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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第二章 『トラスブル』
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第013話 放浪オジサン

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第013話 放浪オジサン


 プリムの母は里長の娘で、その娘であるプリムは里長の孫である。何故母が里長を継がないのかといえば、里長となる『成人の儀』を済ませておらず、里長となる条件を満たせていないからでもある。プリムの母も四十はとうに過ぎており、今さら一から里長となるために学ぶ時間はない。


 プリムは次期里長となるべく、子供の頃から祖父の側で里長の仕事を手伝いこまごまとしたことを学んでいたのである。


 フラウの午後から休日の日、冒険者ギルドにほど近い食事処で、プリムとフラウはビアンカのおごりで夕食を共にしていた。こうした場所で食事をすることもプリムにとっては「経験」となるからである。


「里長になるって、すごいことですよね」

「うーん……仕方なくなんですよ」


 プリムの母には兄がいた。いや、正確には未だ存命中である。だが、里長を継ぐために『成人の儀』の旅に出たはずなのだが、いつまで経っても戻ってこないのだという。


 その為、プリム母は里長としての学びをすることなく普通に結婚し、プリムを産んだ。母が里長候補として活動するには、兄の立場を考えたり、夫となったプリムの父のことも考えなければならない。


 いつまでも戻ってこない息子のことを半ばあきらめつつ、プリムの祖父は娘の長女であるプリムを次期あるいは次期の次期里長として育てることにした。プリムの伯父が里長となったとしても、その子供を次の里長にするには教育の時間があるかどうかわからないという危惧もある。勿論、伯父が戻らず祖父が突然死ぬ可能性もゼロではない。


「伯父さんは戻ってこないんでしょうか?」

「さる王国の貴族の家で執事長のような仕事をしているらしいんです」

「それは俺の知り合いか? そいつの伝手でプリムに貸した魔装の盾も手に入ったんだが。まあ、簡単には辞められねぇんだろうな」

「貴族の家人なら難しいかもしれませんね」


 貴族の家人とは一般的に「従士」「騎士」あるいは「従僕」「執事」「家令」といった貴族の家来を示す言葉である。貴族にとって「家」「家族」というものは、自分の血縁者親兄弟息子娘だけでなく、家人・家士達も含めた「家」と考えられる。


 言い換えれば、一度貴族の「従士」なり「執事」になりそれなりに責任を与えられた立場になれば、簡単にやめられるものではない。


「それと、伯父は里で色々やらかしてましてぇ……」


 里長の息子・次期里長ということで子供の頃からいろいろ問題を起こし特に同世代の女性から嫌われていたらしい。そこで、戻ったとしても嫁になる人間がいないという問題も発生していたのだという。


「怖い話です」

「ああ、マジで女は怖えぇ」


 その話にフラウとビアンカは怖気づく。ビアンカも女なのだが、それはいいのだろうか。


「『成人の儀』の間に、一度伯父にもあっておきたいんです」

「それは必要かもしれねぇな。あとから戻ってきて『お前の席ねーから』って勘違いされてキレられたら洒落にならねぇだろうからな」


 貴族の家の執事長であり、騎士としてそれなりに従軍経験も重ねているとプリムからビアンカも聞いている。魔装具を手に入れられるだけの軍功を示したと言うことになるだろうか。


「その時はボクも一緒に旅をしたいです!」

「フラウが一緒なのは……どうなんでしょう?」

「子供だけの旅は危険だろ? 俺も一緒に行ってもいいぞ。まあ、少し先になるだろうがな」


 冒険者としての等級を上げ、フラウは『ド・レミ』村に向かい、祖母の師匠に会わねばならない。その上で、何かしら薬師・錬金術師としての技を磨き、その先の自立に向けて目星をつけたいと考えている。


『魔女狩り』の続く帝国から抜け出し、王国やネデル北部に引っ越すのも割りと『有』だと考えていなくもない。


 王国の地方都市なら、近隣に薬草の採取できる山野もあり、尚且つ魔女狩りも行われていないだろう。その為には都市に住めるだけの資産を蓄えねばならない。店を構えるにもギルド員になるにも金がかかる。


