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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第四章 『修行考』
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第029話 囚われし者

高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。

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誤字報告、ありがとうございました。

第029話 囚われし者


 城塞に籠るゴブリンとその使役者。少数で狩るのは難しい。だが、見方を変えればどうだろうか。


 城門楼がある。そして上部の開口部は狭く、狭間はあるが、人が出入りできるような窓の類は城壁の外側に存在しない。それが、小鬼程度であっても。


 城壁の外側は急傾斜の斜面であり、壁自体も6mはある。下の斜面との落差は10mにもなるだろうか。


『攻めるに難く、守に易い』

「そう。逃げだす事も難しい。城門楼の出入り口も馬車が一台はいれる程度。プリムの土魔術の重ね掛けで十分に塞げるんじゃないかな」


 プリムの『土壁』は『小土壁』であり、腰から胸ほどの高さにしかならない。だが、城門楼の扉の高さは精々4m。三四度重ねていけば、塞げない高さではない。加えて、扉の手前には「土牢」も穿っておけば容易に近づけないし、土壁を壊すのも難渋するだろう。当然『硬化』も掛けておく。


『つまり、城壁を檻替わりにすると』

「正解!! 小鬼たちを閉じ込めて城壁の上を片付けたら、上からプリムの『小雷球』を乱射して、動きの鈍ったところをボクたちで仕留めていく」

『小鬼程度、弱らせるまでもないがな。逃げ出せなくして倒すのは悪くない』

「でしょ」

『ごぶりんはー』

『みなごろしだー!!』


 ゴブリンだけでなく、コボルドも皆殺しにするのだが。





 妖精の視点はやがて『城塔』の内部へと移っていく。監視塔と城門楼を側面から支援する役割をもつ城塞の防御の要。


「ゆっくり中を確認したいから、そのつもりで動いてね」

『わかったー』


 地下へと降りる階段。そして、一階には数匹のコボルドが寝転がっている。

先日討伐した中で大多数を占めた小鬼サイズのコボルドばかりだ。


「上へ向かって」

『はいよー』


 二階も同様。ただし、壁の武具棚に朽ちていない手入れのされて然程時間のたっていないスピアやハルバード、メイスなどが並んでいる。そして、兜がかなりの数。そして胸当、脛当、前腕鎧。


 大型の小鬼? である戦士系が装備できる武具を整えているのだろう。日頃使う事はあまり無いだろうが、何かの目的のために蓄えていると考えれば少々キナ臭い。


『どうした』

「あの城塔の二階は武具庫みたいだね。人間の兵士が使うような装備がん- 二十人分くらいは揃っている。ただの小鬼じゃないのは解っていたけどさ」


 商人の隊列でも襲わせるつもりか。山賊もこの辺りでは見かけなくなった。戦争直後であれば傭兵崩れも世にあふれるが、今では神国軍がネデルで常時兵士を募集している。山賊や野盗をするよりも、神国の兵士として雇われた方が割りも良い。山野に潜んで雨風に打たれて彷徨うのは、人間としてもどうかと思う。


 おかげで、商人の雇う護衛も最低限。冒険者ギルドが解雇された傭兵の受け皿としてあるのだが、そもそも、あぶれている傭兵が少ない。なので、トラスブルの商人も油断しているのだ。安全だと。


「余計な手出しをする気はないんだけど、ここに集められた集団は危険だよね」


 近隣の街や村、近くの街道を行き来する商人や旅人にとっては人間の野盗より怖ろしい。金になるなら、身代金を取って生かして返される可能性が高いのだ。アルマン人の文化にある「決闘裁判」の曲解として、盗賊に捕まった商人は「決闘の敗者」と同じ扱いが為される。


 自力で親族が取り返しにくればともかく、そうでなければ身代金を払って解放してもらう必要がある。アルマン人の決闘には性差がなく、男女で決闘を行い女性が勝利した記録もある。故に、女性を腕づくで攫うのも決闘の結果という言い訳が為される。


 決闘の相手に関しても、身分差を考慮する必要はない。農民が貴族に勝利しても問題ない。故に、盗賊が農民を攫うのも決闘の結果とされることも十分成り立つ。何でもありなのだ。


 とはいえ、身代金を払えば解放され、払えなければ借金奴隷として身代金分の労働をするまで不自由な生活を強いられる。


 魔物相手ではそれを望む事はできない。負ければ死。そして、相手は武装した兵士並みの集団。危険でないわけがない。





 城塔は三階と地下があり、三階には人の手を持つコボルドが五体いた。帯剣しており、体の大きさもやや小柄な人間の男性ほどある。フラウやプリムより頭一つ分以上背が高い。


 中庭を越え城館へと至る。L字型の建物で、西側には大広間と城主家族の寝室であったと思われる小部屋がある。北側には台所や食糧庫、使用人が生活していたであろうか小部屋が幾つか。西側にはいくつかの煤けた家具らしきものがあり、広間の奥には大きな背もたれのある椅子に座った、あの顔色の悪い男と大きなゴブリンが数体いる。


「人間の女の人だね。結構年配に見えるけど」

『給仕や身の回りの世話をさせられているようだな。動きが緩慢で少々おかしい』

「おかしい?」

『あの死人(しにびと)に操られているのだろう』


 死人を操る妖術師・死霊術師という者がごくまれに存在するというが、死人が生者を操るというのは効いたことが無い。ついでに言えば、小鬼たちも使役している。小鬼と人間を供に操る術があるということなのだろう。


「リンクも操られる?」

『さて。問題ないだろう。魔熊に勝つほどの力を持つ者が、ゴブリンや農婦を使役する程度の術者に操られるはずがない』

「そうかもね」


 人を操る能力と言えば、高位の吸血鬼のもつ『魅了』の術がある。高位の吸血鬼は長く生きており、魔力も高く相応に美しい外見を持つとされる。『邪眼』ないし『魔眼』と呼ばれる能力は、魔力を纏った視線で対象を見つめることで、相手を支配下に置くことができるのだとか。


 この『魔眼』は魔女狩たちがなすりつける言いがかりのひとつでもあり、「彼奴と目を合わせた後、***な不幸があった」といった形で使われる。


――― 単なる気のせいだろ?


