第二話 『異世界と信じるしかない件』
しばらく俺を襲っていた心地の悪い浮遊感は、気がつけば綺麗さっぱりなくなっていた。
変わりに清涼な風が頬を撫でてくる。
「……?」
それに気づいた俺はそこでようやく目蓋を上げた。
そして目にしたのは、視界いっぱいに広がる草原だった。
それだけでも、もうここが東京ではないことはわかる。
ではここはどこなのか、さらなる情報を得るため努めて冷静に当たりを見回す。
そうするとうさぎのような小動物が二匹ほどこちらを注視していることに気がついた。
俺がうさぎのようなと濁した表現をしたのは、その動物に角が生えていたからだ。
「いや、まさかな」
それを目撃したときは一瞬、自分が別の世界へと迷い込んでしまった可能性が頭をよぎった。
だが、仮に一角うさぎと呼ぶが、今まで俺がその存在を知らなかっただけという線の方が現段階ではまだ強いだろう。
うん。そうに違いない。
俺、田舎者だし。
しかし、ここが異世界である可能性。それが有力になったのは、皮肉にも俺が現実逃避をしようと空を仰いだ、そのときだった。
「え? は? マ、ジで……?」
目を引く大きなクチバシと翼はまだ納得できる。
しかし、問題はあの以上に発達している尻尾だ。なんかメラメ燃えてるし、ありえんだろ…。
少なくとも俺の知る地球にはあんな奇天烈な生物は絶対にいない。俺はUMAを信じないタイプである。
「おお、一足先に着いておったか!」
「うわっ!」
いよいよここが異世界であることに納得しそうになっている俺の背中に、女の声がかかった。
驚きながらも即座に振り返ると、そこにはいかにも魔女っぽい少女が得意げな顔をしつつ立っていた。
さっきまでは確実にそこにはいなかったはずである。
「ず、随分と凝ったコスプレだな」
「む! 『こすぷれ』なる言葉は知らんが、お前が私の存在を誤認しているのはわかった……」
この場所に来てからずっと事態を飲み込めておらず余裕などない俺だが、それでも女性をじろしろと見てしまった以上なんとか感想を絞り出す。
その時の俺の顔は15年間生きてきた中で、もっとも顔を引きつらせていたことだろう。
そして当の少女は俺の言葉が気に障ったのか、その端正な顔を不満げにする。
「これは決して姿だけ魔女を模したようなそこらの有象無象とは違うぞ! 私は正真正銘の魔女さ。それも大魔術『次元移動』を扱える、最上級の存在のな」
しかし次には彼女はマントを翻し、並程度の胸を張って、もはや悪役がしそうな笑みを浮かべると、続けて彼女はこう言い放った。
「内なる力をその胸に宿し、可能性を捨てきれぬそこの者よ! 貴様は選ばれた。そう、世界に蔓延る悪を殲滅せし勇者としてな!」
明日も投稿しまする。