてください。その間に馬車が出せるかどうか確認しておきますね」


 主従は水を飲みやっと人心地着いたようだ。


 フラウはリンクに今戻ってきた山道を警戒させると同時に、再び妖精の魔法 『梟鷹の目』を使い、先ほど倒したゴブリンたちを城の魔物が見つけないかどうかも警戒することにした。


 幸い、馬車を出すまでの間、武装ゴブリンたちが倒されたことを廃城の魔物たちに知られることはなかった。


 フラウはエマとアマリアに馬車の行く先を確認すると、幸いトラスブルであるという。なので、そのままトラスブルの街に一緒に戻ることにした。





 あと少しでトラスブルが見えてくる頃、前方から数人の騎乗兵がこちらに向かってくるのが見て取れた。フラウは馬車を街道脇に寄せて止め、その騎兵のために道を開けた。


 すると、騎乗兵は馬足を緩め、馬車の前で止まった。


「おい、この馬車はどこのものだ。誰が乗っている!!」


 先頭の指揮官らしき男が馬上からフラウに詰問を投げかけた。


「ゴブリンに襲われていた女性を助けて逃げてきました。アマリアさんとエマさんというお名前です」

「それは本当か!! では、少々失礼して声を掛けさせていただく」


 全員が下馬し、馬車の前に並ぶ。指揮官の男が中に向け声を掛ける。


「失礼します。我々はトラスブル市衛兵隊の者です。先ほど、プレタ家から同家の馬車が襲われ家人が攫われたかもしれないと救助依頼があり、これから救助に向かうところです。もし、プレタ家の方であれば、お名前をお知らせください」


 すると馬車の扉が開き、中からエマが顔を出す。


「お勤めご苦労様でございます。私はプレタ家に仕える使用人のエマと申します。先ほどゴブリンに攫われたところ、いま馭者を務めてくださっているトラスブルの冒険者・ラウ様に助け出され、ここまで逃れてまいりました。同行しておりますお嬢様も無事です」

「おお、それは何よりです」


 とはいえ、アマリア嬢は衣服も汚れており、貴族の令嬢として人前に出られる姿ではない事、そこまま急ぎ家に戻り無事を伝えたいことを述べる。指揮官は二名の騎兵の護衛を馬車に付けさせてほしいと申し出たためこれを了承。指揮官と残りの兵は、襲撃現場の確認に向かうと馬車を離れると伝えてきた。


「後日、冒険者ギルド経由で呼び出すかもしれん。今日の出来事について報告してもらう必要があるからな」

「承知しました」


 指揮官率いる衛兵隊の騎乗兵は街道を進んでいき、馬車は二名の護衛をたずさえ、トラスブルへと戻るのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ひとまず、二人と馬車を『プレタ家』の邸宅迄送り届ける。貴族街の一角にあるそれが、在郷会館とさほど離れている場所ではなかった。


 到着すると大勢の使用人と共に家の夫人らしき年配の女性が姿を見せる。


「お母様、ご心配をおかけしました」

「アマリア、無事なのですか」


 貴族とはいえ富裕な商人の家柄のようで、母娘の会話は平民のそれとさほど変わらない。エマが夫人に何度も謝罪するが、護り切れなかった従者と逃げ出した馭者の問題の方が大きい。


 従者も自衛程度の嗜みはあるだろうが、多数のゴブリンに囲まれては守り切れるものではなかったので仕方ないと言えば仕方がない。実際、馬車の周りには何体かのゴブリンの死体が残っていた。なので、一人では助けられないとトラスブル迄救援を呼びに行ったのだろう。


 馭者は……そのままに出てしまったのかもしれないが。


「冒険者のラウ様に助けていただいて……」

「そうなの。是非お礼をしなければね。で、その方はどちらに」


 『ラウ』ことフラウは目の前にいるのだが、幼女の如き姿の馭者がまさかゴブリンから助け出してくれた冒険者だと家人の誰もが思わなかったのだろう。仕方ないので、自己紹介をする事にした。


「ご紹介いただきました星二の冒険者・ラウと申します」

「「「……え……」」」

「従魔のリンクです。従魔のお陰でなんとかゴブリンからお二人を助け出すことができました」


 大山猫の従魔、実は魔物化しているのだが、一件は普通の大山猫である。大山猫は狼以上に優秀な従魔であると知られており、家人の想像する普通の小鬼程度なら追い払うことができても不思議ではないと納得する。


 実際は、人間の兵士と変わらない武装したゴブリンも含まれていたのだが。


「娘と使用人が大変お世話になりました。その年齢で既に一人前の冒険者とは優秀なのですね」


 夫人がフラウを誉め、改めてお礼は後日にさせてもらいたいと言われる。表立って怪我はないものの、二人とも早く安政にさせてあげたいこともあり、フラウはギルドに報告に行くので失礼しますとプレタ邸を後にした。




 在郷会館に戻る前に冒険者ギルドに立ち寄りビール廃城の状況と、ゴブリンに攫われた人の救助についての報告を行う。既に冒険者ギルドには、市の衛兵隊経由で情報が伝わっており、受付嬢は「詳しい話は奥で」と案内されることになる。


 奥の部屋には何度か顔を見たことのあるギルマスが待ち構えていた。


「書面を作成する前に、先ず口頭で話を聞きたい。場合によっては討伐隊を編成する必要がある」


 と話を切り出した。一通り経緯と、ビール城に潜伏する魔物の数、そして、『小鬼使い』らしき不死者の存在を報告する。


「不死者か。吸血鬼か、あるいはワイト、リッチ、喰死鬼ということもありえるだろうが……」

「魔物を使役するような個体はいるのでしょうか」

「ふむ……」


 吸血鬼であれば喰死鬼を支配下に置いているという話は聞いたことがある。喰死鬼は比較的簡単に作り出す事ができるし、増やすのも簡単だという。吸血鬼が一体作り出し、その喰死鬼が生者を害すれば、喰死鬼になる。但し、明るい場所では活動できず、陽にあたれば死滅するとか。


 また、吸血鬼は「貴族的」いいかえれば、自尊心が高く特権意識を有するものであり、ゴブリンやコボルドのような小鬼を従えるとも思えない。


 結局、ギルマスは何も返答せず、情報提供の情報料を受け取りフラウはプリムの待つ在郷会館へと戻るのであった。


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