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〖英雄〗がインストールされました⑤

「行くぞ」


 動く前に俺から攻める。

 すでに剣帝のスキルは発動済み。

 最大出力で魔力を纏い、斬撃を浴びせる。

 が、遅れて動いた鎧騎士はこれに反応し、抜き捨てた剣で防がれた。

 続く連続攻撃も回避し、受け流される。

 やはり剣帝のスキルによる動きは学習ずみだ。


「だったらこれでどうだ?」


 剣帝+鬼子!


 二つのスキルの同時使用。

 本来は身体への負担が大きく、一分も持たないため使用しない。

 だが、学習され強くなる星食いの騎士にも、二つの掛け合わせは見せていない。

 剣帝の魔力操作によって強化された肉体、刃。

 そこに魔力を用いず最強へと至った剣士の技量が加わることで、この技は異次元の真価を遂げる。


 天然理心流奥義――無明剣。


「十連」


 本来三連撃だった刺突を十連続へと昇華させた。

 もはや一撃一撃の間隔はなく、ほぼ同時に十の突きが繰り出される。

 騎士の鎧にひびが入り、一部中身が露出する。

 中身は黒いモヤで充満していた。

 このボスは鎧こそが肉体、本体なのだろう。


「このまま砕く!」


 もう一度、同じ技を繰り出す。

 しかし次は見切られてしまった。


「今の一撃で学習したのか」


 予想よりも学習スピードが速い。

 一度でも見せた攻撃は、二度目に完全攻略されてしまう。

 元より二つのスキルは分身体相手にさんざん見せてきた。

 今さら本体を倒せるとは思っていない。


「でも、おかげで慣れたぞ」


 すでに学習済みのスキルを使用して戦ったのは、侮っているわけではない。

 初見のボスモンスター相手に、無策で特攻するほど危険な行為はないだろう。

 だからこそ、相手の行動パターンを見極める必要があった。

 ライラの話では、星食いの能力や攻撃手段は、器としたモンスターの能力を引き継ぐという。

 いかに強力なモンスターでも、攻撃パターンには規則性や原理が存在する。

 何度も戦い、見て、経験して、学習する。

 それは何も、星食いだけの専売特許ではない。

 人類が長い歴史の中で続けてきた研鑽と同じだ。


「攻撃手段は剣だけ。恐ろしく硬いが再生もない。攻撃は通る……よし」


 ここまでわかれば十分だ。

 スキル発動、奏者。

 生物をテイムできるこの力で、道中にいたモンスターを数体手懐けた。

 手懐けたモンスターをボスに放つ。

 その隙に俺は駆け出す。

 彼女たちの下へ。


「みんな!」


 彼女たちを媒体とするスキルを発動。

 その条件はシンプル、肉体的接触をすること。

 三人順番に、短いキスをする。

 これにより俺の肉体は彼女たちと繋がり、その記憶にアクセスする。

 

「ありがとう。行ってくるよ」


 再び彼女たち背を向け駆け出す。

 相手は学習する怪物だ。

 長期戦は不利になる。

 故に、出し惜しみはしない。


 彼女たち三人を媒体に得たスキル。

 〖勇者〗――光の聖剣を生み出す。

 〖精蔵〗――光を含む五大精霊を操る精霊使いの力。

 〖赤王〗――不死身の肉体を持つ吸血鬼の力。

 

 本来、三つのスキルの同時発動など俺の身体が崩壊する。

 しかし俺は赤王の能力で壊れても復活する不死身の肉体を得ている。

 これにより負荷に耐え、勇者の力で聖剣を召喚する。

 聖剣の最大出力であれば、目の前のボスモンスターは一撃で倒せるだろう。

 ただしここは地下、密閉された場所で力を解放すれば、ダンジョンが破壊されて生き埋めになる。

 故に精蔵の力で光の精霊の助力を得ることで、聖剣の力を収束、コントロールする。

 

 構えた切っ先はボスモンスターに向く。

 放ったテイム済みモンスター、最後の一体が倒された。

 ボスがこちらを向く。

 異様な気配に気づき、回避行動を始める。

 だが、一手遅い。


「穿て――エクセリオン!」


 聖剣の名を叫び、切っ先から高圧縮された聖なる光を放出する。

 放たれた光は空間を歪ませ、ボスモンスターを一瞬にして焼き払った。

 勝負は一瞬。

 学習の時間など与えない。

 これぞ完全無欠――


「お見事! お前さんの勝利だ!」

「やったー!」

「さっすがだぜ!」

「よ、よかった……」

「……ふぅ」


 俺はようやく肩の力を抜く。

 聖剣は消え、スキルを解除する。


「これで……世界は守られたんだな」

「うむ。お前さんのおかげでな」

「……そうか」


 俺が世界を救った。

 未だ実感はないけれど、何かを掴んだ感覚はある。

 少なくとも今、この手の中には、確かな勝利の余韻が残っている。

 俺は拳を握る。


「よくやったの、お前さん」

「ああ」

「その調子でこれからも頼むぞ!」

「ああ……え?」


 これから?


「本体は倒しただろ?」

「ん? あの一体で終わりなわけがなかろう。これからどんどん増えて忙しくなるぞ」

「……」

「なんだ? 怖気づいたのか?」


 ライラは挑発するように笑みを浮かべながら尋ねてくる。

 そんな彼女を見ながら、俺は笑う。


「正直……今は少しワクワクしている」

「おおー、言うようになったな」

「誰かさんが背中を押してくれたおかげだよ」

「それは何よりだ」


 ライラだけじゃない。

 エリカたちのおかげでもある。

 彼女たちが支えてくれる。

 傍で見ていてくれる……だから俺は――


「戦うよ、何度でも。みんなに誇れる英雄になるまで」

「期待しておるぞ」

「ああ、期待していてくれ」


 その期待が、俺の背中を押し続ける。


「帰ろうか。俺たちのホームに」

「そうですね!」

「もう腹ペコだぁ~」

「今夜はゆっくり、ね、眠れそうですね」


 これは新たな英雄譚。

 その第一幕。

 英雄を目指す者が、第一歩を踏み出す物語。

 言わばまだまだ序章に過ぎない。

 

 俺は英雄になる。

 持たざる者でしかなかった俺の名を、この世界の歴史に刻むために。

 役立たずなゴミスキルから始まった英雄譚は、新たなページを書き記すだろう。


【作者からのお願い】

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『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』


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https://ncode.syosetu.com/n9843iq/

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『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://ncode.syosetu.com/n9843iq/

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