序章 『逸話』
元厨二病患者の少年がある意味苦戦しつつも、最強魔術の数々で無双していくお話です。
シリアスよりしょうもないギャグ要素のが強いと思います。
パチパチと火を鳴らす暖炉を、一人の老人と11人の子供が座って囲んでいた。
「ーーそうして、黒の勇者様は最後の古の獣を辛くも討伐されたんじゃ」
老人は1時間にもわたって、子供たちにとある英雄譚を語っていた。
子供の集中力であればうつらうつらと船を漕いだり、退屈そうに欠伸を欠いたりしそうなものだが、今のこの平和な世界を築いた英雄の話となれば別なのだろう。
その証拠に子供たちは揃いも揃って目を輝かせ、身を乗り出して老人のしわがれた声を聞き続けていた。
「その方はその後、どうしたのですか?」
子供たちの中で最年長らしき少年が、手を上げて老人に質問した。
周囲の子供たちも、少しの沈黙を破ったその問いの答えが気になるのか老人を一点に見つめる。
「勇者様はもともと別の世界の住人だった。だから役目を終えるとすぐにあちらへ帰ってしまったよ」
「そうだったのですね」
「ああ、しかしこの話には実は続きがあるのじゃよ。しかも世間には出回っていないものじゃ」
「そうなの! きかせてよレギオルおじいさま!」
老人の口から出た願ってもない“続き”という響きに、隣に座る最年少らしき少女が興奮気味にそう言った。
「ああ、いいとも。だがこれは他言無用で頼むぞ。なにせ彼はーーたまに人知れずこの世界にやってきては闇を払ってくださっているのじゃからなーー」
そして、夜の帳が本格的に降りるそのときまで、レギオルと呼ばれた老人の話は続いたのだった。
「ふう。久々に熱く語ってしまったわい」
子供たちが各部屋で寝静まったのを確認した彼は、身を置いて五年が経とうとしている孤児院の窓を開ける。
夜の冷気に豪快なくしゃみをすると、永久的に満月になることができなくなった月を見上げ、昨日の出来事のように思い出せる戦いの記憶を一人懐かしむのであった。