第019話 魔熊討伐依頼
高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。
また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。
誤字報告、ありがとうございました。
第019話 魔熊討伐依頼
翌日、司教館のある街『ゾルン』に向かい。討伐に入る旨を領宰殿に伝え山へと向かう。発見の報告があったのは、前回の魔猪討伐の村のさらに山奥らしい。
「では、ビアンカ殿よろしく頼む」
「承知いたしました」
高位冒険者として顔を売ることも大切であるし、司教領からの指名依頼なので、事前の挨拶も面倒だが行わざるを得ない。フランはらしくないなと思いつつも、日頃はガサツなおばさん……お姉さんであるビアンカも公的な場ではしっかり挨拶するのだと意外な思いを感じつつ感心する。
ビアンカが「らしくない」とプリムと二人で弄りつつ、十日ほどぶりに件の村を訪れると、村の中が騒然としている。
「あ、あんたたちは」
「出た、出たんだよ。でっけぇ熊がよぉ!!」
どうやら、山際に近い村の家屋を魔熊らしき巨大な熊が襲ったのだという。木枠と土壁の家が文字通り粉砕され、爆発したかのように崩壊している。
「けど、ありゃ、なんか他の動物と争っていただろ?」
「そうか? 俺は見ていないが」
「狼……いや、でかい山猫か。すごい勢いで飛び回っていたから、多分山猫だろ」
狼も跳躍をするが、山猫ほどではない。木の上に飛び上がったりするのは山猫である。
「あれか」
「リンクちゃんでしょうか」
『うーん たぶんそう!!』
『リンクのまりょくー』
妖精の判定では、リンクの魔力と魔熊の魔力とを感知しているという。山の中で偶発的に遭遇し、そのまま戦闘に突入したのだろうか。「考えておく」とは言っていたが、頼ってくると決めたわけではなかった。
『ハイレン』と『グリッペ』に、リンクが近くの山にいないか探すように頼む。居場所がわかれば、合流するなり魔熊の情報を聞くなりしたいのだ。勿論、怪我でもしていれば治療をすることも吝かではない。
三人は、破壊の状況から、魔熊の大きさを推定する。
「でかいな」
「はい。屋根に手が届くくらいですから。立ち上がると5m超えるかもしれませんね」
屋根は上からたたき割られるように破壊され爆ぜている。
この辺りに住む並の熊の5割増しの大きさだと推定。体重は恐らく三倍近いだろう。その分、力も強く魔物化しているので身体強化も使う。竜には及ばなかったとしても、並の魔物ではない。
「逃げ回って戦いながら、時間かけて削るっきゃねぇな」
「責任重大でしゅ……しゅ……」
プリムのショボい魔術の責任重大である。攪乱し、混乱させて時間をかけて討伐する。毒に水に雷、槍と牙と爪。あるは……
「あれ使うか」
「……はい。できればお願いします」
「あれ?」
ビアンカの切り札である「人狼化」である。魔力の消費が増え、疲労の蓄積と魔力の減退により狂化に至る可能性もあるが、魔熊と一対一で向き合うのであれば、使わざるを得ない。
「様子を見て、切る感じの切り札だ。最初からはやべぇだろ?」
「そうですね。けど、覚悟は決めておきます」
「覚悟!! 覚悟って何ですかぁ!! 何なんですか!!」
完全に魔力を消耗すれば、気絶して人狼化も狂化も解除される。つまり、暴走したなら、魔力切れまで放置し監視しておくということになる。何なら、妖精に頼んで昏倒させることもできないではない。
前回泊まった空家に再び宿泊する。熊は縄張りを持ち、十キロ四方強の中を一頭が徘徊している場合が多い。小高い山一つ分が凡その縄張りだと見当をつける。とはいえ、相手は魔物であり、普通の熊と同じ習性かどうかはわからない。
「どのくらい魔物になってから時間が経つかですね」
「本能が残っているかどうかってことか」
恐らく、魔物となってさほど時間が経っていない可能性が高い。原因は、魔物化した動物を食べた結果。ゴブリンかコボルド、あるいは魔猪の類を食べ、魔石を摂取したからだろう。
でなければ、大山猫の子猫が生き延びられるわけがない。大山猫の巣を熊が襲い、母猫とリンク以外の子猫が死亡。リンクは熊の目を逃れながら生き延び、熊が魔熊化したのを知り、自らも魔物化することを選んだ。大山猫なら小鬼程度をニ三体狩るのは難しくない。首の血管を爪也牙也で斬り、失血死させるか首の骨を折ることで殺せる。
小鬼全てが魔石を持つわけではないので、何体か狩り、自分を魔物化できるまで倒し続けたのかもしれない。やっていることは、人間の駈出し冒険者と変わらないではないか。プリムが呟く。
「なら、番がいるかもしれませんね?」
「……ヤな事思い至るなお前」
「けど、可能性はあります。自分が魔物化したのであれば、番もそうしようと考えて魔物を餌として与えるかもしれませんね」
熊は繁殖期に雄が縄張りを広げ、広範囲に雌と交尾して回る。子供がいる場合、二年くらいは母熊と子熊は行動を共にするのだが。母熊だけでなく子熊にまで魔物を与えていたなら、それは厄介だ。
また、魔熊の母子という可能性もある。フラウは頭の片隅にとどめることにした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
『みつけたー』
『怪我してよわってるー』
