第014話 パーティー登録と依頼の受注
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第014話 パーティー登録と依頼の受注
パーティー名は既にビアンカとフラウの間でトラスブルに到着する以前に決めていた。『森工房』。それにプリムが加わることになる。
「では、これで。パーティ-リーダーは星四冒険者のビアンカさん。それに、星一なり立てほやほやの初心者ラウ君と、プリムちゃんですね。冒険者パーティー『森工房』さんとして、頑張ってください」
元気よく返事をするフラウ。そして、恐らく自分より年下の受付嬢に「プリムちゃん」と呼ばれて若干不機嫌になるプリム。そして、早速だがと獣討伐の依頼を受けようとするビアンカ。三人三様である。
前衛兼リーダーのビアンカ。3m程の長さのヴォージェと、腰には片手でも扱える長剣ほどの長さのウォーピック。加えて、護拳の付いた反りのある刃を持つ短剣を装備している。金属の胸当に前腕を覆う金属のガントレット。肩当とその下には鎖帷子を着こむ。金属の脛当てを前側だけつけ足回りは
徒歩の移動に合わせたやや軽装である。
遊撃のフラウは、短弓に矢導樋を備え、羊飼いの斧と護拳付きの鉈「バウアーンヴェール」を装備。革の頭巾の中には鉢金、柳の木の皮を編んで作ったバンブレース(前腕鎧)・グリーブ(脛当)。革の胸当に半長靴。背中には柳を編んだ背負い箱を装備する。
後衛のプリムは濃緑色のフェルト製鍔広帽子に同系色のローブに半長靴。腰には魔銀ヘッドのメイスを吊るし、黒っぽいマントを掛けている。
革製の肩掛け鞄を襷にかけ背から腰に廻している。
それなりにバランスのとれたパーティーに見える。二人は傍から見ればちびっこ娘なのだが実は片方は男の子、もう片方は妙齢? の女性である。微妙な年齢と書いて『妙齢』!!
「よし、この依頼と……こいつだな」
「近いですね」
「他領だがな」
帝国自由都市トラスブルとそれに属する町村は『トラスブル共和国』領と呼ばれる。参事会を中心に、ギルドの代表と貴族の代表による領地運営が為されている。
これに対し、『トラスブル司教領』が存在する。その昔はトラスブルの市街は「司教領」の領都であったが、司教が君主として振舞う上で領民と利害が対立した結果、「司教」VS「市民」がそれぞれ軍を編成し戦争となった。
周囲の司教から援軍を派遣してもらい数の上では同数程度の戦力で戦ったものの、市民軍が圧勝しトラスブルは皇帝の庇護下に入った。とはいえ、司教領全てが『帝国自由都市』の領地になったのではなく、司教側の戦後補償・賠償として割譲された町村以外は『司教領』として残ったのである。
依頼は司教の居館のある街『ゾルン』にほど近い村からであった。
「ここから西に半日くらいの距離だな。宿はないが空家は借りられる。雨風を凌いで煮炊き位はさせてもらえる」
つまり、持ち込み自炊をする必要もあるし、寝具も持参する必要がある。野営よりはかなりマシだが、とても星四の冒険者が受けるような依頼でも待遇でもない。二人の最初の討伐依頼としては適切だという判断なのだろう。
「猪五頭以上の討伐。えーと、五頭までの買取は依頼料に含む?」
「要は、猪の素材は村で没収するから、その代わり依頼料には色を付けているってことだな」
魔法袋でも持っていなければ、猪の皮や肉をトラスブルのギルド迄運ぶのにも労力がいる。なので、討伐した分を村で回収してくれた上で、依頼料も少々良いのならそれに越したことはない。
「越えた分は、どうなるんでしょうか?」
「持ち帰りか、こっちで処理するならともかく村で処理するなら金払えかもしれねぇな。そこは、原着時に確認する必要がある」
