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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第三章 『獣討伐』
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第015話 猪狩り

高い評価及びブックマーク、ありがとうございます。

また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。

誤字報告、ありがとうございました。

第015話 猪狩り


 正直、猪と狼なら狼を狩る方が楽である。大体、狼はそれほど大きくは

ならない。所詮は犬サイズなのだ。猪はその倍ほどの大きさを持つし、

逃げ足は犬よりも早く跳躍力もかなりある。にもかかわらず、素早さはさほど

変わらない。飛び跳ねるように森の中を駆け巡り、方向転換も一瞬である。


 襲い掛かってくるなら討伐のしようもあるが、逃げられれば難を招く。

畑や村周辺に姿を現した猪をどうにかそのまま討伐したいのだ。


「まあ、五頭ずつ定期的に駆除していけば、この村は定期的に安く肉が

安全に手に入る。その辺狙ってんだろうぜ」


 村人も馬鹿ではない。討伐依頼を出すだけなら赤字だが、肉が手に入る

のであればある程度相殺できる。また、司教領であるにもかかわらず、害獣

駆除のために騎士・兵士を派遣できない代官たちにも強く出ることができる。


 恐らく手に入れた肉の幾らかは、司教館のある街『ゾルン』で売却

されたり、税の一部として司教に納めるのだろう。それなりに逞しさを感じる。


「そういえば、娘さんがぼやいていたけど」

「ああ。猪の食害が『魔女』の仕業とほざいている馬鹿がいるって話だろ?

帝国自由市は原神子派の泰斗がいる街だが、こっちは御神子教会の

影響が強い。お前の育った村に似ているが……そこまで馬鹿が多いわけ

でもないんだろうぜ」


 人手が足りていないように見える村で、魔女狩り騒ぎを起こす意味がない。

それに、猪を使役できるのなら畑を荒らすより肉になってもらう方が余程よい。

何故そうしないのか、理解できないまである。





 猪は視力が弱く、嗅覚が発達しているという。故に、夜行性でなくとも

光の乏しい薄暮の時期に活動する方が人間や狼などに出くわす機会が

減るので有利であると習性として学んでいるのだろう。


 故に、猪狩りは薄暗い早朝、あるいは日暮れから夜早い時間に行う

ことになる。


 畑の片隅に監視用の即席の小屋を作り、周りからは「刈り取った麦わらを

干してある」ように見せかけている。プリムとビアンカがペアとなり、遊撃の

フラウは単独でと二手に別れ小屋に籠る。


 プリムとビアンカの間には妖精である『ハイレン』と『グリッペ』がそれぞれ

ついており、離れた場所でも妖精経由で話が伝わるようになっている。


―――『風の囁き』


 と呼ばれる妖精の魔術・風魔法の応用である。


『寝床を襲撃するのが簡単じゃないんですか?』

『だそうだ』

「森の中歩き回るのが嫌」

『だよねー』

『『とうぜんー』』


 森のどこか、恐らくは周囲から見えにく窪地に潜んでいる可能性が

高い。魔物であれば、魔力を探す事で発見することはさほど難しくないが、

普通の獣を探すのは、生活痕を追いかけて森の中をさまよう事になり

あまり嬉しい仕事とは言えない。


 森の中で罠を仕掛けるのが本来なのだが、ここに長居したくないフラウは

さっさと狩れる可能性の高い畑での待伏せを選択した。失敗したならば、

事前の策として『ヌタ場』と呼ばれる猪が泥浴びする場所での待伏せに

切り替えるつもりだが、あまり森の中に入るつもりはない。


「森に勝手に入ると領主に捕まりますからね」


 帝国各地の森は領主の持ち物として囲い込まれつつあり、『森番』あるいは

『森林官』と呼ばれる監視人が周回している。斥候を担う『軽装騎兵』の

ようないでたちで、森に入る密猟者や未許可の猟師・村人を取り締まっている。

 

