表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第四章 『修行考』
24/41

第023話 身の振り方

高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。

また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。

誤字報告、ありがとうございました。

第023話 身の振り方


――― 『プリム・アメリア殿 貴殿の類稀なる魔術により、魔熊討伐に貢献された事並びに、トラスブル防衛の教練に多大なる貢献を戴いた功を賞し、「トラスブル名誉市民」の称号を授与する。 帝国自由都市トラスブル 参事会』


 プリムは友邦である「歩人の里」の次期里長ということもあり、今回の討伐に協力したことから、「名誉市民」の称号を授与された。これは、市への出入り自由、商取引の免税、居住する際の諸税の免除、そして滞在時の費用を市が負担する……といった特典を伴うものであった。


 今はそれなりに滞在費が発生するが、将来的に歩人の里長になるのであるから、免税特権くらいが特典になるだろうか。特産は農産物なので、多分貿易はしないと思うのだが。


 加えて、ビアンカは元々名誉市民号を有しているので、「名誉勲章」の授与が為され、フラウとその従魔であるリンクに対しては「感謝状」が授与されている。これは、冒険者ギルドの星二昇格に大変有効であったので、有難くいただいている。


「勲章ったってなぁ」

「名誉なことですよねぇ」


 次期里長のプリムはともかく、名誉勲章など貰った日にはトラスブルが攻撃された場合など、召集されることになりかねない。普通の傭兵なら断れるのだが、「勲章」など貰っていると「貴族の義務」が発生し、協力しないことで処罰の対象にされかねない。


「防衛だけなら協力してもいいんじゃないですか?」

「まあな。ここは居心地もいいし、金払いも悪くねぇ。知り合いもいるしな」


 名誉の対価は軽くはない。が、冒険者としても傭兵としても査定にプラスとなるので、何とも言えない。トラスブルを攻撃しようとする対外勢力が現れることも現状考えにくい。なので、有難くもらっておくということになる。





 子魔熊討伐から一カ月。体調も戻り、練兵場通いと在郷会館での仕事。時折、冒険者ギルドの依頼を受ける毎日が続いている。大きな変化はないものの、『魔山猫』の従魔をもつフラウは、今まで以上に顔と名前が知られ始めていた。


 街中を行き来する際に、フラウはリンクを連れ歩いたりすることは無いのだが、ふらりと姿を消したリンクが、幾匹かの兎を加えて在郷会館に戻ってくることがしばしばあり、在郷会館の使用人や滞在客を通じてその存在が知られ始めていたのである。


「最近、ボクが狩りに行けない分、リンクが獲ってきてくれていると思えばいいんじゃない?」

「うーん、 私も冒険者の仕事、もっと受けておきたいんですぅ」


 ビアンカはそろそろ本格的に傭兵なり冒険者の仕事を受けトラスブルを離れることになりそうなのだという。プリムはフラウとパーティーを継続し、プリムが向かう『ド・レミ村』についていこうかと考えているのだという。


「まずは、手紙を書いて聞いてみないとわからないよ」

「その時はその時でしゅ……す!!」


 元々、一人前の冒険者となるまでトラスブルに滞在し、その後、『ド・レミ』へと向かい、祖母の師匠に弟子入りする予定であったのだが、思った以上に前倒しで星二冒険者に昇格してしまったので、先方に打診していないのだ。十五で向かう予定で、今は十二歳。三年前倒しは、少々前倒しし過ぎという気もしないも出もない。


 とはいえ、『魔女』の加護との付き合い方も、出来るだけ早く学びたいということもある。トラスブルに滞在していても、それは研鑽のしようがない。精霊の加護持ちあるいは、加護について詳しい人間に師事したい。祖母の師匠は『高位得夫(ハイエルフ)』であると伝え聞いている。錬金術だけでなく、魔術や魔力の使い方に関しても高い知識と経験を有しているのだろう。


 また、得夫の血が混ざっていると考えられるフラウからすれば、その種族特有の問題があるかどうかも知っておきたい。


 フラウの父親が自意識の無い「半得夫」であったようで、母親はその顔の良さにほだされて一時夫としていたようなのだが、旅の吟遊詩人(と母親は言っていた)である男は、ある日突然、妊婦の母を置いて消えたのだという。