六頭目以降の討伐が発生した場合の対応は書かれていない。なので、骨折り損にならないように、村での依頼確認時に聞いておく必要がある。とはいえ、複数同時に現れれば、一頭多いくらいなら倒さねばならない。残せば却ってこちらが危険になりかねない。
「それじゃ、これから準備して明日の朝一で現地に向かおう」
「「はい!!」」
三人は一旦それぞれの宿に戻り、改めて集合することにしたのである。
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翌朝、三人はそれぞれの装備を身に纏い、依頼先の村へと向かう。とはいえ、寝床は確保できているし飲み水も苦労することはないので軽装だ。
猪は体重は百キロを超え、人間の大人の男性より巨大になることも希ではない。食性は雑食で、蛙や昆虫、ミミズや蛇など地面の下にあるものを掘りだして食べる傾向がある。
畑などは地下に埋まっているものをミミズ事掘り起し食べることもあるが、麦や雑穀類を食べてしまう事や、果実なども食してしまう。雑食と言うことは、人間の食べ物も食べる。生ごみや腐った野菜など放置していると、猪の餌場であると認識され、村の中に入り込むこともある。
最近では、森の際迄畑が広がり、あるいは、森と畑の際を丁寧に刈る手間を惜しんだ結果、森から畑に猪が入りやすくなり荒される事件が増えていると聞いている。
「村人にゃ、簡単に倒せねぇし、かといって領主である司教とその官吏からすれば手間になってもカネにならない仕事だから真剣に取り合ってもらえねぇんだろうな」
三人で五頭の猪を狩って、大銀貨三枚はかなりお安い。凡そ、職人の月給程度の支払いだ。それも、猪五頭を納めた上なので結構ギリギリの設定だと言える。
「猪欲しけりゃ、何頭か追加で討伐すれば、村は只で害獣駆除ができるし、冒険者も持ち帰れる素材が手に入る。その辺りの依頼金額の設定は巧妙だな」
「猟師が村にいれば、こんな依頼来ないんでしょうけどね」
「森番がおかれりゃ、村人は勝手に森で狩りする事は出来ねぇからな。狩狼官は勝手に狼を狩って周辺の村に課税できるから、狼だけが減るだろ? 狼が餌にしている猪の子供が減らねぇから、猪が増えている。鹿は領主が狩るから大したこともないんだろうが、猪は手付かずだ。だから畑が荒される」
鹿は草食であり、わざわざ人間の畑に現れずとも十分食べ物に事欠くことはない。畑を掘り返す猪だけが『害獣』として討伐対象になる。そもそも、鹿は貴族以外の討伐が禁じられてるので狩ることは出来ないのだが。
半日ほど歩き、依頼のあった村へと到着する。村の周囲には『猪垣』が回っているが、これは狼除け・魔物除けを兼ねているようで、畑周りは施されていない。2m足らずの土塁であり『街壁』のように兵士が上に立てるようになってはいない。
門衛が特にいるわけでもなく、村の中の人間に村長宅を訪ね歩を進める。依頼人が村長であるからというのもあるが、責任者に挨拶しておかねば先々面倒と言うこともある。
村の中心にある村長宅はデカい。何故なら、村の集会所を兼ねているからだ。その傍にはささやかな「礼拝堂」も立っているが、専従の聖職者がいるほどではない。恐らく、礼拝堂の前の村長宅の前庭と共用の広場辺りで村落全体の集会を開くのだろう。
「ごめんよ。トラスブルの冒険者ギルドから猪退治の依頼を受けてきた。村長は御在宅か」
「ひっ……は、はい。祖父は在宅しております。こちらへどうぞ……」
武装した巨漢がいきなり声を掛けたのだ。フランと同年齢ほどであろうか、慣れていないだろう少女は驚きと恐れを隠せないまま、三人を奥へと案内する。
少し待っていると、外から壮年の男が入ってきた。
「村長のマールだ」
「トラスブルの冒険者パーティー『森工房』のビアンカだ。そっちの二人は、パーティーメンバーだ」
「ラウです」
「プリムと申します。よろしく」
村長は明らかに子どもにしか見えない二人と、巨漢のベテラン冒険者を見比べて僅かに溜息をつく。
