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第四話 『発動条件が致命的すぎる件』

 デ○ノート的なやつだろうか。

 真っ先に浮かんだ感想はそれだった。

 確かに読者の俺からすれば嬉しいし、転生特典としては心強い。


 が、少しちいさいな。ノートというよりは手帳的な……いやまて。

 

「おい、なんかそれ見たことあるんだけど」

「ああ。言っただろう。レンキが喜ぶものだとな」

「いや、喜ぶかどうかはわからないだろ! しかもそれ、やっぱそうだよな!? 俺の私物だよな!? 別になんの力も宿ってないから戻してきなさい!」


 いや、ほんとにそれはダメだって!

 てか少し遅れて来てたようだが、もしかしなくても俺の部屋で泥棒してたんだろ!

 

「なんだ。サプライズは失敗か? まあそれはいいか……だがこれはお前の部屋の奥深く、そうまるで邪神を封印するが如く奥深くに封印されていたものだ。そして偶然にもこれにはな、魔法的な潜在力が備わっていたのだ! それならばもうこの力を最大限に引き出して武器とするのが一番であろう!」

 

「背中が痒くなる説明ありがとう。戻して来なさい」

「む。これは上位魔術士が何ヶ月もかけて魔力を編み込みながら作るような、すごいものだぞ」

「そうなのか。戻して来なさい」

 

「ここに戻ってくる合間に目次っぽい箇所に目を通したんだが、文字は読めかったものの見たこともない魔術についての記載が色々あるらしく、私も気になっていてな」 

「お願いします本当に返して来てください」

 

 なおも譲らないクーロを前にとうとう自我がおかしくなりそうだった俺はその場で土下座をする。地面に頭を擦り付けて懇願するなんて初めてだが、もうなりふり構ってはいられない。


 それだけは……“俺が厨二病時代に書いたその架空の魔術書もどき”だけは本当にやめてくれ……。

 

「……この内容を翻訳して教えて欲しいな。できれば詠唱もかっこよく読み上げてくれると嬉しい!」

 

 なんだこの女。人がこんな屈辱的なことをしているのにガン無視してやがる。

 

「いやいや、絶対に俺はそんなの受け取らないからな!? 本当に協力して欲しいならもっと精神的に優しいものにしてくれ! さもないとここで商人として細々と生きてやる!」


 俺は必死に拒否の意を示す。

 が、クーロはまるで子供のわがままに付き合わされているかのようにやれやれと仕方なさそうな素振りをする。

 

 仮にも俺を勇者として呼んだんだから、もう少し優しく扱ってくれてもいいと思うんだけど。なんなの。このままじゃ闇堕ち勇者路線をひた走ることになるが?

 

「何がそんなに嫌なのかは知らないが、騒ぎ立てるのは一度この特典の力を試してからでも遅くはないと思うぞ」

 

「え、いや。それがどんだけすごい代物でも、もうビジュアルの時点で終わってるんだが。なんだよ『禁忌魔術大全』って……。

 

「ほほう。禁忌魔術とな! それを聞いてますます深淵を覗きたくなってしまったぞ。ほら、はやく受け取れ」

 

「うわ、そんな特級○物投げてくんな! ぐはっ」

 

 興味ゆえか瞳を爛々と輝かせたクーロは俺に向かって雑にそれを投げつけてくる。その勢いに思わず受け取ってしまった俺だが、手に持っただけだというのに、過去の黒歴史が次々とフラッシュバックしていった。

 

「お、おい大丈夫かレンキ! はっ、まさかこれこそが強大すぎる力ゆえの代償……!? そしてそれを耐え切ることでようやく持ち主として認められるということなのだな!?」

 

 急に吐血した俺を見るや否や勝手に妄想を膨らませるクーロ。

 ますますテンションが上がったのかわなわなと体を震わせている。


「ごほっ。ま、まずは心配するだろ普通……」 

「おおっと、すまない。流石に非常識だったな。しかし、なんとか耐え切っているな。まったく大したやつだ」 

「いや、まあ、うん」

「では次の段階にいくとしよう! まずはその中の初級魔術を一つ発動してみてくれ!」

 

 うん。これでなんとなくわかった。こいつは魔術以外にはとことん興味がないってことが。もう倫理観とかそういう類が通用しないのだ。

 

 ならばもう、諦めて彼女の欲に付き合う以外に話は進まないんだろうな。

 腹を括るか……。

 

「わかったよ。一回だけな! それが終わったら俺の言うことを素直に大人しく聞いてくれ! わかったか?」 


「うん。わかった!」

 

 本当か? まあ、いささか不安は残るが、俺は深呼吸ののちにゆっくりと『禁忌魔術大全』の最初のページを開く。というか、最初のページ以外が何故だか捲れない。チュートリアルみたいな感じで仕様が制限されている的なあれだろうか。


 とにかく早く終わらせたかった俺は精神的大ダメージを負うことを覚悟しつつ魔術名とそれについての説明を読み進めていく。

 

 くっ、完全に記憶から消去していたつもりだったのだが、読み進めていくいうちに段々と執筆時の記憶が蘇ってくる。てことは最後の発動条件に書いてあるのは確か……。

 

「うわーーーーーないわーーーーー」

 

 俺は膝から崩れ落ちた。

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

 そんな俺をみてクーロは心配そうにしゃがんで俺の顔を覗き込もうとする。あれ、さっきは魔術のことしか頭にないサイコパスかと思っていたが、実はちゃんと優しい心も持ち合わせているのかもしれない。


 いきなりそんな一面見せられたら、ちょっときゅんきゅんしてしまうから気をつけて欲しい。

 容姿に関しては非の打ちどころがないだけに、ちょっとした拍子で心臓を射抜かれてしまいそうなので注意せねば!

 

 いや、そうじゃないな。

 

「この魔術の発動には上記の“短文詠唱”および下図の“ポージング”が必要となる……。マジか、死ねるんだけど」

「なに、もしや最初から自爆魔術が記されているのか!? なんという……まさに禁忌」

 

 あ、またこいつ変な妄想膨らませてる。でも今のは流石に俺の表現が悪かったから訂正しておくか。

 

「いや、これは自爆魔術じゃないぞ。まあ、なんだ。ファイヤーボールって魔術はあったりするか?」

「ああ、あるぞ。炎系統に適性のある魔術師がまず最初に習得するのがそれだ。だが炎系統の魔術はもっぱら戦闘に適しているからな。いかに初級といえどもーー」

「やっぱりあるんだな。そこは定番にならっていてくれて助かった。じゃあ、マジでイヤだけどやってみるか……と思ったけど」

 

 的がないな。


 俺がそう言おうとしたそのとき、ズシンッと重い響が足と耳に伝わった。突然のことで困惑しつつ、音のした背後を振り向く。


「ぎゃあああああ!」

 

 そこにはつい先ほど、この世界に来てまもなく空で飛んでいるのをみた怪鳥がいた。


明日も投稿します。

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