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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第三章 『獣討伐』
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第017話 熊狩り

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誤字報告、ありがとうございました。

第017話 熊狩り


 魔物同士が戦う理由はないではない。普通の獣のように縄張り争いで闘うことはなく、普通に「食うか食われるか」で争うのである。


『くうかくわれるかー』

『それが自然のおきてー』


 魔物の場合、相手が体内に持つ『魔石』を手に入れ捕食することで、魔物としての能力を高めることができるとされる。強力な魔物化した獣を倒すと、体内に二つ以上の魔石が見つかる場合がある。これは、一つは自身が何らかの理由で魔物化した場合形成したもの、二つ目は外から取り入れた

ものであると考える。


 あるいは、魔石を有する魔物の死体を摂取し、その際に魔石を体内に取り込み獣が魔物化することも十分にあり得る。草食動物の魔物がいないのは、魔物の肉を食べないからであると考えれば辻褄が合う。


 大山猫は虎と比べればかなり小さいが、小型の狼ほどの体格を有し、鹿や猪程度であれば狩ることもある。その力は強く、自身の体重の三倍程度であれば樹上に引き摺り上げるほどであるとか。体重25㎏であると仮定するなら、75㎏あるいはその四倍100kg程度のものなら十分に相手になるという。


 だがしかし、目の前の熊に似た大きさの『魔猪』はそれを大きく超える。大型の猪であれば、100kgを超えるものも存在するのだが、魔猪は恐らく熊並みの2m・200kgはあるだろう。


 魔山猫は何度も背に飛び掛かり、爪や牙を建てようとするのだが、魔猪の毛皮とその下の皮下脂肪と筋肉を貫通しダメージを与えるに至らないようだ。


 畑を転げ回り、あるいは作物を掘り返して二頭の魔獣は争う事を止めない。どちらかといえば、魔山猫が魔猪を一方的に攻撃し、それを振り払うために魔猪が反撃しているように見える。


『いのししー 怒ってるけど、嫌がってるー』

『やまねこー いのししの魔石がくいたいー』

「魔石が食いたい?」


 妖精の呟きを聞き、フラウは思案する。猪狩りのノルマはあと一頭。魔石は特に必要はない。ならば、魔石を譲る代わりに、魔山猫から魔猪の体を譲ってもらう方が効率がいい。


 幸い、大山猫は「狩人」であり、猟師見習のフラウとは親和性がある。親和性のある魔物であれば、通常の獣と同様にある程度妖精を介して会話が成立する可能性がある。


 戦いにケリがつきそうにもないと考えたビアンカが再び近寄ってきた。


「どうする。まとめて倒すなら、そろそろいいタイミングだろ」

「いえ。猪だけ倒せるかどうか、交渉してみます」

「ん……そうか。加護の力か。やってみろ」


 会話中にこちらに攻撃の矛先が向いた場合、咄嗟に逃げられない可能性があると考え、ビアンカはフラウを守るような位置を保つ。追いかけてきたプリムもその後方から杖を構え、反撃できる態勢を整える。





 妖精はフラウの言葉を伝え受け、『魔山猫』に向け伝令に向かう。魔山猫は一瞬、びくりと動きを止めたが、そのまま無視するように戦いを継続している。


 魔猪に振り落とされ、鼻先で突き上げられ、前脚で踏みつけられつつ、なんども飛び掛かるが、徐々に勢いが失われているのが目に見えてきた。


『なんか猫まけそー』

「だよね。死にはしないだろうけど。そろそろ、こっちも手を出す事にしようかな」


 いよいよ動きが鈍く成った魔山猫を、魔猪が突き上げ地面に倒れたところを突進し弾き飛ばす。地面を掘り上げ、激しく転げ回り魔山猫は倒れ伏した。


――― 『妖精の小径』


 二体の妖精の力を借り、離れた場所を繋げる魔法。大きなものを通す事は難しいが、矢を放つ程度なら問題なく行える。


 アコナの毒を鏃にたっぷりと塗りつけ、鎧通の如き鏃の付いた長いやを速射で次々と魔猪の後肢に放つ。短い矢なら連射が難しいが、長ければ相応に放つことができる。


 遠目に、何もない空間から突然矢が飛び出し、二本三本と後ろ脚の付根のあたりに突き刺さっていく。痛みより驚き。何もいないはずの場所から突然矢を撃たれ、そして呼吸が困難になる。アコナの毒が頭痛と眩暈、神経の痙攣が伴う。


「お、俺の出番だな!!」


 ガクガクと四肢を痙攣させ、魔猪はやがて横倒れとなる。近づいたビアンカは、戦槌のピックを頭部に二度三度と叩きつけた。


 叫び声を上げる事も出来ず、体を痺れさせた魔猪は頭を叩き潰され絶命したのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 畑に出来た深い畝のから、魔山猫はフラフラと立ち上がった。


『さて、魔山猫君。君は、この魔猪の魔石が欲しいのだと思う。譲ってもいいが、どうする?』


 妖精を通じてフラウは魔山猫に打診する。余計な争いは起こしたくない。魔猪より魔山猫の方が、フラウたちにとってはやりにくい相手だ。フラウやプリムサイズの人間なら、並の大山猫でも狩られる危険がある猛獣なのだ。


