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『魔女狩り』を狩る魔女  作者: ペルスネージュ
第二章 『トラスブル』
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第009話 『変態』対『魔女』&『歩人』

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第009話 『変態』対『魔女』&『歩人』


「わ、私は変態ではない!!」

「そうですね。あまり自分自身を変態というものはいません。子どもに声をかけ無理強いしようとする性根は、少なくとも変態ではありませんか。どう思われます、従者の方」

「「……」」

「おい!! 否定しろぉ!!」


 どうやら、子息の従者たちは子息を『変態』だと理解しているようだ。もしかすると、自分の領地では領民の幼女相手に変態趣味を満たしているのかもしれない。それは、留学させようと親も思うだろう。領民に逃げ出されては領地経営も何もあったものではない。


 斧の柄の長さは120CMほど。並のスタッフよりは一回り太いものである。半ばから後方を両手で持ち、腰だめに。柄の先端を、子息の顔の正面を捕らえるように据えて半身で構える。


「ぐっ」

「これでも冒険者の端くれですから、ゴブリンやコボルド、狼くらいは討伐したことがあるんですよ。あまり見た目で舐めない方が良い」

「……」


 剣を抜いたがいいが、構えはしっくりこない。どうやら、剣術を習っている様には見えないのだ。短めのレイピアのように見える『タウン・ソード』なら半身に構え、剣先を突き出すように据えるはずだが、振りかぶってしまっている。曲剣ならそれでもいいが、細剣は突くものであり斬り降ろすにしても振り回すついでに削ぐように斬りつけるものだ。


「そちらは剣を抜いていますから、正当防衛です。身分は関係ありませんよ」

「なっ!」


 子息は左右の従者に目配せをする。従者は無言でうなずき、フラウの意見を肯定する。


「ほら、従者の方達は良く解ってらっしゃる。ここはあなたの親御さんが治める領地ではない。裁判をするにしても、あなたの有利な判決を出す理由がありません」


 構えをそのままに、細剣の間合いまで柄の先を子息の顔の正面に据えたまま距離を詰める。


「それに、ボクが貴族街の在郷会館で働ける理由も考えた方が良い」

「……なんだ……貴族の子息だとでも言うのか」


 フラウは首を横に振る。


「もっとヤバいですよ。しっかりとした保証人がいるんですから。あなたの領地ごと下手すると消えますよ?」


 ビアンカがその気になれば小さな貴族領など、一人で粉砕できる。精々騎士が数人といった程度であるだろうから、星四等級の冒険者なら一蹴してしまうだろう。


 そういうと、更に半歩距離を詰める。もう、柄の先端は目と鼻の先である。


「しょ、小水球ぅ!!」


 掌で掬ったほどの水が、地面にパシャッと飛び散る。どうやら歩人娘? が二人を止めようと『小水球』を牽制にはなったようだ。距離を離したいと思ったのだろう。


 ところが……


「う、うわああぁぁ!!」


 精神的に追い詰められた子息が、細剣をフラウに向け振り下ろした。


「きゃああぁぁ!!」


 フラウは左右の体を入替え剣先を躱し、柄を回して振り下ろされた腕の内側を強打する。鈍い音と共に手首が撃たれ、子息は剣を取り落とす。と同時に、柄で肩と首を極め地面へと引き摺り倒し、首の後ろを踏む。


「どうしますか? このまま首を踏み抜きましょうか」


 首に足をかけたまま、二人の従者に柄の先を向け牽制する。


「わ、若様!!」

「降参をしてくださいませ」

「……こ、降参する」

「それは良い判断です。剣はこちらでお預かりしますね」

「「「……」」」


 騎士が戦場で敗北した場合、自身が捕虜になると、装備一式も相手の戦利品となる。身代金を払い、馬や装備も対価を払い買い戻す必要がある。仮に、買い戻さねば、相手が邸に飾るなり仕える主君に献上するなりされ、大いに恥をかくことになるので、対価を惜しまず普通は買い戻す。そもそも、貴族の家の紋章の入った装備は、量産品とは価格が一桁ないし二桁異なる。金貨一枚が十枚・百枚するのだ。


「買戻しには応じますよ。在郷会館迄お越しください。トラスブルを退去する日にでも」

「「「……」」」

「お安くしておきます」

「……助かります……参りましょう若様」


 命の危険を感じたことで腰が抜けたのか、子息は二人の従者に抱えられるように貴族街の方へと消えていった。


「あっ!! お使いの途中だったぁ!!」

「ま、まってくだしゃい!!」


 フラウは、完全に歩人っ娘の存在を忘れていた。


「え、と。怪我はありませんか?」

「はい。おかげさまで助かりました」

「よかったです。ではボクはこれで」

「だから、待ってって!!」


 ものすごい勢いで足止めをされる。なにやらもごもごと言っているのであるが、はっきり聞こえない。


「詠唱するように、はっきり言って下さいませんか。ボク仕事の途中で急いでいるんです」

「しょ、しょの。ぼうけん……」

「冒険?」

「冒険者ギルドの場所まで!! 案内してくだしゃい!!」


 顔を真っ赤にし、息も絶え絶えの様子で歩人娘はフラウに思いを告げたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 癖毛の歩人娘の名は『プリム』というらしい。


