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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第二章 『トラスブル』
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第010話 小魔術

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第010話 小魔術


「……お手紙拝見しました。ラウ、後はこちらで対応します。あなたは仕事に戻って下さい」

「はい。よろしくお願いします! プリム様、ごきげんよう」

「あ、ありがとね……ラウ君」


 フラウは昨日追い出した貴族子息にプリムが絡まれていたこと。剣を振るって襲い掛かってきたので制圧し、剣を奪い預かっている事。そして、プリムが冒険者登録をしに行き、ギルドで在郷会館に案内するよう伝えられ連れてきたことを伝えた後、預かっている手紙を渡したのだ。


 心細そうな視線を最後まで送ってくるプリムに笑顔を返し、フラウは自分の仕事に戻った。厨房長には掻い摘んで遅くなった理由と、お遣いは無事済ませたことを報告する。


「そうか。あの馬鹿息子をのしたのか。よくやった!!」


 遅くなったことを咎められるどころか、厨房長の機嫌は劇的に改善した。どうやら、料理に文句を言われ相当腹が立っていたようだ。おかげで、フラウのまかない料理は一品おまけがつくことになった。


「あの剣って幾らぐらいで引き取ってもらえるんでしょうかね」

「さあな。支配人さんがうまくやってくれるだろう。家門を示すような紋章付の剣だと普通の剣の十倍くらいはするだろうから、金貨十枚くらいじゃねぇか?」


 金貨十枚は、庶民家庭の生活費二年分ほどになるだろうか。かなりの金額に思われる。正直に実家に報告して、その程度の金額貴族なら用立てるのは難しくないが……どうだろうか。


「知らない間柄でもねぇし、お前が恨まれない程度の金額にするかもしれんな」

「そうですね。ここで事情を知られるだけでも十分ボクの安全につながる気がするので、お金はさほど重要じゃないんです」


 自給自足の狩猟採取生活も苦にならないフラウからすれば、金銭よりも身の安全の方が大切だ。とはいえ、別の家の貴族の客であるプリムに知らないとはいえ危害を加えようとしたことは、恐らく更なる問題に発展している事だろう。


 歩人の里と保証人となる貴族の家の関係性を考えても、泥酔子息の領主家には厳重抗議がなされるだろうし、家門の名を汚した馬鹿息子は放逐されるかもしれない。その後の逆恨みの危険は妖精が周りを監視してくれるフラウには然程危険性は無いのだが。




 夕方、酒場の給仕を始めるフラウ。酒場兼食堂のテーブルには、一人座る癖毛の少女。さすがにトンガリ帽子は脱いでいる。


「こんばんは。お食事はいかがなさいますか」

「エールとソーセージの盛り合わせ。野菜大盛で」

「畏まりました」

「あ、パンは黒パンを軽く温めて」

「……黒パンはありません」


 貴族の宿泊施設で黒パンはまずは出ない。とはいえ、客の希望であれば話は別だ。


「明日から、提供できるように厨房長に伝えます」

「ありがとう!!」


 明日から黒パンもメニューに加わることになる。


 給仕しつつ、食堂の隅で一人キャベツの酢漬けを肴にワインを飲むプリムをじっと観察するフラウ。なんだか急に落ち込んだり、ケラケラ一人で笑いだしたりと情緒不安定に見てとれた。しばらくすると、女性の給仕に連れられて仮の住まいへと送り届けられていた。


「やっぱり、見習扱いがショックだったのかな」

『フラウといっしょー』

『なかよしー』


 同じ冒険者見習からスタートだからといって仲良しというわけではない。歩人は小柄で目立ちにくく、森や草原での追跡行動も得意な種族で、『隠里』を作って畑で作物を育て、川で魚を釣り、時に猟をして平和に暮らす種族だと聞いている。


 その中で、『魔術師』になると言うことは何か意味あるのだろうか。もしかすると、魔術師の家系で家職を継がねばならないという理由があるのかもしれない。魔力量自体は多いが、その資質を生かせないというのは家族も本人も悩みのタネなのだろう。