「どっちが?」
リンクと戦った相手の魔熊、両方が怪我をし相応に弱っているのだと妖精たちからフランは伝え聞く。二体は離れた場所に降り、一先ず、リンクの隠れている場所まで三人を案内させることにする。
森に入ると、所々、木が爆ぜ折れ間もない場所が散見される。木々の間を疾駆する魔山猫と、それを叩き落そうと暴れる魔熊の姿が目に浮かぶような大惨事である。
「まあ、この辺日当たりが良くなって、新しい木が生えてくるかもしれません」
「だな」
「そんなんでいいんでしょうか?」
森の木々にも新陳代謝が必要だ。同じような樹齢の木ばかりだと、同じタイミングで老木となり木が倒れる。すると、一気に森があれてしまう。なので、嵐などで適当に古い木が倒れ、森の中で日が当たる場所が生まれると、新しい木が生えてきてある程度森の木々の世代交代が上手に進む事になるので悪い事ばかりではない。
装備を整え森へと入る。とはいえ、多くの荷物はフラウの魔法袋に入れてあるので、問題ない。ビアンカの長柄一式やフラウの背負籠も今は収納されている。
「魔法袋が有るなら、野営用のいい装備も放り込んでおけるな」
「魔物除けの結界もありますから、見張も楽になる気がします」
「いいなー そんな楽しい野営……」
プリムは歩人の里で森の中の野営を何度か経験したが、本当に地面に寝そべる野営だったので、かなりつらかったようだ。とはいえ、並の人間よりずっと野外生活に歩人は順応している体をしているのだが。足の裏毛とか。
「焼鳥、焼兎は美味しいですよね!」
「まあな。塩だけで美味い。それと……」
「おばあちゃん秘伝のソースを使えば二度おいしいです」
「なにそれ、聞いていませんよ!!」
「話した事ねぇからな」
歩人は食いしん坊、食べることが生きることといった信条を持つ。なので、知らない美味しいものの話には目がない。フランの祖母のソースには甚く興味を持ったようだ。
「兎、いたら狩りましょう!!」
「こんな場所にはいねぇだろ。いてもだめだ。魔熊と魔山猫が優先に
決まってんだろ」
頭の中が食べ物のことで染まりがちになるプリムにビアンカが釘をさす。
『このもうすこし先のがけのしたー』
『横穴のなかにいるー』
「わかった。もうすぐ助けに行くって伝えておいて」
どうやらリンクが潜んでいる場所が分かったようだ。それまでのビアンカと入れ替わりフラウが先頭に変わる。ペースを上げ、妖精たちの伝えた崖の下の横穴へと向かうのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
崖の下と聞いたのだが、斜面の途中の岩棚のような場所であり、山猫ならともかく、熊は容易に近寄れないような場所にそれはあった。
「登ってきます。落石に気を付けてください」
「おう。頼むぜ」
「き、きをつけて。その間に兎を探して決ましゅ……す!!」
相変わらずの兎の話はいいんだよ。
フラウは背中の弓を降ろし、身軽になると両手両足を使い、スルスルと急斜面を登っていく。幸い、土ではない固い石や岩の多い崖であったので、登のはさほど難しくなかったのは幸いだ。途中、穴兎の巣と思われる場所が何箇所かあったのは覚えておく。
妖精の案内した先にあったのはフラウなら何とか入れそうな程度の横穴。穴兎の巣穴の跡が雨水の侵食で広がったものだろうか。これなら、奥まで入ってしまえば見えず、魔熊から見つかることも襲われる事もないだろう。
『リンク、助けに来た。フラウだよ』
魔山猫に伝わる言葉を魔力に乗せ、フラウは横穴の奥へと言葉を送る。
『……何だ……来たのか……』
そっけない言い方だが、少々気弱な雰囲気の答えが返ってきた。
『傷の具合を見よう。出てこれる?』
何の反応もなかったが、暫くして奥からあちらこちらに乾いた血の跡を残した魔山猫が姿を現した。
「これは酷い。まずは傷口を洗って……」
魔法袋から水の入った革袋を取り出す。その水で体を洗い乾いた血を流し傷を見る。
「結構深く切られたね。熊の爪か」
血が固まりつつあるが、このままでは裂傷の跡が残る。なので、一先ず瘡蓋がはがれるほど洗い、その上でポーションを掛け傷を塞いでいく。既に治りかけの小傷は塗り薬を刷り込んでおく。大きな塞がりにくい傷は傷薬をぬり布で巻いておく。
『手ひどくやられたね』
『……ああ。だが、相手にも傷を負わせた』
とは言え、巨大な魔熊なら、多少の手傷はあっという間に回復してしまう可能性が高い。魔力で治癒能力も高まっているからだ。目の前の魔山猫も並の大山猫なら致命傷の傷が、あらかた塞がりかかっていた。
一発で仕留めるほどの力の差があればともかく、傷を負わせ失血して体力が奪われるのを待って止めを刺すような戦い方をする獣も少なくない。出血が止まらないようになる毒を持つものもいる。爪や牙も、その為の道具であるし、人間の武器も傷を負わ戦闘力を奪うための道具だとすれば同じ目的なのだ。
それが治ってしまうというのは、少々厄介だ。逃がせば、弱って死ぬことはなく、そのまま生き延びて再び暴れ回ると言うことなのだから。
おそらく、魔熊の傷は既に癒えているのだろ。そして、苛立ちだけが高まっている。危険な状態なのである。
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。
よろしくお願いします!