 男の耳は得夫のように尖ってはいなかったようだが、隔世遺伝のようでフラウの耳はやや尖っている。髪や眼が緑がかっていることも、その血の影響だろう。『魔女』の加護と得夫の血脈がどのような影響を与えるのか、フラウの知る限り、祖母の師匠以外の宛はない。


「手紙を書かないと」

「俺が届けてやろう。面識はある」


 ビアンカは祖母の姉弟子経由で師匠とは軽い面識があるのだという。隠者のような生活をしている祖母の師匠は、フラウは兎も角、プリム迄面倒を見てくれるかというと少々怪しい。


 とはいえ、次期里長であり、デンヌの森と『ド・レミ村』はそれ程離れていない。素材採取の手伝いなどを歩人の里で手伝う伝手ができることも、悠久を生きる高位得夫の師匠にとっては悪い事ではないと考えるなら、芽はある。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『小火球!!』

「はあぁ!!」


 PASHU!!


 刺突短剣に魔力を纏わせたフラウが、その細身の剣でプリムの飛ばした小火球を切り払う。魔力を受けた小火球は、掻き消えるように消滅する。


「むぅ。面白くないです」

「いつまでも、燃やされると思わないでほしいものです」

『燃えてたまるか』


 プリムの小火球を『魔力纏い』の装備で斬るという鍛錬をここのところ続けているのはフラウだけではない。仇の本命である親魔熊『白銀』を討伐する為に、リンクも自らの爪と牙で小火球を切裂き、体毛に魔力を纏わせ弾き飛ばす鍛錬をしている。


 最初の頃はあちこち毛をこがしていたものだが、今では余裕をもって弾き飛ばし、爪で斬り飛ばすこともできるようになっている。


「お前ら、勘違いすんなよ? プリムの小火球の威力は、かなりショボいんだからな。こんなのローソクの炎を吹き消すくらい簡単にできて当然だ!!」

「グサアァ……」


 胸を押さえもだえる見た目幼女の二十五歳、次期里長。


 プリムの魔力量はそれなりだが、大きな魔術を駆使するには『魔力』よりも『体格』『体力』が不足している。出口を大きくしなければ、大きな魔術を発することはできない。その為には、体が資本となる。大きさは変えられないが、体力を高めることはできる。


 自身の体を鍛えると同時に、身体強化・魔力纏いの精度を上げることで威力を高めることはできるはずだ。とはいえ、この場には魔術の専門家はおらず、ビアンカの知見による憶測なので、何とも言えない。


 魔術に関しては祖母の師匠が詳しいはずなので、それもあってプリムはフラウに同行したい。フラウと離れて、単独で別の冒険者パーティーに所属することも不安を感じる。


 帝国の冒険者の大半は兼業傭兵。傭兵募集がない期間を、冒険者として活動しているものが多い。その中に、見た目子供のプリムが一人入って果たして安心して活動できるのか疑問である。


 「名誉市民」とはいえ、傭兵からすれば金を払ってくれる者と、その依頼の対象以外は全て「商品」。歩人の魔術師という珍しいものを『飼いたい』と望む貴族や富豪がいないとも限らない。ビアンカのような高位冒険者はそれだけで割りの良い依頼を受けることが可能であるし、ビアンカはそれなりに裕福なので、プリムを換金する必要性も無いのだが、大半の冒険者兼傭兵は……金がない。なので、プリムは危機感を感じることがある。


 そもそも、フラウと知り合った切っ掛けも、貴族に絡まれていた時であった。


「い、今はショボいけど、将来はよくなるもん!!」

「だとよ。その辺りも、ババアには言っとく。興味持たれればいいけどな」

「よ、よろしくでしゅ!!……す!!」


 長命種あるいは、不死者となったものは、何かの探求する命題を追うものが少なくない。あるいは、暇を持て余して人間の社会に介入し自己表現の場にしようとする。


 高位得夫である祖母の師匠が、探究者であるのか、遊民であるのかは今の段階では不明だが、どちらにしても懐に入り込む必要がフラウにはある。フラウのことは『孫弟子』として受け入れてくれるとのことなので、下働きをしながら、少しでも多くのことを学べればと考えている。