 とはいえ、フラウの魔術は『妖精頼みで生き延びます!』であるし、この街で唯一の知り合いであるビアンカにしても、恐らくは身体強化系の魔力の使い方が主で魔術は専門ではない。紹介して悩みを聞いてもらっても……とは思うのだが。


「ビアンカ本人がわからなくても、知り合いの魔術師に相談するということもできるよね」

『いいかんがえー』

『できないことは人に頼るといいよー』


 フラウは、明日にでもビアンカに手紙を書いて相談してみようと思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ビアンカからは「明日の夜にでも飯を食いに行くから紹介しろ」と返事があった。フラウはプリムに「自分の後見人の冒険者が来るから、紹介したい」と伝えると、プリムは大変喜んで「是非合わせて欲しい」と応じた。





「おお、待たせたか」

「いえ。まだプリムさんは食事に来ていないので、呼んできますね」


 夕食に訪れたビアンカを卓に案内し、一先ず、飲み物を出しておく。ついでに、何かつまめるものも注文し、恐らくはソーセージに酢漬けのキャベツと蕪あたりが並ぶことになるだろう。


 既に部屋で待ち構えていたであろうプリムは、フラウが扉をノックすると、返事と同時に部屋から出てきた。フラウと背格好は変わらない小柄な少女なのだが、これでも十六歳であるという。歩人としては大柄の部類だというが、十歳そこそこにしか見えないのは仕方がない。


 ビアンカの待つ卓に案内し、互いを紹介する。すると、女性の傭兵兼冒険者であるとしか聞いていなかったフラウは、筋肉のみっしり詰まった人間の男性冒険者か騎士と変わらない偉丈夫を見て大いに驚き、更に挙動不審となる。


「は、は、は、はじめまして!! プリムでしゅぅ!」

「おう。ビアンカだ」


 という感じで、まずは少しアルコールを入れて舌を滑らかにした方が良いだろうとフラウとビアンカは判断する。


 エールで乾杯し、自己紹介がてら身の上話をしていく。ビアンカは冒険者・傭兵としての簡単な略歴と、フラウとの関係について。プリムは、歩人の里から出てきたいきさつと、自分の今の状況を簡単に伝える。