『そうだな。まあ、依頼を受けてってことならお目こぼしされるだろうけれど、

幾らか袖の下を要求されたりするとめんどくせぇ』

『安い依頼料を考えると当然かもです』


 プリムも畑で隠れて待伏せ作戦に納得することになったのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 陽が落ちてしばらくすると、森の際から大きな頭が一つ二つと姿を見せる。

全開足跡のあった場所にほど近い所。周囲を警戒しながら、鼻を鳴らして

いる。目は悪いが、鼻と耳は敏感なのだ。


 畑に入ってくるまでは何もしかけない。掘り返し、餌を食べ始めてからが

勝負だ。


「まだ、待機で」

『わかった』


 下手に魔力を高めると、警戒心を起こしかねない。中には「魔物化」してい

なくとも、魔力を感じ取る個体がいないとも限らない。人間の魔力持ちが

魔力を感じるように、いや、魔物に狙われることの少なくない野生の動物

のほうが魔力に関しては敏感と言われている。


 なので、フラウも弓を放つギリギリまでは身体強化を行うつもりがない。

フラウの射撃開始とともに、プリムが魔術を発射し、痛めつけたところを

ビアンカが止めを刺すという展開になる。


 戦槌のピックによる頭部への一撃。脳を破壊すれば、普通の動物は

大抵死ぬ。魔物やその中でも不死化した者などは、必ず即死とはいかない

ので厄介なのだが。




 ジリジリと周囲を警戒しつつ、畑の中に六頭ばかり侵入してくる。大きな

個体が一頭、一回り小さな個体が五頭。恐らく、母親と成長した親離れ

直前の若い子どもだろう。


 猪は豚と異なり、出産は年一回で数頭を生む。猪と豚を交配させた

イノブタは年に数回出産するので、少ないと言えば少ない。が、鹿は

一頭しか産まないことを考えると、繁殖力はその比ではない。獣害と

なるのは当然か。


「さて、今年産んだ子供はまだ巣にいるのかな」


 狼の群れは、雄雌とその子である若い狼とで形成される。幼い狼の子も

群で育てるのだが、猪はどうなのだろうかとフラウは考える。


『そろそろー』

『いっちゃえー』


 妖精がフラウを嗾ける。矢を「アコナ」の毒をペースト状にしたものを収めた

壺に何本かを差し込む。一応、五本。


 弓に『矢導樋』を添えて、その上で矢をつがう。狙うのはもっとも大きな個体。

その後ろ脚の付け根あたりを狙う。距離は50mほどだろうか。


『てつだう?』


 フラウは無言でうなずく。


――― 『頭隠して尻隠す』


 フラウ自身の姿を消し、その手に持つ矢すらも気配を消した。ゆっくりと

立ち上がり遮蔽物から体を出して狙いを定める。


SHOOT!!


 風切音は消す事ができない。が、小さな音を立て空気を切裂いた矢は、

狙い通り、最も大きな個体の左後ろ脚の付け根に刺さる。


 驚いた猪が騒ぎ声を上げ、母親の叫び声に周囲の若い個体が一斉に

びくりと体を硬直させる。


 すると、プリムの『小水球』が、それぞれの個体に向けて数個ずつ放たれ

パシャパシャと命中していく。


BABABA……BACHIBACHIBACHi!!!!!


 遮蔽物を飛び出し、一気に加速するビアンカの横を、青白く発光し明滅する

『小雷球』が小水球の後を追うように、それぞれの猪に命中していく。


 PIGGIIIAA!!!

 GUGHAAAA!!!!


