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プロローグ フラウと祖母と森の庵

弓と魔法のお話が書きたくなったので……うっかり書き始めてしまいました。

『妖精騎士の物語』の開始当初の時間軸から二十年後のお話になります。

 フラウの朝は早い。昨晩も母は家に帰ってこなかった。父親の顔は知らない。母は村近くにある街に女給として働きに出ており、夜は街の出入りもままならないので、中々フラウの住む村まで帰ってくることはできないらしい。


 フラウの一日は、森の中にある祖母の庵に向かう事から始まる。


「おはようございますベルッケさん」


 家を出て村の外に向かう途中、フラウは村長とすれ違い挨拶をする。まだ三十程であるはずの村長ベルッケは朝日を浴びて眩しいくらいの頭頂部をしている。彼は若禿であった。修道士の『トンスラ』のように眩いばかりに頭頂部が輝いている。


「今日も婆さんの所に通うのか。森は薄暗いからな。狼に気を付けろよ」

「はい!! 大丈夫です!!」


 フラウは杖代わりの『羊飼いの斧』を掲げ、これで一撃ですとばかりにアピールする。祖母に貰った大人の掌ほどの斧刃がついている東方由来の野営道具だ。その柄は「トネリコ」製の丈夫なものである。東方の騎士や兵士は馬に括りつけ野営や戦闘に使うとされる。


 そんなものを祖母がなぜ持っているのかは不思議なのだが。




 フラウの祖母は「魔女」と呼ばれる村の中でも恐れ敬われる存在であった。フラウの住む家は元々祖母の家であったのだが、薬草などの素材を手に入れる為に頻繁に森に入っていた祖母は、作業小屋を設けておりいつの間にかかなり大きな庵となっていた。


 フラウとその母が村に戻って来た時には、祖母は殆ど森の庵に住んでおり、半ば空き家となっていた家に、フラウ母子は住む事ができた。とはいえ、寡婦で外に出て戻ってきたフラウの母には村で生活する手段はない。


 当時の村長の息子(今の村長)の勧めもあり、フラウの母は祖母にフラウを半ば預け、近くの街で女給の仕事を始めたのである。


 フラウが物覚えの付く頃には、母は常にいない者、祖母が生活の面倒を見てくれ、遊びの片手間ではあるが「魔女」の技も色々教えてくれた。文字の読み書き、計算から始まり、素材となる薬草の採取や調合方法も学び、初歩ではあるが錬金術・蒸留の方法も教わった。


 母は「魔女」の仕事を毛嫌いし、街に出て働くことを選んだようだが、フラウは森での祖母との生活がとても気に入っていた。それに、祖母は「高名な魔女」であり、森の庵には「魔術師」「錬金術師」と呼ばれる来客も有り、また、その同行者には護衛役や同じ冒険者パーティーとして活動する傭兵・斥候・戦士が同行することもあった。


 彼らは暇つぶしにとフラウと遊んでくれることもあり、野営の仕方や肉体の鍛錬の方法、あるいは武器・道具の扱い方、魔力操作の方法を遊びがてら教えてくれた。彼らは子供との遊び方など知るはずもなく、自分たちの知るフラウにとって未知の情報を暇つぶしに教えてくれたのだ。


 故に、齢十一歳にしてはフラウの能力は駆け出し冒険者の域をはるかに離れたところまで能力を高めていた。


 そして、頭に被るお気に入りの革製乗馬頭巾も、そうした来客がフラウや祖母に土産としてくれたものでもある。村の大人たちはフラウの事を「革頭巾」と呼ぶこともあった。田舎の村には珍しい、洒落た頭巾を揶揄われているのだ。





 森の庵までは二時間ほどかかるだろうか。今だ小柄であるフラウにとって、なれた道とはいえ森の中の細道はさほど素早く歩けるわけではない。『黒森』と呼ばれる陽の光もあまり差し込まない深い森ではあるが、所々に古くなった木が倒れ、森の中の草原あるいは花畑のような場所がある。小径はそのような場所を時々通過しながら、庵へと続いているのだ。


 フラウは必要となる薬草類をその途中の原っぱや森で採取しながら祖母の庵へと向かうので、時間が掛かるということもある。


「おお、革頭巾じゃねぇか」


 林間の草原にしゃがみ込んで薬草を採取しているフラウに声を掛ける者。村はずれに住む「猟師」の『ネルベ』だ。


「おはようネルベさん。罠に獲物はかかってた?」

「いや、駄目だった」


 猟師の仕事の大半は、森の中にいる獲物の行動を調べ、その行動パターンの中で移動経路を探ってその途中に罠を仕掛けることにある。動物は自分の縄張りの中を回遊しつつ餌を探している。同じ場所ではなく、森の一定の範囲をグルグル回りながら餌を得ている。


 仮に一頭の猪を狩ったとしよう。その猪の生活圏が空白となり、暫くすると別の猪が「こりゃ空き家か?」と入り込んで来る。なので、ネルベは新しい獲物の痕跡を確認して、その経路上に罠を仕掛けて見たようなのだ。


「まだ、縄張りとして固まってねぇんだろうな」

「だよね」


 前に罠にかかってから十日と経っていない。様子見なのだろう。


 猟師も「魔女」と同様、村の正規の住人ではない。畑を持ち、村に家を構え、村長の統制下で税を納めて村の共同作業に加わっていないからだ。羊飼い・牛飼いもその村出身者ではなく、近隣の別の村の住人の中から選ばれる。村の中に住むことを許されず、村民となることもまずない。