「確かに、依頼失敗のペナルティの設定はないが……」
お前らで討伐できるのかと言わんばかりの表情を浮かべる村長。
「ラウは地元の村じゃ、猟師の見習もしていたし弓や罠の扱いもうまい。あと薬師もできるから、『毒』も扱える」
「……いや、毒を使われると……」
「大丈夫です!! アコナの毒は加熱するとほとんど効果が無くなりますし、傷口回りを少し切り取って捨てれば、食べても危険じゃないですから!!」
さらりと毒の話をする、見た目幼い少女のフラウに、村長とその横の孫娘は目を見開いて驚く。
「それと、プリムは歩人で成人して随分立つ魔術師だ」
「……それに、次期里長でもありますから、村長様のお気持ちはわかるつもりです」
「そうか。なら、これから案内してもよろしいか」
不承不承とまではいかないが、猪の被害の出ている田畑や村の周辺の猪が潜んでいる森へと村長は三人を案内する。
向かう間に、被害の状況、凡その数、出没する間隔などをポツリポツリと聞き出していく。村長は事務的に、孫娘は自分の体験した猪との不意の遭遇を感情豊かに説明する。
「数は五頭以上。じゃあ、母親とその子供ってところだな」
猪は特に縄張りを持たず、複数の個体が雑多に徘徊していることが多い。その範囲は直径1㎞ほど。森の端で、見通しも良く餌も豊富な村の畑に気が付き、餌をあさるようになったといったところだろう。
子供といっても成獣に近い大きさに育っていると思われる。親離れ直前といったところだろうか。
本来、猪は臆病であり警戒心が強い。畑の傍まで森の下草が生えていることから、畑に容易に近づけるようになってしまったのだろう。
「猪を近づけたくないのなら、草刈りをしっかりする事です」
「そうだな」
人手の問題か、あるいはそれ以外の何かの理由で、下草刈りができないのかもしれない。それは村の問題で、フラウたちが考える問題でもない。
「足跡が残っていますね」
「確かに。結構多いな」
「五頭じゃ済まなそうですね」
入ってくる猪の数は五頭では収まりそうにもない。何群かの群れが個別に侵入しているのだろう。
「最近じゃ、この辺りの畑は作物を植えるだけ無駄になってる」
「育つそばから食べられちゃうんです」
移動する経路は何箇所か確認できた。あとは、罠を仕掛けるか朝夕に待伏せをするか。その両方かである。
「一頭だけなら落とし穴でも、括り罠でもいいんですけどね」
「数が多いからな。畑に誘い込んで……プリムに仕留めてもらおう」
「え!! しょ、しょんな!! ラウ君の弓で仕留めるんじゃないんでしゅか……すか!!」
狩人「フラウ」の弓で五頭同時は難しい。強い敵と見れば逃げ出すはずなので、ビアンカが無双する展開も考えにくい。
「魔術を使う」
「へ、私の魔術はヘッポコですよ!!」
自分でヘッポコ言うな!! いや、それは事実なのだが。
例えば「小火球」では、毛皮が燃え尽きるほどの火力はない。猪の毛は剛毛であり、正面から放てば小火球くらい燃え尽きる前に弾いてしまう。「小水球」も同様、水球をポコポコ当てられたところで、不快に思うかもしれないが、ダメージを与えられるほどではない。
「『小雷球』なら多少は痛がるでしょうけど、でも、それで倒せたりはしませんよ」
「それだけならな」
「はい!! そこで錬金術師見習のボクの出番です」
どうやら、プリムの知らない工夫をビアンカとフラウは考えたらしい。
「期限は特に切っておらんから、五頭狩れるまで村にいてもらっても構わないぞ。空家を貸すだけだがな」
村長もその後の話を聞くことはなく、一通り村の周囲の猪出没ポイントを確認した後、三人は村の空家へと案内されたのである。
【第二章 了】
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