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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第三章 『獣討伐』
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第022話 番(つがい)か親子か

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第022話 つがいか親子か


 三人と一頭はトラスブルに向かう。その最中、リンクが思い出したかのように言葉を口にした。


『やはり……あれは仇ではない。仇の子だ。それに番もいるはず。』

「へ?」


 リンクはどうやら先ほど倒した魔熊に違和感を感じていたようだ。毛色の違いは季節によるものだと思っていたらしいが、そもそも大きさが一回り小さく感じていたという。


『仇は……もっと銀色がかった白い体毛なのだ』

「冬毛とかじゃなくって?」


 狼も北に住む種は、保護色のためか白っぽい冬毛を生やすものがいる。


『いや、魔力の掛かり方も甘かった。人間の鋼の槍がささる程度なわけがない』


 銀灰色の毛は魔力を纏い、金属以上の硬度を持つらしい。リンクの母親の爪も牙も全く刺さらず、切れもしなかったと。少なくとも、先ほど倒した魔熊は致命傷にはならずとも切ることができた。


 リンクの話をビアンカに伝えると、ビアンカは怪訝そうな顔をするが、仇じゃねえってだけで、依頼はこれで達成だろと言い切る。


「依頼の出ていた魔熊はこれだろうな。だから、今回はこれでいい」

「ですよねー。早く帰って風呂に入りたいですぅ!!」

「だな。がははは!!」


 プリムも依頼達成の報酬で打ち上げだとすでに気分は高まっている。


 確かにその通りなのだ。今回、リンクは魔熊を仇だと思って戦ったが、半ば通用していなかった。恐らく、単独なら返り討ちに会っていただろう。話にならないレベルで負けていた。


『仇を探しに戻る。ここまでだ』

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!!」


 従魔の契約をしたとはいえ、共闘する為の方便に過ぎない。互いにそれを理解している故に、リンクが立ち去ることに対してフラウは否というつもりは毛頭ない。けれどだ。


「今のままじゃ、仇討てないんじゃない?」

『……だが、お前たちと行動する理由はない』


 リンクとフラウの遣り取りを眺めていたビアンカが口を開く。


「おい、お前。魔物の癖に……いや魔獣の癖に魔力が使いこなせてねぇぞ。そんなんじゃ、魔熊の親にゃあ百年経ってもかなわねぇぞ!!」


 叩きつけるような窘めに、フラウとリンクはびくりとする。


「けど、どうすればいいのさ」

「はぁ、そんなもの、魔獣なら身体強化の先、爪と牙に魔力纏い、毛皮にも魔力纏いができんだろ? 人間は魔銀や魔鉛製の装備を使わねぇと魔力纏いまでいかねぇけど、魔熊もそうだが、魔獣なら自分の体の表面に魔力を集めて、同じようにできんだろ? ほら、こんな感じでよ」


 手甲をずぼっと外すと、ビアンカは指の先の爪を「人狼化」を施し少し伸ばして見せる。そして、その爪に魔力が集まり始めるのが見て取れる。街道の敷石にその爪を押付けると、その石に熱したナイフがバターを切裂くようにズっと差し込んで見せた。


「『!!!』」

「魔獣ならできんだよ。だが、おめぇはできてねぇ。まあ、魔石食っただけじゃ、身につかねぇからな」


 魔力による身体強化は、魔力の存在を知ればある程度身につくものだが、魔力纏いは更に精度を上げる必要がある。魔銀製の装備を持たねばあまり意味のない技術なので、身につけているものは人間には少ない。が、魔力で体を守る上位の魔物、例えば「竜」のような存在を倒すには必須の能力となる。


『竜殺し』という称号は、神殺しに近いニュアンスで語られる。竜は悪魔の象徴であり、神の敵。すなわち、神に匹敵する強者であると言えるだろう。御神子教の伝道以前において、王国や帝国の各地には泉や池に住む水の大精霊である「竜」が神として祀られていた。故に、竜が神に相当するという言葉もまんざら間違えではない。