 その為に、冒険者兼錬金術師として腕を磨きたいということなのだ。


「因みに、伯父さんはどの辺に住んでいるんですか?」


 プリムの伯父は王都の南、シャンパーの西にある伯爵領の領都で仕事をしているらしい。


「ワスティンの森の中に開発された伯爵領なんだ。デンヌの森と似たような環境だな」

「なら、歩人の里とも変わりませんね」


 どうやら、地方都市の一つといっても良いかもしれない。プリムの伯父が関係している街なら、知人・友人としてフラウも知己を得ることができるかもしれない。知り合いのいない場所よりも店を出しやすいのではないだろうか。


「成人の儀の修行はまだ始まったばかりだから、何年か先の話になるだろうけどな」

「……乙女の命は短いといいますから、なるはやでいきましょう!!」

『ながいきおとめー』

『えいえんおとめー』


 フラウは妖精たちの呟きを聞きつつ、何歳まで乙女なのかという疑問を心の中で封印する。以前、母に同じようなことを聞いて激しく怒られた記憶があるからだ。恐らく、『乙女』とは年齢ではなく心の在りようを言うのだろうと思う事にした。


「二十五歳は乙女じゃねぇ」とビアンカは口パクで呟いていたが、ビアンカも女性なのでセーフである。見た目は乙女でも中身は男性であるフラウは言ってはならない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ド・レミ村を訪れた後、王国に向かうというフラウの計画は、それまでのなんとなくトラスブルで過ごしていたこれまでと違い、将来に多少の目鼻がついたということから、フラウの冒険者活動に拍車がかかるようになってきた。


 在郷会館の昼間の仕事を減らしてもらい、週に何日かはプリムと予定を合わせて素材採取の依頼を冒険者ギルドで受けるようにした。また、素材を余分に確保し、その素材でポーションや傷薬・解熱剤などを作りビアンカ経由で傭兵団に売り込んでもらったりしている。


 薬師ギルドに登録するほどではないため、所謂「モグリ」なのだが、効用は確認されており、「ノーブランド」品として安価に手に入る分、傭兵団には受け入れてもらえたようである。安くて同じ効果なら、そっちの方が良いという需要はある。傭兵団は厳密にはトラスブル市内での営業活動にはならないので、灰色の判断が通る。これが、市民兵相手なら黒になってしまう。


 トラスブルにきてからしばらく、薬師・錬金術師として仕事ができていなかったので、フラウはこの仕事を喜んでいた。と同時に、ギルド経由の手間賃仕事よりもカネになるので、先々の資金作りとしても都合が良かった。


 ビアンカも傭兵団の出納係にフラウの薬を紹介することで手数料を得ることができ、傭兵団も安い薬が手配できて数も十分揃えることができそうなことから、大きく予算を押さえることができた。Win×3の状態である。


 プリムは傭兵団の調練に助手として参加しつつ、冒険者ギルド経由の雑用・奉仕活動を積極的に受けている。毎朝早く、街の外郭にある要塞群の回りを魔力で身体強化し、素足で疾駆するのが日課となっている。毎日数キロの連続疾走だが、平地を素早く移動することが得意な種族なこともあり、その時間は毎日短縮されている。


 歩人の綽名の中に『半分』という小柄さを示すものの他、『草疾駆』という風俗を示すものもある。草をかき分け小柄な歩人が走り回る姿を意味したものであろうか。


 加えて、プリムは『馳乙女(ストライディス)』の加護を有している。男性なら『馳夫』と称される加護なのだが、その加護の意味するところは……


―――本人の意志ある限り、歩み続けることができる。いかなる場所も、地形も、障害もそれを妨げることはできない。


 というものである。聖典の中に記される預言者の一人『モイセ』も有していたとされる。その加護のお陰もあり、海を渡り荒野を進み約束の地へラビの民を導くことができたとされる。


 とはいえ、それは本来民を導くべき指導者・里長として望ましいものなのだが、物理的にどこまでも進めるという『加護』の使い方として、早朝、トラスブルの外周を疾走するのは『乙女』として如何なものなのだろう。加護の名称が『馳乙女』であるとはいえ、何歳になっても『馳乙女』なのでそこは安心してもらいたい。『馳婆』とはならない。


 正座をしたまま、騎士の馬群の後ろを疾駆するような真似はしない。たぶん。





 雑用仕事ばかりでは冒険者としての位階は上がらない。星一になれば上級者とともに討伐依頼を受け、その次の段階ではパーティーを組んでの護衛を担うことで、「一人前」の冒険者となる。


