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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第四章 『修行考』
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第024話 小鬼と犬鬼

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第024話 小鬼と犬鬼


 狼狩りは日帰りで終わる仕事ではない。狼は熊同様、広い範囲を縄張りとしており、その中を巡回しながら狩りをする。


 一対の雌雄を群の頂点とし、その子供たちが群の一員となり「家族」に似た形で群は形成される。数十頭にもなる群れも存在し、その場合、祖父母・兄弟姉妹・その子供たちという三世代に渡るのだという。


 縄張りの範囲は熊と同程度の十キロ四方程度から、群が大きくなれば三十キロ四方ほどにも拡大される。簡単に見つかるはずもなく、移動経路をみつけ、それを追跡するか経路上に罠を張るかの選択になるだろう。


 あるいは、狩人ならば犬に追跡させ嗾けた上でこちらに誘き寄せ狩ると言うことも可能だろう。とはいえ、個体の戦闘力も集団の戦闘力も狼の方が上。加えて、フラウは猟犬を従えていない。


『狼を探すことなど雑作もない』

「助かるよー」

『たすかるー』

『たすきるー』


 妖精たちに探すのを手助けしてもらうとしても、『梟鷹の目』を駆使して広い範囲を捜索するのは魔力的に厳しい。





 野営の準備をし、トラスブルを出る。従魔のリンクの背中には、馬の鞍に掛ける帆布製のパックサドルのような左右一対の背嚢が背負わされている。


「リンク、重くない?」

『羽のように軽い』

『やせがまんー』

『かっこつけー』


 リンクは鼻を鳴らすと「鍛錬に丁度良い」と嘯いた。


「重いですぅ」

「いや、自分の荷物くらい自分で持たないと。それと、歩人は野営慣れしている人たちだって聞いてるけど」

「私は、都会派の歩人なんですぅ!!」

「……聞いたことないよ」


 食料の一部と水は現地調達。簡易な天幕と、寝具は身につけたマントで済ませるということで、大した量の荷物ではないのだが、村に泊まる前提の前回よりは荷物が若干多い。とはいえ、リンクが背負ってくれている分で相殺されているはずなのだが。


「あんまり文句が多いと、師匠のところに紹介できませんよね」

「……文句? 言ったことないでしゅ……すよぉ!!」


 急に歩幅を広げると、プリムは先頭に立ってぐんぐんと歩き始める。


「プリム!!」

「なに!!」

「そっちの道じゃないよ」


 二股に別れた分岐を、フラウはプリムの進もうとしていた道と反対の方へと進んでいったのである。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 フラウたちが向かう先は、ベルテンベルク公爵領の一角。トラスブルからメイン川を越えて東の斜面を登り、その先の『黒森』西端部から北へ向かい、メイン宮中伯・ファルツ選帝侯領の領都『ロタール(Lothari)』に至る森周辺の狼狩りである。


 ロタールとメインツの冒険者ギルドに両方出されている依頼らしく、狩狼官の下請け仕事なのだ。なので、常時依頼の一つであり、未達によるペナルティもない。ゴブリンやコボルド同様の駆除対象扱いなのだ。


 ゴブリン・コボルドは冒険者ギルドから当該領主へ討伐依頼の請求が回されることになり、冒険者ギルドはその支払い代行という形になるのだが、実際は、先に冒険者にギルドが支払い、後から領主に請求する形となる。


「もし、ギルドの代行払いを領主が拒否したらどうなるんでしょうか?」

「ビアンカに聞いたんだけど、その領主の依頼をすべて拒否することと、支部があれば撤収するんだって」

「まじですかぁ」

「聞いた話だけどね」


 ビアンカは、トラスブルに至る才の旅の間は勿論のこと、小さなころから自分の見聞きした帝国内の話をフラウとその祖母に聞かせてくれた。庵を離れることのできない祖母にとって、外の話は非常に楽しみであり、ビアンカから聞いた話を祖母が更に詳しくフラウにわかるように説明してくれることもあり、とても楽しみでありよく理解できる話でもあった。


 フラウが未だ未熟ながら一人でもトラスブルでやってけそうなのは、幼い頃から見聞きした事柄をよく理解していたからでもある。知識だけでは不十分であり、それを生かす経験や知恵が必要なのである。


 プリムが「成人の儀」で要求されるのは、不足している里の外での経験・知識・知恵を身につけ、里長に相応しい歩人に成長することにあるのだろう。





 森の中の杣人道を歩く二人。そこには、幾つかの新しい足跡が見て取れた。


「むぅ。これは、狼? じゃなさそうです」


 狼の足跡にしては大きい。だが、人の足跡ではなく、なにやら爪と肉球のようなものが見て取れる。


『臭う。これは……』

「コボルドだね。数は……六頭くらいかな」

『そうだ』

『でたー』

『悪い妖精だー』


 フラウの知見をリンクが肯定し、妖精たちがはしゃぎだす。


 コボルドとは、帝国を中心に王国の東部周辺に現れる小鬼の一種。背丈は1m強とゴブリン程度の大きさであるが、犬のような頭あるいはトカゲのような頭を持つ穴居性の魔物である。


 その多くは廃鉱山などに潜んでおり、開けた場所に現れることは少ないのだが、デンヌの森周辺からトラスブルに掛けての山々には、鉱山あるいは天然の鉱床を有する洞穴などが確認されており、古の帝国時代から採掘が行われていた。その為、忘れられたあるいは未発見の鉱山が少なくない為、コボルドが湧くことが珍しくない。