『ならばどうすればよい』

「どうすれば身につけられるのビアンカ?」


 ビアンカは思案顔である。


「爪の先に身体強化した上で更に魔力を集める……感じだな。フラウ、これを貸してやる。お前も練習してみろ。まあ、これは大した武器にはならねぇがな」


 ビアンカが「スティレット」と呼ばれる、刺突短剣を取り出しフラウに渡す。


「これは?」

「魔銀製……いや魔銀鍍金が施してある刺突短剣だ。これも譲られたものだから、勝手にお前にやるわけにはいかねぇがよ。爪も牙もない人間が魔力を纏った敵と戦うにゃ、こういう装備が必要だ。できれば、魔銀か魔鉛の鏃と、片手剣くらいは用意してやりたいんだが……簡単にゃ手に入らねぇ。金があれば手に入るってもんでもないんだ」


 ビアンカのスティレットはとある依頼の際に、依頼主から必要経費として渡された装備であり、また、成功報酬の一部でもあるという。また、ビアンカの名前と「リリアルの朋・ビアンカ」と古代語で彫られている。貸したとしてもあげて良いものではない。


「どうやれば手に入るの?」

「あー 多分、お前の祖母さんの師匠の知り合い? 祖母さんの姉弟子の伝手があれば何とかなるんじゃねぇかな」

「あー リリアルですよねぇー。わ・た・し も、ちょっとした伝手がありますぅ」

「そうか。あいつも……歩人だったな」


 どうやら、ビアンカはプリムの言う「伝手」に思い当たる人間がいるようだ。


『どうすればいい』

「は? てめぇで考えろ……といいたいところだが。フラウ、お前とその山猫、しばらく一緒に修行しておけ。その為にゃ、ギルドで従魔登録しておくといい。お前の場合、年齢で星二になる条件が枷になるけどよ、従魔が強力なら恐らく特別扱いしてもらえるはずだ」


 恐らく、この魔熊討伐の功績でプリムは文句なしで星二に昇格することになるだろう。十二歳のフラウでは、年齢十五歳以上という正式な冒険者となれる年齢に達していないため「星二相当」という評価の星一冒険者のままとなりかねない。


 星二の依頼は護衛など長期拘束の依頼も多く、割りも良い。が、相応の危険が伴う。野営能力も必須であり、長い時間野外で寝泊まりし、不寝番も務めることから難易度が格段に上がる。故に、体の出来上がっていない見習年齢の者を実績だけで昇格させることはできないということなのだ。


 但し、索敵能力に優れた従魔がいるならば、この条件は緩和される。魔山猫ならば熊以外の獣に余裕で対抗できる上に、索敵能力も高い。リンクを従魔とするなら、十二歳でも星二に昇格できるわけだ。


「なるほど」

「だな。それに、あれより強い魔熊と闘うなら、俺とプリムも力をつけねぇと無理だ。魔銀装備は必須。それと、プリムは魔術の威力を上げねぇと、蛙の面にしょんべん魔術にしかならねぇしな」

「失礼ですね!!」


 今回の子魔熊に対しても、牽制以上の効果は無かったプリムの小魔法群。多数の人間やショボい魔物には効果があっても、一体の強力な魔物には効果がない。


「落とし穴や土槍ももっと規模と展開速度を上げねぇと、見切られちまうな」

『しょぼいー』

『いみないー』

「しょ、しょんなことにゃいもん!!」


 現実を突きつけられ、幼児退行する歩人プリム二十五歳。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 魔熊の首を掲げたビアンカがトラスブルに到着すると、そこにはすでに先触れを聞き集まっていた見物人で門前はごった返していた。


「お帰りなさい教官殿」

「ああ。まあ、なんだ。すげぇ人だな」

「なんで他人事何ですか!! 手でも振ってあげてください」


 ビアンカが魔熊の首を掲げた槍を片手で持ち上げ、反対の手を振ると回りから歓声が上がる。一通り周囲に挨拶をし、門の中へと向かう。これが街を襲った魔物を討伐したならば凱旋パレードにでもなっていただろうが、街道の怪物を討伐したということなので、とくに式典的な扱いはなされない。


