第一話 『異世界召喚が力技すぎる件』
めっちゃイタい発動条件を満たすことで、めっちゃ強い魔術を行使できるようになった男子高校生のお話。
「今日もまさに、理想的な一日だったな」
ククク、と怪しい笑みを浮かべる俺だが、別に怪しい人間などではない。
ただ、すでに始まって一年が経とうとしている高校生活のあまりの充実ぶりにニヤケが止まらないだけの、健全な男子高校生である。
入学して早々に行われた実力テストではクラスでも最上位の座を獲得し、それに並行して体力テストも好成績、さらには貴重な休日を奉仕活動にくまなく充て、俺はまさに模範的な生徒として堂々と優等生街道を突き進んでいた。
そして先日には、なんと。
生徒会からその功績を評価され、一年生でありながら書記として勧誘されるという偉業まで成し遂げたのである!
学校が都会の名門私立ということもあり、その時はクラスではまさに英雄のようにもてはやされたものだ。
「いいぞ前園錬樹…お前ならあの暗黒に染め上げられた中学時代を、忘却の彼方へ葬り去ることも……グハッ!!」
やってしまった。
つい気持ちが昂ってしまって『中学時代』という禁句を口にしてしまった。その瞬間にフラッシュバックした鮮明な過去の記憶に思わず地面を転がりたくなるが、ぐっと堪える。
「でもなぁ。一年間も真面目に優等生を演じてると、さすがに疲れるな…」
今でこそリア充街道を猛進する俺だが、本当は勉強も運動もほどほどにしたいし、奉仕活動なんてごくたまーにするくらいで丁度いいと思っている。
アニメや漫画の話で盛り上がれる数人の友達とアホみたいな会話をして、目立たない一人の学生でいられれば、それでいいと。
だが俺の思い出したくもない過去。
それを忘れるためには、より濃密な、それはもう濃密すぎるようなキラキラとした学園生活を送って学生時代=楽しかったと条件反射で思えるような社会人になる必要があるのだ。
そして俺の意思は硬かった。だからこそ今の自分がいる。
「今日も家に帰って授業の復習でもするか…いや、先にジョギングをーー」
そこまで言った俺は、突如として出現した“それ”を前に言葉を失った。
七色に光る時空の割れ目。決して自然現象という言葉では片づけることのできない、世界のバグとでも言えるようなそれが、10mほど離れた前方に、確かに存在している。
身を案じるのなら、すぐに距離を取ることが正解だろう。
だが、不思議と恐怖心に勝る興味を抱いてしまった俺は、徐々にこちらへ迫ってくるそれを前にただ突っ立ているだけだった。
「きれ、い……っ⁉︎」
思わずそんな言葉が口から漏れ出た、その瞬間。
今度は、虹色の割れ目の中から人間の細い手がぬるりと生えた。
その手に迷いはなく肘辺りまで伸びきると、俺の胸ぐらをがっしりと掴む。
「うぐぉ!?」
そして、そんな情けない言葉を残した俺は、次にはその割れ目の中へ抵抗の余地もないまま引きづり込まれていった。
ああ、神隠しって本当にあるんだな……。
明日も投稿します。
初作品です。一週間くらい毎日更新でそのあと不定期となります。
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