『いいのか?』

『いいよ。何か理由があるんでしょ?』


 ふらつきながらこちらの様子を伺う魔山猫。警戒を解かない背後のビアンカとプリムを制し、弓矢を地面に置きフラウは魔山猫と対話することにした。


『そうだ。もらえるなら助かる』

『いいよ。友達なら当然だ』

『ともだち……とはなんだ』

『助け合う関係だよ』

『なかまか。偶に共に狩りをすることもある。冬場などはな』


 狼が群れをつくることは知られているが、大山猫も獲物の少ない時期は数頭で群れることもある。必要があれば助け合う、それでいい。


『ボクの名はフラウ。君の名は?』

『名などない』

『じゃあ、ボクがつけてもいいかな?』


 魔山猫は黙って頷き首肯した。


『リンク。君の名はリンクだ』

『我が名はリンク。フラウのとも、リンク也』

『ぼくは「ハイレン」』

『「グリッペ」だよー』


 妖精二人も自己紹介する。魔物は妖精が見える種がいる。どうやら、リンクは見えるようで、分かったとばかりに二人を見て頷く。ちなみに、ビアンカは『人狼』の加護を使用すれば見え、プリムは常に見えている。


『これをどうぞ。傷が治るよ』

 

 木のボールにポーションを注ぎ、フラウは地面へを置き後ろへと下がる。警戒するように近寄る魔山猫。そして、鼻を近づけポーションの匂いを嗅ぎ首を傾げる。


『毒見をしよう。近づいてもいい?』


 頷き、距離を取る大山猫。そして、ポーションに口をつけ飲んで見せる。


『薬草から作っているから、ちょっと草っぽい臭いと味だけど、傷は普通の薬草より良く治るよ』


 再びポーションを地面に置き、フラウは元居た場所へと戻った。


 ボールに顔をよせ、中身を下でペロペロと舌を出し入れし少しずつ口にする。


『!!!』


 どうやら、魔猪に傷つけられた場所から痛みが消えたようで魔山猫は驚いているように見て取れた。


 プリムが「これもあげたらどうでしょう」と、昨日の食べ残しの兎肉を焼いたものをフラウに差し出した。


 同じように、自分も同じものを切り分け半分食べて見せ、魔山猫に差し出す。すると、一口確かめるように食べた後は、一気に残りを口にして食べ終えた。


『美味いな』


 魔山猫リンクの呟きに妖精が反応する。


『まいうー』

『焼くとおいしさばいぞー』


 妖精は基本的に人間の食べ物を食べないのだが、興味を持てば与えることもある。味の良し悪しはわかるようで、お陰でハズレの屋台を選ぶ失敗をしなくなって久しいフラウである。


 


 

 傷も癒え、腹も満たされたので落ち着いたであろう魔山猫。魔猪の魔石を取り出し、リンクの目の前に置く。ゴブリンやコボルドの持つ魔石は小指の爪ほどの大きさだが、魔猪のそれはやや大きくマスケット銃の弾ほどの大きさであった。


 リンクは一口で飲み込むと、満足そうに口を開け笑ったような顔になった。


『世話になった』

『なんでもないよ。友だちでしょ?』

『そうか。ともなら何でもないのか』


 フラウは、何かしら思う事のあるリンクを見て、改めて話を切り出した。


『なぜ、魔石が欲しかったの? 良ければ話だけでも聞かせて』


 熊ほどもある『魔猪』を命がけで狩ろうとした理由。それが魔石であるとするならば、魔石を欲する理由は相応のものだろう。


『親兄弟の仇の熊がいる。それを倒す為だ』


 なるほど、とフラウは納得した。大山猫は子供を産むが多産ではない。二から四頭の子供を一度に産むと言われる。大人になるにはニ三年かかると言われるので、巣立ち前に母親と兄弟を襲い殺した熊がいるということなのだろう。


 リンクの話をフラウ経由で聞いたビアンカは「無謀だろ」と呟く。いくら強い大山猫でも、森の王である熊を倒す事は相当困難である。人間が狩りをするならば、『罠』を用い、熊を落とし穴や石牢に追い込んで、外から槍で突いたり石をぶつけて弱らせて討伐する。


 あるいは、子熊を捕らえて育てたものを殺すという方法も獲られる。猪よりさらに強力で凶暴な獣である熊を、人間ですら討伐するのは困難を極める。フラウなら罠と毒を併用して弱らせてから殺す事になるだろう。


『この近くにいるのかな?』

『近くはない。最近縄張りを変えたようだから、こっちに近付いているかもしれないが』


 虎と熊なら互角か虎がやや有利と言われる。虎は遥か東方の諸国に住む巨大な『猫』に似た動物である。帝国周辺では内海南方や古帝国時代には内海周辺から集められたこともある『獅子』が有名だが、虎は獅子より大きな獣である。雄の成獣の大きさは熊と変わらず、大山猫を巨大にした能力を持つ。当然、人間を食う事もある。


『なら、手伝ってもいいよ。熊狩りだね』

『……考えさせてくれ』


 猪狩りと同様、弓とアコナの毒で熊を弱らせるのは、魔山猫のリンクには出来ない事だ。いわゆる『助太刀』というものになるだろうか。





 フラウは自分の居場所がわかるように、「従魔契約」を結ぶようにリンクに伝える。当初は難色を示したものの、「友誼の証」としてならということで受けいられることとなる。


 猪狩りはこれにて目途が立ったので、今後はトラスブルに戻ること、何かあれば妖精経由で伝言して欲しいと伝え一先ず別れることとなった。


「魔山猫の従魔か。悪くねぇ」

「すごいでしゅ……す!!」


 従魔とは言え仮初の関係。あくまでも、リンクが仇熊を討伐するまでの契約である。とはいえ、友となった事は変わらない。野生の魔物として野に暮らすか、フラウと共に過ごすかは敵討ちの後の話になるだろうとフラウは考えていた。


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