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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第三章 『獣討伐』
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第016話 抗う獣

高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。

また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。

誤字報告、ありがとうございました。

第016話 抗う獣


 到着した初日に一応の依頼達成……とその後の交渉であと二頭を狩る

ことになったベテラン駆け出し冒険者パーティー『森工房』。嘘ではない。

ビアンカは星四のベテランを超えた英雄的冒険者。他二人は

星一になりたてほやほやの駈出しオブ駈出しである。


 とはいえ、歩人実年齢二十五歳のプリムは勿論、祖母の薫陶を幼いころ

から受けていたフラウも能力的には一人前の冒険者に匹敵する面はある。

猟師としての仕事を習い、あるいは里長見習として村の運営に様々関わってき

たのだ。


「この畑やる気ないですね」

「多分、焼畑から始まった畑だから、施肥とかあまり手を掛けていないんじゃ

ないかな? 猪垣も手が入っていないようだし、ひとでがたらないんでしゅよ

……すよ」


 どうやら歩人に帝国語は難しいようだ。


「森にそのうち飲み込まれるんだろうな。まあ、元は森だったところが元に

戻るだけだ。猪を多少狩ったとしても、遅かれ早かれだ」

「ですね」

『だよねー』

『だものー』


 北に山脈がデンヌの森に向けなだらかに続く場所である。人の手が

入らねば森に戻るのも早い。最近、トラスブルの街中で終始過ごしていた

こともあり、この場所はフラウの友達である二体の妖精にとって居心地が

よいようだ。


「まあ、時間はある。ここでのんびりするのも悪くねぇ」

「確かにそうかもです」


 自分の畑を耕したいと、故郷の里を思い出しちょっと黄昏るプリム。


「今度、歩人料理を教えてください」


 とフラウが言えば、厨房長の許可を取って実際、一緒に作って賄いに

出してみようと言うことになった。


「歩人料理かぁ……量は多いんだよな?」

「そこは味じゃないんですか」

「量は多いですよ! 歩人は食いしん坊が多いですからぁ」


 だそうだ。


「メガマッシュのステーキとか、絶品ですよ」

「この辺だと手に入らないですよ」

「ああ。まあ、貴族だと高い金払って手に入れる見栄張るから、珍しくはねぇがな」

「がーん!!」


『メガマッシュ』というのは、歩人の里では自生だけでなく栽培もされている

大人の男の掌ほどの大きさのあるマッシュルームのことだ。肉厚で食べでが

ある。


「ハーブで下味付けて、山羊のチーズを乗っけてアツアツを食べるのが

美味しいんですよ」

「そりゃ、美味そうだ」

「山羊のチーズは贅沢ですね。最近、場所によっては山羊の飼育が禁止

されていますから」


 山羊は草を根から食べてしまうので、森林を伐採し過ぎた地域では木々の

再生のために山羊や豚の放し飼いを禁止している。山羊や豚の森林放牧は

農民の権利とされていたが、森が駄目になる。森林が豊かで人の少ない

時代には有効だったが、いまではそれも難しい。結果、農村が困窮し叛乱

を起こす一つの要因にもなっている。


 豊かな森には獣が豊富である反面、それを餌とする魔物も多くなる。

ゴブリンやコボルドが数を減らし、襲撃される被害が減っている事は良い

ことなのだが、森が貧しくなっていることの裏返しでもあるのだ。


「兎のシチューも作りたいですぅ」

「兎は駆除対象だから、手に入りやすいかもな」

「後で、狩っていいか村長に聞いてみましょう。括り罠でイケると思いますから」


 猪ほどではないが、兎も農地を傷める害獣だ。毛皮も肉も獲れるので

わざわざ冒険者に依頼することはないが、猟師にとっては手堅い獲物と

言える。


 兎は繁殖力も強く、多産なので放っておくと畑が穴だらけになることも

少なくない。兎狩りをするために猟犬を確保しているようにも見えないので、

猪同様、困れば余所の猟師に依頼しているのかもしれない。


 因みに、鹿や麗容に魔物はいないが魔兎はいる。魔物になる由来は、人間の

悪霊由来、精霊由来、魔物を食べた際に魔力の核である『魔石』を食べたことに

よる後天的な魔物化などの理由がある。熊や猪、あるいは狼や山猫など

が魔物化する理由は、魔物の死肉を得た後、魔石を口にしたことによる。


 故に、魔物の魔石を回収する必要があり、出来る限り魔物の肉体も

燃やすなりして肉食動物の口に入らなくする必要がある。鼠は死肉を

食べるので魔物化しそうなものだが、魔石を取り込めるほどの大きさでは

ないことが幸しているのか、あるいは魔物化しても弱いからなのか魔鼠

というものは報告されていない。魔兎がいるので、魔鼠もいそうであるが。


 魔梟や魔鷹なども存在するかもしれないが、今のところ報告を受けた記録は

ない。草食動物系の魔物はほぼいないと言って良いのは上記の理由による。

魔石を粉にして飼料に混ぜたなら、魔物化するかもしれないが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 兎狩りの許可は端的に言って「半分寄こすなら」という条件で許可された。