 絶叫し、筋肉を硬直させる猪。その直後、最も大きな個体の頭に向け、

ビアンカがピックを叩きつける。


 一瞬で力を失った猪が、崩れ落ちるように地面へと倒れる。


 フラウは森と畑を遮るように弓を構えたまま移動、逃げ出しそうな猪を

探すように視線を動かし、狙いを定めようとする。が、母親を倒され、

雷撃の痛みに硬直した若い猪たちは、判断する間もなく次々とビアンカの

戦槌に頭を叩き割られ崩れ落ちていった。


「うまくいってよかったでしゅ……す!!」


 仮設の仮小屋という名目の藁の家からゆっくりと出てきたプリムは、

六頭の猪を見てほっと息をつく。


「お疲れ様でした!!」

「おう。上手くいって良かったぜ」


 猪を引きずり、纏めようとするビアンカ。数の上ではノルマ達成……なの

だが。


「若い個体が小さいので、何か言われるかもしれませんね」

「数の指定しかなかっただろ? 若いって言っても生まれたばかりのチビ

どもじゃねぇんだから問題ねぇだろ?」


 一先ず、荷車を借りてくるかとビアンカが一番大きな個体だけを肩に

背負い、村長の家へと足を向ける。既に回りは暗いのだが、夜目の利く

ビアンカにとっては問題なく歩いて行ける。


「ボクたちは別の群れが来るかもしれないので、監視を続けますね!!」

「おう。頼むわ」


 再び仮の狩り小屋に潜み、フラウとビアンカは別の猪が現れるかもしれ

ないからと、監視を継続することにしたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ビアンカが荷車を持って戻ってくるまで、二人は監視を続けたものの、

森から別の猪が出てくることは無かった。


 荷車に若い五頭の猪を乗せ、一旦、村へと戻ることにする。さっさと血抜きを

して、肉を冷やす必要もある。でないと、血生臭い不味い肉となり、査定も

悪くなるからだ。


 実際に皮をはぎ肉を切り分けるのは明日の朝以降。それも、依頼の外なの

で村人の仕事になる。が、その手前までは文句を言われない程度にした処理

しておきたいのだ。


「さて、どうなるか」

「依頼続行でしょうね」

「ええぇぇ!! 数揃ってるじゃないですか!!」


 小さいから二体で一頭分だとか、皮が少ないからもう何頭か余計に

納めろ等と言い出す事をフラウは予想する。大概、猟師に対して村人が

要求するような後出しの話である。この村に村付きの猟師がおらず、

冒険者ギルドに依頼を出す時点でよい予感がしない。待遇が悪いので

猟師が居つかず、外注せざるを得ないのだろう。


 猟師や羊飼いは村出身であることはないではないが、村の構成員では

なく、臨時雇いの人間であることが多い。待遇が悪ければ、あるいは仕事が

なくなれば村から出ていく、あるいは追い出される。





 翌日、村長からは予想通り「もう少し討伐して欲しい」と言われることに

なった。肉の量、皮の量からして若い個体は半分程度しかとれない。その

変わり、臭みも少なく柔らかいのだが、量より質なのである。数は力也。


「じゃあ、あと二頭でノルマ達成にしてもらう。大きさは関係なしにだ。

既に六頭で、本来からすればすでに依頼達成だからな。これで文句がある

なら、冒険者ギルドに報告してしかるべき対応を取る」


 今回は星四ビアンカが足を運んだから強い事が言える。冒険者ギルドで

も星一や星二の冒険者は沢山いるが、ビアンカはギルドマスター並の

権威を持つ立場だ。黙って、いいように使われるような下っ端ではない。


 恐らく、星二あたりの若い冒険者なら、村長に言いくるめられ余計に討伐

することになり、尚且つ、ギルドに報告もしていないだろうししたとしても、

受付も「冒険者が了承したこと」として特に問題視しなかったのだろう。


 代わりに、「あの村の依頼は美味しくない」「面倒ごとを押付けられる」と

冒険者の内輪で情報が回り依頼をいつまで経っても受けてもらえないこと

になるだろう。


 ビアンカがこの依頼をすんなり受けられた理由も、薄っすらと察せられる

のである。


 村長もビアンカの強い口調に察したのか、しぶしぶと頷いたのである。





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