第025話 犬鬼退治
高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。
また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。
誤字報告、ありがとうございました。
第025話 犬鬼退治
『妖精の小径』―――妖精二体の力を使い、それぞれの居場所を入口
出口とする移動の魔法。二点間が離れれば離れるほど、あるいは、その小径を
通過することができる質量が大きければ大きいほど、多くの魔力を消費する。
今の『ハイレン』と『グリッペ』の力では、精々、フラウに扉を潜り抜け
させる程度の魔力しかない。距離が離れれば不可能。ビアンカほどの巨漢
なら不可能。
けれど、百メートルほど先の空中に、『新胡椒』の粉をばら撒くくらい……
問題ない。
段取りはこうだ。
密かに、左右に別れフラウとリンクが接敵する。フラウが弓を構え、一射
を放った直後、中空から『新胡椒』をばら撒く。騒ぎ出したタイミングで、
フラウが接近して安全な距離から『小雷球』をできる限りの数、犬鬼
たちに向け放つ。
と同時に、リンクは接近し、魔力爪で二体の槍持コボルドを優先で倒し、
フラウは逃げ出そうとするコボルドを『羊飼いの斧』で倒す。その間、
魔術の攻撃を終わらせたプリムは妖精の魔法で姿を一旦隠す。という
流れである。
「なんかいけそうですぅ!!」
『了解』
「じゃ、配置に付こう」
フラウとリンクは崖の左右へと展開し、コボルド襲撃する開始地点へと
移動する。プリムはしゃがんで姿を見えにくくしてじっとしている。
「さて、はじめようか」
『まかせてー』
『いーよー』
二手に分かれた妖精たち。そして、手元の妖精が作った空間へと、赤い
粉をバラバラと振り撒くフラウ。
「う、ちょっとこれは、きついね。次は、口元を布で覆うようにしないと」
すると、コボルドの集団の頭上5m程の高さから、赤い粉が霧のように
辺りへと落ちていくのが見える。
GAWAAAA!!!!
『メガァ!! メガァ!!!!』
見張りのコボルドも、肉を漁るコボルドも、そして槍を持ち周囲を警戒して
いたコボルドも、一斉に苦しみ始めた。
「いくぞぉ!!」
気合を入れた叫び声を上げるプリム。隠れている意味なし。だがしかし、コボルド
たちはそれに反応する余力無し。
『小雷球』『小雷球!』『小雷球!!』『小雷球!!!』『小雷球ぅ!!!』
『小雷球ぅぅぅ!!』
PAPAPAPAPAPAPA!!!!!!!!!!!!!!!
「をりゃああぁぁぁ!!!」
驟雨が葉を叩くような勢いと音。小石ほどの雷球がバシバシとコボルドに
命中し、その混乱は一層激しくなる。やり切ったとばかりに大きく息を吐き、
しゃがみ込むプリム。
その雷球の驟雨の中を、『効かぬ』とばかりに駆け抜けるのは魔山猫の
リンク。
SHAAA!!!
威嚇するような音を喉から発しつつ、低い茂みを弾丸のように突き抜け
崖下へと至る。
GAUU!!
転げ回るコボルドの脇を抜け、一直線に狙うは槍持コボルド二体。
脛を魔力の籠った爪で斬りつけると、バックリと吊るされた枝肉のように
肉がこそげ落ちる。
『イテェエエ!!』
槍持は、多少言語らしきものが話せるようである。人間のそれとは異なる
声帯ゆえ、おかしな発音に聞こえるが、聞き取れないわけではない。
変わったコボルドだなと思いつつ、弓を背中に廻し、『羊飼いの斧』を手に
持ったフラウは、飛ぶような勢いで薮を駆け抜け一番手前のコボルドの
頭に斧頭を叩きつける。
GAUNN!!