 フラウの祖母は最初から「魔女」の家系として村で恐れ敬われていたので村の中に家はあるのだが、扱いは猟師や羊飼いと似ている。なので、祖母もわざわざ村に住まず、母も早々に村を出て、今も街で働いている。「魔女」の仕事をしていないにもかかわらずだ。


「毎日通うのも大変だろう」

「雨の日は行かないよ。それに、おばあちゃんも心配だし」

「まだ良くならねぇのか」

「うん……」


 高齢の祖母が寝付いてもういい加減たつ。なかなか回復しないので、祖母の姿を見かける住民はおらず、もっぱらフラウが仲立ちとなり「魔女」の仕事を行っているのだ。


「こんど見舞いに行く」

「美味しいお肉も一緒にね」

「ああ、任せろ」


 疎外されている者同士、魔女と猟師は割と仲が良い。あるいは、猟に用いる毒薬も自作より魔女から手に入れる方が確実なので、祖母と猟師は昔から付き合いがある。薬と肉あるいは猟で得る素材との物々交換が基本なのだ。


 物々交換の相手は「山師」という者たちもいる。山師は所謂鉱山を開発する技術者で、貴族に近い特権を持っている。とはいえ、山野を彷徨し新しい鉱山・鉱脈を探すので見た目は貴族とは全く言えない。だが、その鉱山から得られる収入は莫大だとされる。


 しかしながら、鉱山で事故でも起きれば大損害なので、振れ幅の巨大な損得の中で生きているからか、非常に肝が据わっているし世の中の理屈の外で生きている存在の一つだ。彼らも、「魔女」の取引相手として相応しいのか、祖母の客の一人であり、素材の提供者である。


「魔女」は村と村の外に住む様々な存在とを結びつけるコーディネーターでもあったのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 森の中にある開けた場所の一つに、祖母の庵は建っている。村の家より余程立派なお屋敷であり、村長の家ほどもある。村の中で大きな家を建てるわけにもいかないので、敢えてこの場所に「庵」を建てたのだ。


「おばあちゃん、フラウだよ!」


 声をかけて中に入る。背負っている籠の中には採取した植物の素材と村で買ったパン。森の中の一軒家ではパンも焼けないので、これが通う理由の一つでもある。


「おばあちゃん、まだ寝てるの? もう、昼近いよ!!」


 フラウは奥にある祖母の寝室へと向かう。この家は平屋で、居間と台所、客室が二つ、そして祖母の寝室、調合室がある。意外としっかりお屋敷なのだ。


 地下には貯蔵庫も有り、食料と酒蔵、そして素材収納庫がある。地上に置いておくと、動物や魔物が良ってくる可能性があるので、地下にわざわざ設けたのだが、「魔女」にとっては地下室を作ることくらい造作もない。


「おばあちゃん……寝てる?」


 扉の前で中に向けて声を掛ける。なにやら大きな鼾が聞こえてくる。


「しょうがないな。また夜中起きていたのかもしれないね」


 フラウは昼食の準備をしつつ、採取した薬草の下処理を進める。水で洗い土を落としてそのまま使うもの、乾燥させるものと分けていく。


 スープの具は採取した薬草類と母が持ち帰って来た鶏の肉。恐らくは酒場の残り物を土産にもらったのだろう。フラウが村を出た後の時間、午前中に母は家に戻ってくることが多い。昼過ぎまでひと眠りし、午後早く街へと戻り夜の仕込みを手伝うのだ。


 日中は森に入っているフラウと母は大概すれ違いなのだが、こうして肉や一寸したチーズやベーコンなどを置いていく。代わりにフラウは、パンを買い置きしておくのである。




 暫くしてスープが完成する。そろそろ祖母を起こして昼食にしようかと考える。村に持ち帰る薬も幾つか調合しておかねばならないが、祖母と要相談だ。


「おばあちゃん。そろそろ起きてよ」


 寝室の扉の前で声を掛ける。


「誰だ」


 中から掠れた声が聞こえる。


「おばあちゃん。ボクだよ」

「ん、ボクサンに知り合いはいないよ」

「あのね、フラウだよ。おばあちゃんの孫の。いいから、お昼ができたんだよ。一緒に食べようよ!!」


 おばあさんは寝起きが悪い。そして機嫌も当然悪いのだ。


「でも、ずいぶんと酷い声だね。風邪でもひいたの?」


 中から聞こえた声は、「是」の声。そして、食事はベッドでするという。お盆にスープとパンを乗せ寝室へと入る。


「寒い。さっさと入って扉を閉めとくれ」

「はいはい」


 ベッドには、ナイトキャップを被った祖母がこちらに背を向け横たわっていた。 お盆を持って近づくと、ベッドから伸びた手ががばりと抱きしめる。


「少し見ない間に手が大きくなったんじゃない?」

「鍛錬しているからな。お前を抱きしめる為に」

「はは、趣味でしょ」


 お盆の中身が零れないか心配になるが、大丈夫のようだ。


「ねえ、耳も随分と大きいよね」

「ああ。近づく魔物や獣の足音や呼吸音を聞き逃さない為だな」

「目もなんだか恐ろしいくらい大きいよ」

「夜目が効く。それに、魔力も見て取れるか」


 目も耳も良いのは自慢なのだろう。歳の割には。


「それと、なんでそんなに口が大きいのさ」

「……そりゃ……お前を食べる為だ!!」


 布団を跳ねあげ中から飛び出してきたのは、身長は二メートルに近いだろう巨大な体を持つ「狼女」であった。



読んでいただきありがとうございます。書き溜めていた分を連続でこの連休の間は投稿するつもりです。(第一章に相当)


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