 その一部は、森の中に群れとなって現れることがあり、その鋭い爪や牙を持って人や家畜を襲い食べる。


 ゴブリンほど広く見かけられることはないが、トラスブル周辺ではその限りではなく、ゴブリンと並んで常時討伐対象であるのは、上記の理由による。


「コボルドも狼も犬に似た何かですから、同じようなものですよぉ」

「狼よりもやり易いでしょ? 少なくとも狼は熊並みの速度で走りますけど、コボルドはそうじゃないからね」


 子供並みの体格で二足歩行なのであるから、走ってもさほどの速度ではない。首や心臓といった弱点は人と変わらず、道具を使わない分、コボルドはゴブリンより与しやすい。魔術を使うプリムからすればなおさらである。


 弓で倒すには数が多くてやりにくい。今回は弓である程度手傷を負わせたなら、『羊飼いの斧』で接近戦を熟すか、あるいは妖精の魔法を使ってプリムとリンクを支援するかを選ぼうかとフラウは考える。


『がんばろー』

『おー!!』


 今日も妖精たちは賑やかしである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「なんでですかぁ、なんなんですかぁ……」


 密かに見ているプリムとフラウ。その視線の先には数体の『武装』したコボルドがいる。


 本来、特定の場所から追い出される個体は、その群の中で弱い個体である場合が多い。しかし、目の前のコボルドの中には武装している者がいる。本来、ゴブリンと異なりコボルドの手は人間の手ではなく『犬』のそれに近い。ものを掴んだり握る事ができず、爪で掘ったりあるいは切裂く、牙で噛みつくといった攻撃方法をとる。故に、間合いを取るなり、爪や噛みつきが通じない武具を身につけていれば問題なく討伐できる。


 一対多数で囲まれて殴殺されるようなことが無ければ、討伐は難しくない。半人前と呼ばれる星一冒険者でも、数を揃えたパーティーであれば問題無く討伐できるし、数の多い群であればそのまま逃げてギルドに報告して改めて大規模な討伐依頼を出すことになる。


 この辺り、純粋な冒険者や狩人よりも、傭兵崩れの冒険者の方が正確な判断をする。数が劣っているならば、危険に陥る前に逃れ、数を揃えて反撃するべきなのだ。


 ところが、目の前のコボルドのうち、大柄な二体は、胸当を付け、兜を不格好ながら被り、手にはスピアを持っている。また、短剣を腰に吊るしている。手が変化して、人間のように握れる上位個体が含まれているのだ。兜は最近流行りの面貌がないタイプのもので、おそらく神国歩兵の遺留品かなにかだろう。


 大型二体、小型が十体ほど。小型はいわゆる並のコボルドだが、大型の指示を受け周囲を警戒する者、捕らえた鹿らしき動物を分け合って食べている者に別れている。


「ど、どうします?」

「うーん、ボクとリンクだけなら逃げるのも難しくないんだけど」

『歩人は走るのが遅い』

「しょ、しょんなことにゃいもん!!」


 妖精たちは「どんそくー」「たんそくー」などと揶揄っている。半分ほどで

であれば先んじてフラウが弓で一二体倒し、その後、『小雷球』の乱打で

相手の動きを止め、接近したリンクと、その後をフラウが追撃して討伐できる

可能性が高い。


 逃がしたからと言って、改めて襲撃されるとも思えないのだが、全部討伐するには力不足な二人と一頭。


「コボルドは夜目も効くから、夜襲は出来ないし。今の場所なら逃げ出せないから反撃されるのは明白だし。どうしたもんだろうね」


 茂みの中から観察しているのだが、コボルドたちは背後に半円形の崖下をもつやや開けた林間の場所にいる。監視する方向が制限できるので有利であるのだが、反面、逃げ出す方向も制限される。


 崖に正対するように半円状にプリムに魔術の弾幕を張らせ、リンクとフラウが左右から挟撃するという形なら逃さず討伐できる。反面、反撃されると、数で劣っていることから各個撃破されかねない。特に、魔術に偏っているプリムはコボルドが押し寄せてきたときにかなり危険でもある。


「私一人になるのはちょっと……無理?」

「そこは、妖精に魔法を掛けてもらって姿を見えなくさせられると思うけど」

『魔術を放っている間は無理だろう』


 魔術を使わなければ姿を隠せるかもしれないが、使うのであれば、姿を隠す事は難しい。これは、妖精たちの魔法の力が未だ弱いからだ。これが、精霊・大精霊となれば、容易に隠せるようになるらしい。


『れんしゅうちゅー』

『こうごきたいー』


 ならばと、フラウは一手を考える。


「これを使おうかと思って」


 フラウが懐から取り出したのは、とある植物の身を粉状にしたもの。新大陸からもたらされた植物の中に『神国(Panischer)胡椒(Pfeffer)と呼ばれるものがある。神国からネデルに派兵される兵士たちが帝国に持ち込んだもので、赤い細長い小指ほどの実を持っている。


 一部の園芸家は観葉植物として育てているが、その実は非常な辛みを有しており、細かく刻んで酢などと一緒に使う事で、胡椒のような調味料となるのだ。「新胡椒」等とも呼ばれており、胡椒と比べるとかなり安価でもある。


「それ、赤くて辛い実ですよね」

「そう。魔熊退治の時に使いそびれちゃって。これ、アコナの粉の代わりにばら撒くと、眼とか鼻に入って凄い痛みを発するんだよ。猛獣対策に使うつもりで用意したんだけど、丁度いいかなって」


 眼潰し代わりに、「新胡椒」の粉をコボルトにぶつける。とはいえ、近寄らねばならない。そこでだ。


――― 『妖精の小径』


 コボルドたちの居場所の頭上と、フラウの手元の二点間を妖精の力で一瞬繋げるのである。






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