「アメリア村のプリムなので、『プリム・アメリア』って名乗れってばっちゃが言ってました」

「ばっちゃ」

「はえぇ!! その、変ですか?」


 どうやらプリムは歩人の里から出て、人の街で魔術師として生活する『成人の儀』をするためにトラスブルにやってきたのだという。里長がトラスブルの貴族と古い友人らしく、プリムの街での保証人になってくれる手筈なのだという。


「どこに滞在するか決まってるんですか?」

「えーと、 ざ、ざいさとかい……やかた?」

「ああ、在郷会館ですね。ボクも今そこで働いているんです」


 貴族の保証人を立てるなら、滞在先も恐らくは貴族街の在郷会館だろう。


「冒険者登録すれば、色々そこで教えてもらえるって聞いています!!」


 つまり、本人はあまり良く解っていないといことだ。お客を案内するのであれば、多少時間が掛かっても問題ないだろうとフラウは考えた。





 一先ず冒険者ギルドの受付にプリムを案内し、フラウは厨房長から頼まれたお遣いをこなしていく。野菜や肉、魚といった食材は客の変動で収めてもらう数が相当に変動すると言うこともある。


 特に、川魚は必ず決まったものが納められるとは限らない。肉なら相応に問題ないのだが、好みの煩い客の場合、細かく指定してくるのだ。貴族の客相手なので、無下にも出来ない。


 肉屋、漁師、菜園と遣いを済ませ、冒険者ギルドに戻ってくると、プリムは受付で何やらごねているようであった。


「ですから」

「おかしいですぅ! ばっちゃが言ってたのと違いますぅ!!」


 何やら手続きで揉めているようだ。どうしたのかと聞けば、プリムは年齢と魔術師としての能力からして、『星一』からスタートできると里では聞いていたらしい。星無では、しばらく街中の雑用依頼を熟さねばならないのだから、魔術の使える成人からすれば、仕事と能力が見合っていないということなのだろう。


「見た目はこんなですけど、成人しているんですぅ。歩人の大人はこんなもんなんですぅ!!」

「……いえ、年齢の問題ではありません。その……大変申し上げにくいのですが……」


 プリムの魔力量はかなり多いのだが、発現できる魔術が『火球』ではなく『小火球』、『水球』ではなく『小水球』なので、討伐依頼を受けることのできる『星一』からの登録とする事ができないと言うことらしい。


「可能であれば、『火球』を覚えてから再度の登録をお勧めするのですが」

「……おぼえられなかったんですぅ……」

「それは仕方ないんじゃない?」

『ぽんこつー』

『へたっぴー』


 妖精が煽りよる。どうやら、魔力を多く消費する魔術の発動が苦手という弱点がプリムにはあるようだ。かわいそうなので、あまり言わないであげてほしい。特に妖精!!


「……で、どうされます」

「あの、一晩考えたいと思います」

「承知しました。では、ラウ君、この手紙を持ってプリム様を在郷会館にご案内してもらえますか」

「はい! じゃあ、行きましょうかプリム様」

「……」


 下を向き、小さく頷くプリム。その歩みはノロノロとしており、心ここにあらずといった雰囲気である。歩く方向も怪しいので、フラウは仕方なく手を取る。傍からみれば、少女が二人手を取って歩いているように見えるが、方や少年、方や見た目詐欺の歩人である。


「土夫の女性も成人しても少女に見えるって聞くけど」

『まるっこいー』

『ぽっちゃりさん!』


 土夫(どわふ)という種族もおり、鍛冶や細工師として人の街で活動する者もいるが大抵男であり、女性はあまり見かけない。家の外に出ないのかもしれないが、噂では「男のように髭が生えていて見た目では分からない」とフラウは聞いたことがあった。実際は、人間の少女か土夫の女性か見分けがつかない為に流れたデマの類なのだろう。


「ううう……」

「見習からはじめればいいんじゃない?」

「大人なのにぃぃ」


 半泣きのプリムは、どうやら『見習』扱いなのが気に入らないらしい。


「人の街は初めてなんですよね。なら、いきなり冒険者として討伐を始めるよりも、下働き也お遣い也して生活に慣れた方が良くありませんか?」


 農村の生活と街の生活・冒険者の生活はかなり違う。まして、歩人の里とは習慣や規則も異なる。冒険者として活動するにしても、一人で受けられる依頼は限られている。討伐にしても護衛にしても、数人の「パーティー」で活動することになるだろう。その場合、歩人の常識と人間の常識では異なることもある。価値観の相違というのは、割と人間関係を壊す要素になるのだから、今少し慎重に考えた方が良いだろう。


「それは、そうかもだけど……家事とかできないし……」

「……え……」

「だ、だって魔術の練習でいそがしかったんだもん」

「えと、小火球までしか使えないんですよね?」

「ば、馬鹿にして!! 小雷球だって使えるんだから!!」

「やっぱ『小』なんだ……」

「……」


 フラウの呟きに、プリムは黙り込んでしまう。本人も『小』の付く魔術しか使えない事を気にしていたようである。


「小魔術じゃ、討伐難しいんじゃありませんか?」

「使えるだけましだもん。みんな、すごいってほめてくれたもん……」


 どうやら、小火球で村の家々の竈に火をつけて回ったり、鳥を小雷球で撃ち落として振舞ったりしていたらしい。つまり、便利に使われていたのだろう。フラウの祖母はその辺りを気にして、村を出したいと考えトラスブルに向かえるように手配したのだろうとフラウは察したのである。



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