かなり図々しい。とはいえ、猪も最初の群れが居なくなり森の中での競争

相手がいなくなったためか、あるいは単なる偶然か、翌日は一頭の猪も

朝晩共に見かけず空振りであった。


 仮の宿である空家に戻り、捕らえた兎と物々交換した野菜、それに森で

採取した野草を入れたシチューをプリムが作ることにした。歩人料理である。


「お、いいできそうじゃねぇか」

「この野菜だけで、兎一羽分ですからね。結構、ぼったくりですぅ」


 小さな笊に乗る程度の野菜。これは一羽の代金としては少なすぎる。


「がめつい村っぽいですからね。ここの依頼は二度と受けません。ギルドにも

報告しておく方が良いかもしれませんね」

「俺から言っとく」


 冒険者や猟師に良くしておけば、あとあと何かの事態の際も好意的に

行動してくれる。持ちつ持たれつが世の中だが、閉鎖的な村においては

村の外との関係を構築するのは合理的だと思わないのだろう。その代わり、

村の中でのやり取りは義務感とやらないと何をされるかわからない強制力を

伴い無駄に濃厚となる。


 村の荒れ具合からして、若い能力のある者から村を抜け出している

のだろう。若い娘は村長の娘の他はほぼおらず、男は多少見かける者の

親の言いなり感のある胡乱げな視線の男ばかりである。


 本来は青年会的な若者の集まりが自警団を組織して猪くらい狩れる

のではないかと思うのだが、組織するほど若者がいないのだろう。


「村から出たいという気持ちは良く解ります」

「そうですね。実際、トラスブルでの生活は刺激があります」

「帰れるところがある奴はそうかもしれねぇが、帰るに帰れねぇのなら

それはちょっと違うだろうぜ」


 帰ることが決まっているプリムはともかく、フラウとビアンカは戻れる場所は

無いと言えばない。フラウはいつか祖母の庵へ戻るつもりだが、何年も

先のことになるだろう。少なくとも『魔女狩り』ブームが終わるまでは帰る

つもりはない。


「ビアンカさんの故郷は遠いんですか?」

「東の大山脈の山奥の里だ。なーんもねぇよ。山羊と羊が沢山いるだけの

場所だ」


『大山脈』といえば法国と帝国・王国を分ける東西に延びる山々だが、

西の大山脈は王国と神国を隔て、東の大山脈は帝国・ベーメンと大原国・

大沼国を隔てる山である。


 そのどこかにビアンカの故郷がある。フラウもプリムも「帰らないのか」

とは聞かなかった。いくら膂力に優れたベテラン冒険者・傭兵とはいえ

女性がそうした場所に身を置くにはそれなりの理由があるのだ。故郷に

留まれない理由。それはおそらく彼女の持つ『人狼』の加護に関わること

に違いない。


『魔女』の加護はさして悪さをする事はないが、『人狼』の加護は、自分で

意識して管理しなければもてあます事になることもあるという、いわく付きの

『加護』であるとされる。むしろ、加護ではなく『呪い』に近い。


 それを忌み嫌われ、放逐された……という可能性が高い。


「まあ、あんまいい想いでもねぇから、田舎の村は嫌いだ。特に山の中の

村はな」


 独り言にも似た呟き。二人は黙って料理を口にする事にした。





 翌日、早朝に森の際から一頭の猪が畑に入り込むのを確認。


――― 『頭隠して尻隠す』