「薬草畑の管理とか、素材の採取なんかで手助けできれば、助手にはしてもらえそうだけど」

「わ・た・し 畑仕事とか得意ですよぉ。美味しい野菜作るのとか」

「薬草は美味しい野菜じゃないけどね」


 修道院や貴族の庭園の一角などには「薬草園」「薬草畑」が設けられている。食事の薬味に使われたり、生薬としてけがや病気の際に直ぐに用意できるように育てられているのだ。フラウの祖母の庵の周辺にも、森の一部を利用した『薬草畑』は存在した。


 フラウが世話をするようになってからは、妖精に見張を頼んで、動物や魔物、あるいは村人などに盗まれないようにしていた。祖母の師匠も、そのような畑を持っているだろうから、仕事が無いことはない。


 それに、森に一人で入るのはやはり危険なのだ。妖精が守ってくれるとはいえ、絶対ではない。プリムの手数の多さも、リンクの魔力を纏う体毛と爪牙もフラウが持ちえないものなのだ。一緒にいてくれるのは、正直心強い。


 それに、リンクの『敵討』に協力してあげたいという気持ちもある。できれば、生き残って、この先も従魔として、出来れば友人として共に生きていきたい。プリムは里に戻るかもしれないが、離れたとしても年の離れた良い友人でいられればと思う。


 現状、祖母亡き後はビアンカ意外に頼れる友人知人のいないフラウ。トラスブルでの出会いを続けて行ければなと思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 晴れて星二の冒険者となったプリムとフラウ。そして、従魔のリンク。


「じゃ、一月ほど二人で頑張れ」

「はい」

「ひゃ、ひゃい!!」


 ビアンカは教官の仕事を一区切りし、幾つかの依頼を熟す為にトラスブルを離れることになった。そのうちの一つは、『ド・レミ村』にフラウの手紙を届け、プリムも滞在できるように祖母の師匠へ頼み込む事にある。恐らく、問題なく受け入れられるだろうとビアンカは踏んでいるのだが、あくまでも予想に過ぎない。


 その間、二人と一頭で、近隣の簡単な討伐依頼を受けることになったのだ。鍛錬も、決まったメンバーでの模擬戦では成長もしにくくなる。人間の盗賊にしろ、ゴブリンやコボルドなどの小鬼、あるいは狼や魔物化した動物の討伐で腕試しをすることも大切なのだ。


 冒険者ギルドにてビアンカの旅立ちを見送ると、二人はそのまま依頼が張り出してある閲覧版の所へと移動した。今のパーティ-リーダーは暫定でフラウが務める。何故なら、プリムの指示の場合、リンクが受けないことがわかっていたからだ。


『なぜ、歩人の小娘の命令を聞かねばならんのだ』

「きいいぃぃ、私、二十五!! もう、いいとしなんだからぁ!!」


 そう、人間よりも平均的な寿命の短い歩人からすれば、大体三十歳を越えたほどの年齢なのだ。古帝国の時代において、一人前の『市民』と見做されるのは三十四歳であった。それ以前は、政治に参加することもできるが「半人前」であるとされた。


 そう考えると、二十五歳で里を離れて『成人の儀』をおこなうプリムは、里長になるのに相応しいと周囲から認められた証なのだろう。本当かどうかは定かではない。


 討伐系の依頼を見ると、『狼』の討伐依頼が目に付いた。


「これ、本来は狩狼官の仕事だと思うんだけど」


『狩狼官』というのは、帝国においては皇帝から下賜される身分の一つで、領地を持たない貴族の官位である。「狼」は鹿や家畜を襲い食い荒らす「害獣」であり、時に人が襲われることがある。故に、『狩狼官』は狼を駆逐し、その駆除した周囲の街や村に『税』を要求することができる。


 その特権を維持したまま、依頼を冒険者ギルドに出す事で、自らが狼を狩る必要なく、税の徴収だけを行うということなのだ。


「大人って汚いですぅ」

「歩人って二十五歳は大人ではないのかな?」

「お、乙女の年齢を口にするものではございません!!」


 プリム・アメリア ――― 歩人 ニ十五歳 乙女(New!!)


「そう言えば、プリムって許嫁とか婚約者はいるんですか?」


 射殺すような視線を向けるプリム。言葉は……ない。





読者の皆様へ

この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作とリンクしているお話。

『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

第七部 連合王国編 更新中☆


参加中!ぽちっとお願いします
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