BOGU !! BOGU BOGU……
血の泡を吐き、頭を潰されたコボルドが一体。その横のコボルドに再び
フラウは斧を振り下ろす。元は、狼を追い払うための武器にもなり、大原国や
大沼国の騎士は、日用品と実用武具を兼ね備えたこの小型の斧を馬の鞍に
括りつけている。使い方はメイスと同じ、いや刃の付いたメイスといえば
いいだろうか。
フラウの襲撃に気が付いたコボルドたちが反撃しようとするが、既に
何発もの小雷球と、赤い粉で目と鼻と喉を傷めつけられ、失神寸前の状態
である。体が思うように動かせず、反撃しようにも反撃できない。
既に、二体の槍持はリンクに削られ地面に付しており、その鋭い爪で首を
切られ、死に絶えている。
あとは、コボルドたちに止めを加えていくだけ……という状況なのだ。
一撃、一撃を正確に振り下ろし、コボルドの頭を粉砕していくフラウなの
である。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「お、終わりましたぁ」
「うん、大体ね。あとは、討伐部位を取って、魔石も有れば回収かな」
「了解でしゅ……す!!」
周囲の警戒をリンクに任せると、フラウとプリムは手分けして討伐証明
となるコボルドの鼻を回収していく。このあたり、戦争の捕虜の鼻を削ぐ
のと似ていて、フラウはあまり好きではない。
「血の匂いがしていると、他の動物が寄ってくるかもしれないから、埋め
ましょう」
「そうだね。プリムの小土牢で一発だよね」
「……そうでしゅね……」
恐怖で魔術を乱射してしまい、若干魔力量に不安のあるプリム。だが、
ニ十五歳大人の歩人の女性としては「できましぇん」とは言いにくいのだ。
「でも、この手が変わっているコボルドって、ギルドに報告しないとですよね」
「そうだね。右手だけでも斬り落として持って行こうか」
「えー」
報告はもちろん必要だろうが、右手だけでも持っていくべきだと思わないでも
ない。全身回収してフラウの魔法袋に入れるという方法もないではないが、
ビアンカがいない現状、フラウが魔法袋を持っていると言うことが知られるのは
あまり宜しくないのだ。子供二人にしか見えないこのパーティーを舐める
冒険者や破落戸がいないでもない。
まして、ビアンカがしばらく街を離れることは知られており、魔法袋を奪う為に
二人を襲撃する可能性がないではないのだ。なので、手だけを回収するに
とどめるのだ。
「折角だから、槍はもらっておこうかな」
「えー コボルド臭いですよぉ」
『なにそれ』
『ねぇ、どんなにおい、どんなにおい?』
コボルドは犬顔の小鬼であるのだが、それは、飼い主により森に捨てられ
無念の死を遂げた飼い犬、あるいは、鉱山労働のために使役された犬が
坑道内で死んだ後に無念のため悪霊となり、大地の精霊ノームに取りついて
発生したと考えられている。
家族の一員であると感じていた犬が、突然飼主から森に捨てられ野垂れ
死ぬことになったのなら、飼主である人間に恨みを持ってもおかしくはない。
戦争や流行病で人が逃げ出した町や村に取り残された犬たちが集団で
悪霊化した可能性もある。
「さて、埋めようか」
「ま、まってください!!」
プリムは穴を魔術で掘るのだが、ちょっと浅かったようで「これじゃ、獣が
掘り返せるから意味がない」とフラウにダメ出しされ、無駄な魔力を使うこと
になったりする。
一度に全てのコボルドの死骸を納めることができず、三つほどに分けて
納めることになったのだが。
『何か来るぞ』
「あ、これはまずいかもしれない」
「なんですか、なんなんですかぁ!!」
森の中の縄張りを巡回しているのは、熊、猪だけではない。そう、|小鬼
《ゴブリン》も巡回している。
「一旦、このまま隠れましょう」
「はいぃ!!」
コボルドの死体を穴に放り込んだまま、埋めずに一旦その場を離れる。
遠くから、グギャグギャと興奮した鳴き声が聞こえてくる。
その中で、小鬼と異なる声が聞こえる。
『お前ら、こっちになんかいいもんあるってんだよなぁ』
先ほどのコボルド程の声ではないが、生身の人間とは異なる声の調子。
可能性としては、アンデッド。
吸血鬼は生前以上に魅力的になると言われているので、これは除外。
その吸血鬼の下僕とされる喰死鬼は、知能を失い、言葉遣いも
変わるとされるので異なる可能性が高い。
ワイトは死体に死霊が憑りついた存在であるからこれも異なるだろう。
「な、なんですか、なんなんですか……」
「しっ。隠れるよ、リンクも寄って」
――― 『頭隠して尻隠す』
姿を見えなくする妖精の魔法だが、臭いや気配、あるいは声を消す事は
できない。故に、気が付かれないように大人しくしていなければならない。
暫くして現れたのは、薄汚れた傭兵のような装備の顔色の悪い男と
ゴブリンが五匹。
『お、コボルドが殺されてるじゃねぇか!! 誰だよ、この辺に冒険者が
来るとか、あんまねぇだろ。おい!! 喰えるだけ喰っとけ。持って帰れる
分は持って帰るぞ!』
WYAAA!!!
ゲラゲラ笑いながら喜びの気勢を上げるゴブリンたち。穴に飛び込むと、
何やら騒がしく食べはじめた。
『おい、その胸当とか兜は持って帰るからな。外してこっちへ寄こせ。
は? ふざけんな!! さっさと寄こせこの薄ノロがぁ!!』
GAI……
どうやら、ゴブリンの頭をを力任せに蹴り飛ばしたようだ。
「あ、あの……」
「しっ、あとで」
不意話しかけてくるプリムを制し、フラウはその場所でゴブリンとそれを
率いる謎の存在を監視するのである。
『あれは、死者なのは間違いない』
リンクがそう呟く。魔山猫の気配を感じ、周囲をきょろきょろ確認する
ゴブリンたち。最弱の魔物であるゴブリンたちからすれば、狼は兎も角、
大山猫はかなりの脅威であり、確実に狩られる側なのである。
ソワソワし始めたゴブリンに苛立ちながら、謎の男は兜や胸当など
フラウたちが回収しそこなった装備を手にすると、元来た道をゴブリンを率いて
戻っていったのである。
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。
よろしくお願いします!