 妖精の力を借り、フラウは姿を消しゆっくりと狩り小屋から歩を進める。


……HUGA!!


 フラウの気配を察した猪は、鼻を鳴らして顔を上げ周囲を警戒する。

フラウの『魔女』の加護は、妖精の力を借りて魔術を行使することができる。

その場合、妖精一体に付き、一つの妖精の力を発揮できる。 『頭隠して尻隠す』

は『ハイレン』と『グリッペ』のどちらかが行使してくれている。


 姿は見えないが、体温や足音、臭い迄消せるわけではない。なので、

猪はその気配を察して警戒しているのだろう。とはいえ、見えない故に

「気のせいか」と食事に戻る猪。


 地面に鼻先を擦りつけ、土を掘り返し地面の下にある昆虫や等何やらを

探し食べている。この畑には蕪が植えられているので、蕪を食べている

と思われる。猪も野菜だけではなく他のモノもバランスよく食べる雑食だ。


 フランは背後に回り込み、アコナの毒を鏃に付け狙いを定めて放つ。


SHOOT!!


TANN!!


 再び狙い定めた後ろ脚の付け根に矢は突き刺さり、驚いた様の猪を横目に

隠れていた場所からビアンカが戦槌を片手に飛び出してくる。逃げようとする

猪の背後から、二本目の矢が反対側の後肢に突き刺さり足が痺れたのよう

に痙攣し始める。アコナの毒は神経を侵す。頭を振りながら彷徨うように

逃げ出すが……


「おらよぉ!!」


PIGGYYYAAAA!!!!


 立ちふさがる様に飛び出したビアンカの振り下ろす戦槌のピックに

頭を貫かれ断末魔の叫び声と共にガクリと地面へ倒れ込む。


「よし!!」

「あと一頭!!」

「朝はここまでかな」


 猪の上げた叫び声でしばらく獣は近寄ってこないだろう。


 猪を縛り上げビアンカが担ぐ。さっさと戻って朝食を食べようなどと

三人が話していると、突然、森の際の樹木が爆ぜるように倒れた。


「警戒!!」


 プリムは杖を手に持ち魔術を発動できるように身構える。ビアンカは

猪を放りだすと、再び戦槌を手に爆ぜた場所を凝視する。フラウは再び

矢をつがえた状態で 『頭隠して尻隠す』を発動。先行して森の際へ

と駈出した。


 大きな黒い塊と小さな黒い塊が少々距離を取って互いに姿勢を低くし構えている。


「熊?」

『くーまじゃないよー』

『りょうほうまものー』

「え。魔物?」


――― 『梟鷹の目』


 梟の如く暗闇でもものを見ることができ、鷹のように遠くのものを見ることが

できる。遠距離からの狙撃を決める時に発動する妖精の魔術=『魔法』

なのだが、今回は魔物を見極めようと使っている。


 小さい塊は恐らく『大山猫(ルクス)』が魔物化したもの。若い個体に見える。

大きな塊は『魔猪』。先ほど倒したものの倍ほどもあり、熊と見間違えるほど

巨体である。


「どうする」


 追いついてきたビアンカに問われ、フラウは答える。


「距離を取り傍観します。三竦みになるのも良くないので。下がって下さい」

「お、おう」


 漁夫の利ならぬ猟師の利を取るべく、矢を持ち警戒しながらも、二体の

魔物の戦いを傍観することに決めたのである。





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