 とはいえ、おそらく、司教領とジュノの参事会辺りから感状のようなものは出されるだろう。名誉は金で買えないが、褒めるだけなら只である。この辺りは、今後の依頼料が高めに設定されたり、あるいは何らかの依頼の際には立場が高く設定されることになるだろう。例えば、傭兵契約の場合などに。





「!! お待ちしておりましたぁ!! ビアンカさん!!」


 冒険者ギルドに一行が足を踏み入れると、ビアンカ担当の受付嬢が立ち上がり、大きな声を上げた。ギルド前には討伐した魔熊の首を樽の上にさらし首のように乗せ、見物人が見やすいように場を整え、手隙の職員と衛兵が立ち会うように手配をする。


「プリムちゃんも、ラウ君もお疲れ様でした」

「いえ、あー でも確かに疲れました」

「……」


 完全に寝落ちしそうな顔のプリムは返事をする体力もなく、気絶寸前だ。


「俺が討伐の報告をする。こいつらは、帰してもいいよな?」

「はい。後日、個別に報告をしてもらうことになるかもしれませんが、今日のところはビアンカさんだけで問題ありません」


 ビアンカと同行したプリムはともかく、先行したフラウには、ビアンカ到着前の状況報告は要求されると思われる。それと……


「あ、あの、この魔山猫を従魔登録しておきたんです」

「……魔山猫……大山猫じゃないんですね」

『魔力を持つものは魔物なのだろう?』


 フラウにだけ伝わるリンクの呟き。やや大きな山猫としか見えないのだが、実際はフラウと同世代の人間程度の知能を持つ魔物である。


 従魔登録の手続きを素早く済まると、二人と一頭は在郷会館へと帰路を急ぐ。全員が疲れて寝落ちしそうなのである。





 その後、在郷会館で体を清めた二人と一頭。着替えをし、軽く暖かい食事を得て一息つく。リンクは従魔とは言え、大きめの大山猫にしか見えない。


「倉庫の鼠を片付けてくれるなら、ラウの部屋で飼ってもいい」


 鼠は食料を食い荒らすだけでなく、病をもたらすと知られており、鼠を駆除する猫の存在は好まれている。とはいえ、猫は希少な存在であり、その辺りで放し飼いできるようなものでもない。隙あらば、どこかへ連れ去られることもある。


 山猫の従魔であれば、その危険もない上に、猫以上に主人であるフラウの命令に従う。


「鼠を狩ってもらえる?」

『構わん。食事は別だぞ』

「もちろんだよ! 一緒に狩りに行こう!!」

『承知した』


 フラウが兎や猪を狩ることで、在郷会館の料理内容は充実している。鳥や鹿は規制が掛かっている狩りの対象だが、害獣である兎・猪は多目に見てもらえる。


「なら決まりだ。あー 山猫の名前は何ていうんだ?」

「リンクです」

「よろしくなリンク」


 魔山猫は厨房長の顔を一瞥すると、軽く会釈のように頭を下げた。


 その遣り取りの間、既にプリムは気絶するように寝ていた。椅子に座ったまま背を背もたれに預け、真上を向いて口を大きく開けてグガグガと眠っている。涎もたれている。


「すまんな。プリムちゃん、部屋に連れてってやってくれ」

「はい!!」

 軽く身体強化をすると、プリムをひょいと御姫様抱きする。小さな子供が

小さな子供にしかみえないプリムを軽く抱き上げるのは絵的におかしいのだが。


「大したもんだな。冒険者ってのは」

「はは。どっちかっていうと、狩人ですけどボク」


 そのまま部屋をひょいと出ていくと、フラウはプリムの部屋に寝かしつけにいくのであった。


【第三章 了】



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