 星二で一人前。そうなれば、登録したトラスブル以外での冒険者活動も自由に出来るようになる。いいかえれば、登録した冒険者ギルドのある場所で星二まで位階を上げねばいつまでも見習・初心者扱いで他所に移動し依頼を受けることは出来ないと言うことなのだ。


「そろそろ二人とも星一になれるか」

「たぶん!」

「そうですね」


 フラウは三ケ月の間、在郷会館の給仕の仕事を務め、また、休日は素材採取などを行い『見習』の課題を熟していた。その後に登録したプリムは、後見人とビアンカの依頼を効率良くこなし、フラウに勝る速度で見習の課題を終了させていた。


 あと数日もすれば念願の星一「初心者」冒険者となり、ビアンカと組んで討伐依頼を熟す事ができる。幾つかの討伐依頼を熟なすことで、星二の冒険者に昇格することができるだろう。


「俺も傭兵団の所属から、市民兵の教練担当に依頼を切り替えられるようになるから、週に一度の鍛錬日以外はとかの依頼を受けられるようになる。そうすりゃ、三人で討伐依頼を受けることもできる」

「動物ならなんとかなるけど、魔物はちょっとおっかないかな」

「コボルドくらいならなんとなかなりましゅ……す!!」


 デンヌの森にはコボルドが多く出るらしく、里では村人総出で「コボルド狩り」を行っていたらしい。プリムもしょぼい魔術(現在比)で参加していたのだという。


「こっちだと、なにが対象なんですか?」

「猪か熊、あるいはその魔物化したものが対象だ」

『くまー』

『いのぶたー』


 因みに、フラウも祖母の庵の生活時代に、猟師の知り合いに教わり、猪は狩ることがあった。本来、多くの猟犬や勢子を使い、あるいは、猪狩り用の槍などを揃えて多数で取り囲むように狩るのが『猪狩り』なのだが、猟師の場合、罠を仕掛け、動きを止めた後、急所に槍を突き刺し止めを刺す事が多い。


 括り罠か『虎挟み(ベアトラップ)』を仕掛けて足を止める。村単位であれば、大きな石造の落とし穴を作り、そこに追い込んだりするが、猟師の単独ならばそこまではできない。


「落とし穴も出来なくはねぇけど、冒険者っぽくねぇだろ」


 昨今、貴族の狩猟場として多くの森は確保されつつあり、その反動として農村叛乱など起こることがあった。生活資材や食料を森から得ていた寒村からすれば、既存の権利を領主が一方的に奪ったとして、叛乱を起こすことはおかしくはない。生活ギリギリが、生活できなくなるのであるから。


 とはいえ、森を囲い込んだとして猟を行うことを禁じたとしても、害獣となる熊や猪を狩ることはしない。貴族の狩猟はもっぱら水鳥や鹿であり、猪や熊は狩らないのだ。


 騎士が武力の象徴であった聖征の時代以前であれば、領主や騎士は猪を狩ることで武威を示した。猪狩りは命がけであり、多くの勢子・猟犬を用いて猪を狩りだし、槍を連ねて動きを押さえつけ、最後は槍のように長い剣で止めを刺す。非常に危険で泥臭いものであった。


 熊は猪以上に危険であり、本来は罠を仕掛けて弱らせてから討伐する存在なのである。猪は精々畑を荒らすくらいだが、熊は狼同様家畜を襲い、さらに人間まで襲う事もある。狼より数段巨大であり、全身が分厚い筋肉の鎧で覆われていることから、マスケット銃や槍の刺突を弾く事すらある。


 貴族の狩猟は馬上から簡単に狙え、反撃される事もほぼない『鹿』のような動物に限られているのが昨今の事情だ。小規模の領主の多いこの地域においては、熊や猪の獣害が発生しても、ここに対応することができるほど兵士や騎士を集めることができない。


 故に、冒険者ギルドに依頼が来ることになる。


 とはいえ……


「あの、羊飼いの斧で熊は倒せませんよ」

「メイスでも多分全くかすり傷さえつけられない気がしますぅ」


 ビアンカ相手に二対一の鍛錬を行うフラウとプリム。ヴォージェの間合いに羊飼いの斧もメイスも全く近寄れないのであった。


「そりゃそうだ。プリムは小雷球、フラウは毒矢で痛めつけてもらう。壁は俺が務める。それなら何とかなるだろ?」


 ビアンカとの立ち合いはあくまでも自衛のための鍛錬。討伐依頼において、体格に恵まれない二人は遠間から攻撃することに専念するのである。


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