 とはいえ、無かったことを証明することは難しい。なので、何人かが似たような証言を重ねることで『魔女』であると告発されてしまうのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 単に小鬼を殺すだけなら問題ないのだが、あの人間の女性を生かして連れ出すのなら話は別である。そもそも、あの薄汚れた男が吸血鬼で『魅了』を扱えるなら、フランが敵うような相手ではない。ビアンカがいてなんとかといったところだろう。


 救出迄考えると、難易度が高い。


 妖精に戻るように伝えると、フランは考え始めた。


「分けて考えようかな」

『何をだ』


 小鬼は定期的に城の外に小群で出かけていく。そして、徐々に周辺で襲撃を増やすつもりなのだろうと推察される。冒険者や商人を襲い、武器や食料を奪うという事を繰り返すだろう。


 しかし、前回のコボルドのように、勝手に狩りをして自分たちだけ食事をするというような指示以外のことをすることもある。そこで、ゴブリンの行動範囲の中に『毒餌』を撒いていく。


 兎等を狩り、アコナの毒を体内何箇所か仕込んでおき、その『毒餌』を城塞の周囲の獣道などに置いておく。他の野生動物が食べないように、木の枝にでも蔦で吊るしておくと良いだろうか。


『そんなまだるこしいことを』

「いいんだよ。ビアンカが戻るまでの時間稼ぎと、警戒させれば城塞から出てこなくなるでしょ? 食料だって今までより早く減るだろうし、そうなれば、小鬼を操るのだって難しくなる。誰かが小鬼使いの存在を知っているかもと思わせれば、何か変化があるかも知れないし」


 動きがあれば、その結果調査が為され、周辺の領主や冒険者ギルドが討伐を考えるかもしれない。フラウとプリムとリンクで討伐するよりも余程現実的になる。


「あとは、この前のコボルドの群れみたいに、コツコツ削っていくとかだよね。常時討伐依頼の対象だから、それは問題ないし」


 とはいえ、今日は駄目だ。あとで知られたなら、プリムが腹を立てる。今日はあくまで下見だけ。そうフラウは考えていた。


BONN!!


 数百メートル先にあるメイン川沿いの脇街道から火の玉が上がる。


――― 『梟鷹の目』


「急いで『ハイレン』、たのんだよ」

『こうたーい!!』

『いそげいそげー』


 フラウの放つ矢のような速度で『ハイレン』は一直線に火の玉の元へと飛んでいく。その視界を借り、なにが起こっているのかフラウは確かめる。


「一台の馬車が……武装したゴブリンに襲われてるね……」


 馬車の護衛は騎乗の従者一人。これが放ったとも思えないので、恐らく馬車の中の誰かが放ったのだろう。


 馭者は逃げ出し、従者は馬を駆って馬車に近寄るゴブリンを打ち払おうとするが、二手に分かれたゴブリンにより馬車と分断されてしまう。


 剣を馬上から振るっても、ゴブリンにはなかなか届かないし、兜を装備していることもあり、予想以上に苦戦している。


 馬車の中にいる人間をゴブリンが引きずり出す。若い女性……恐らくは裕福な商人か下級貴族の娘だろう。そして、使用人らしき中年の女性。喰い殺されるかと思ったのだが、大柄なゴブリンに腕を掴まれ、街道脇の山道へと引きずり込まれる。激しく抵抗するのだが、軽く殴られ二人とも昏倒したようだ。


 残念ながら従者が大声を上げているものの、『梟鷹の目』では音までは拾えない。


「女の人を攫ってこの城に連れてくるつもりみたい」


 今身の回りの世話をしているのは農民の主婦。貴族の城務めとしては下女にしかならない。身の回りの世話をする使用人、そして城主の相手をする侍女・女官が必要だとでも思ったのだろうか。空家に勝手に住んでいる小鬼使いのくせに分不相応である。


『帰りの駄賃に助けても良いぞ』

「難しい言葉知ってるね。コボルドとは戦ったけど、武装したゴブリンとはまだ経験がないから、いい機会かもね」


 本来なら身体強化を使い全速力で駆け抜ける必要がある。だが、ここにいるのはフラウと魔山猫だけ。ならば、抜け道が使える。


――― 『妖精の小径』


 二体の妖精が繋ぐ近道。ゴブリンが城へと女性を担いで進む、その山道の途中にフラウたちは現れる。


「突っ込んで、足を止めさせて」

『わかった』


――― 『霞か雲か』


 ゴブリンの周囲に伸ばした腕が見えないほどの霧が突如として発生する。


GA!!!


 GUGYAA


『タイレツヲミダスナ!!』


 武装したゴブリンは、人語に近い言葉を話すようだ。知能も相応に高い。魔力や魔術も扱える可能性がある。


 姿勢を低くし、短い矢にアコナの毒をたっぷりと塗り腰に束ねると、フランは霧の中をゴブリンたちの群れに向けて一気に走り出した。





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