「なるほどな」

「魔術師として一段成長していきたいんでしゅ……すぅ」


 ビアンカの悩みは魔術の規模が小さい事。「火球」「大火球」「大魔炎」のような魔術が使えず、「小火球」しか放てない。


「そうか」

「そうなんです」


 ビアンカは少し考えてから口にする。


「一度に何個ぐらい撃ち出せる」

「三個か四個です」

「で、放つ間隔っつーか。幾つ数えるくらい時間が空くかわかるか?」


 ビアンカの質問に、プリムは恐る恐る伺うように答える。


「え、えと、一かニです」

「ん? なにか、じゃあ、十数える間なら……」

「五六回です」


 つまり、三四発を、五六回ということは、十秒間で15-24発発射できることになる。


「小火球ってのは、このくらいか」


 ビアンカは長い親指と人差し指で丸を作る。その直径は胡桃の倍ほどもあるだろうか。


「そうですね。火と水ならそのくらいですぅ。あと、ほ、他にも雷とか、砂の塊とか、空気……空気じゃ意味ないですよね……」

「……おいおいおいおい……ちょっと待て」


 ビアンカは少々驚いている。小さな魔術とはいえ、火水風土に雷まで連続して放ち続けることができるというのは、少々規格外であると気が付く。


「ちなみに、連続でどのくらい出せる」

「だ、だいたいですけど、水の球を出し続けて、ワイン用の樽半分にするのに大体半日くらいですぅ」

「……え……」


 プリムは、0.1Lほどの水球を10分で20個ほど出せるので、一時間で12Lワイン樽が225Lであることを考えると10時間くらい出し続けられると考えられる。


「それで、魔力枯渇っつーのか。次の日動けなくなったり、気絶したり、気持ち悪くなったりしねぇのか」

「しません。毎日でも大丈夫です!!」


 つまり、才能が偏っているということなのだろう。ビアンカは考えを纏めるために、残りのエールを一気に飲み干すと、新しい杯を頼んだ。


 そして、新しい杯に口をつけ唇を湿らすと、自分の考えをプリムに伝える。


「まず、一度に出せる数を少し増やしてみねぇか。例えば、六個くらいにだ」

「……はい」

「それで、例えばなんだが……雷で最初に挑戦してみてくれるか」

「はい!! 雷は得意なんですぅ!!」


 どうやら、珍しい小雷球を放てることは、プリムの中で大きな自身に繋がる得意なことのようである。解り易くて大変良い。


「これは一つの考えなんだが、大きな球を一発二発時間をかけて放つより、小さな球をのべつ幕無しに放ち続ける方が良い場合もある。今のマスケット銃兵なんていうのは、そういう役割だ」

「はぁ……そうなんですか」


 マスケット銃は銃口から火薬を入れて突き固め、球を入れてから火薬に点火して放つ。最初の一発はゼロ秒で放てるが、二発目以降は十五秒から二十秒程度再装填に時間が掛かる。一斉に放ってしまうと、その間に敵に接近されてしまう為、何組かに分けて連続して発射できるように組み分けして対応する。百人が一度に放つのではなく、ニ十五人ずつ四度に分けて……という感じである。


 プリムは小火球で一分間に100-150発一人で放てるのである。それも、一時間でも二時間でも。明るい時間ずっと可能なのだ。マスケットの場合、火薬と弾丸の保有数にくわえ、銃身が過熱したり歪んで暴発する確率も数パーセント発生する。一度ならともかく、連続して行えば損耗率は二割三割と加算されていく。


 さらに、火薬もマスケット銃も高価であり、また、雨や夜間には使用しにくい。要塞や街などで建物の遮蔽された場所でならともかくだ。手元の暗い場所で、火薬の再装填が容易にできるわけがない。水濡れも厳禁だ。


 プリムは一人で歩兵一個中隊四百人規模の火力を有していると言える。言い換えれば、歩兵一個中隊分の費用をもらえる価値のある魔術師ということになる。


「どうだ。自分の価値が理解できたか」

「……えーと、おいくらくらいなんでしょうか」

「歩兵の半分がマスケット兵だとして、銃兵の給料が月で金貨四十枚だ」

「……金貨四十枚……」

「大体、男爵の年収が金貨五百枚。銃兵二百人の年間に支払う給与で四百八十枚だから大体同じくらいだな。それに銃と火薬と食費がかかる。少なく見積もってそのくらいの価値だ」

「……男爵様並……でしゅかぁ……」


 プリムは、自分のショボい魔術の価値がそんなにもあるのかと大いに驚き、なおかつその感覚が消化しきれずにオウム返しの後、沈黙するしかなかった。


『ポンコツじゃなかったー』

『よかったー』


 フラウも自分のことのように嬉しく思う。少しずつ考えが整理できて来たのか、プリムは自分の心に抱え込んでいた『里を守る大魔術師になる』という理想と、自分の能力との乖離に押しつぶされそうになっていた気持ちをポツリポツリと語りだしていた。


 その話を、給仕をしながら妖精を通じて聞くと話に聞いているフラウ。盗み聞きなどと野暮なことは言わないでもらいたい。


 安心したのか、心の重石がとれたのか、プリムはいつの間にか寝落ちしていた。その顔は、先日の悲し気な泣き顔ではなく、希望を感じさせる微笑みをたたえた寝顔であった。


 卓に大きく広がる涎は見ないようにと、フラウは思うのである。



この後は、月・水・金の12時に出来る限り投稿したいと思います。ですので……


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