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〖人狼〗がインストールされました⑤

 クロムの身体に、狼の特徴が顔を出す。

 見間違いではない。

 彼女も盗賊と同じ、人狼の一族だったのだ。


「クロム!」

「ど、どうしちゃったんですか?」

「う、うああああうあああああああああああああ」

「二人とも離れろ!」


 暴れ出しそうになったクロムを、俺がギリギリで両手を抑えて止める。

 完全に理性を失った目だ。

 無理やり人狼スキルが発動して、理性が吹き飛んでいる。


「ライラ! その球を踏みつぶしてくれ!」

「了解だ。二人ともさっさと離れるぞ。あの女も逃げたようだしな」


 今の隙をついて盗賊には逃げられた。

 だけど今はそれどころじゃない。


「正気に戻れ! クロム!」

「うあう! あああああああああああああ」


 くそっ、言葉は通じない。

 人狼のスキルについてはそこまで詳しくないんだ。

 暴走を止める方法なんて知らないぞ!

 意識を鎮めれば収まるのか?

 でもそれで、起きたらまた暴走するとしたら意味がない。

 なんとかして制御する方法を探すしか……。


「あるぞ。うってつけの力が」


 ライラが俺に言う。

 

「――わかった! 頼めるか?」

「仕方ないなー。皆に見られて恥ずかしいのになー」

「我慢してくれ」


 微塵も思ってない癖に。

 おかげで希望が見えた。

 俺はクロムの腕を引き、体重を上手く利用して遠くへ一旦投げ飛ばす。

 その隙にライラの下へ駆ける。


「ライラ!」


 一気に抱き寄せ、唇を重ねる。

 エリカとフィオレが驚き顔を赤くする。

 そしてまた、記憶が流れる。


  ◇◇◇


 世は大魔獣たちに怯える時代。

 一人の少年が、小さな魔獣と友人になった。

 本来相容れない存在にも拘らず、彼らは心を通じ合わせた。

 それこそが少年が持つ異能。

 魔獣と心を通わせ、自らの支配下に置くことができる力だったが、少年は支配など考えない。

 ただ、友人として過ごせるように。

 そんな世界を夢見て、魔獣たちとの共存を目指し立ち上がった。

 長く苦しい道のりの果て、多くの間違いと別れを経験し、少年は夢を叶えた。

 大切な友人と、自らの命を代償に。


 人々は彼の生涯をあがめた。

 誰にも成し得なかった奇跡を起こし、魔獣たちを従えた彼のことを、後世に伝えた。


 魔獣と共に歩むただ一人の人間――〖奏者〗と。


  ◇◇◇


 唇が離れる。


「レ、レオルスさん? こんな状況で何を……」

「ありがとう、ライラ」

「気にするな」


 【告】――〖奏者〗がインストールされました。


「さて、今の君は誰だい?」

「俺は――」


 再びクロムと向き合う。

 右手にはスキルを発動して得られた黒い鞭が握られていた。

 鞭だけじゃない。

 両手には赤い刻印が刻まれたグローブを装備している。


「まずは動きを止めよう」


 俺は鞭で地面を叩く。

 この鞭には支配の力が付与され、叩いたものを強制的に従わせる。

 叩かれた地面は揺れ動き、クロムの足元がひび割れる。

 バランスを崩したところで、鞭を伸ばしてクロムを拘束する。


「ううう!」

「ごめんな。少し我慢してくれ」


 動けなくなったところで接近し、彼女の頭に触れる。


「――テイム」


 〖奏者〗のスキルで得られる能力は、この鞭による支配ともう一つ。

 グローブ越しに触れた動物をテイムすること。

 今の彼女は半分狼だ。

 狼の部分をこの力で従え、制御できれば――


  ◇◇◇


 暗い空間に独りぼっち。

 水の底に沈むように、クロムは落ちていく。


「……暗い」


 普段ならよく見えるはずなのに、今は何も見えない。

 誰もいない。

 何もいない。

 独りぼっちの孤独を感じて、寒気がする。


「誰か……」


 声に反応するように、遠くから聞こえてくる。


 お前が悪い。

 お前は生きるべきではない。

 寂しく死ね。

 罪を償え。


 それはかつて、大罪を犯した者が見た光景であり、未来永劫受け続ける呪いの声。

 クロムの中にある罪の結晶。


「嫌……ごめんなさい」


 ダメだ。

 許されない。

 幸せになるなど認めない。

 苦しみ続けろ。

 一生、死ぬまで。


「そんなの……私は――」

「気にしなくていい。君は何も悪くない」

「――え」


 光が見える。

 誰かが優しく微笑みかけ、手を伸ばしていた。

 クロムは手を伸ばす。


  ◇◇◇


「ぅ……」

「クロム!」

「お嬢……あれ、オレ……」

「気が付いたか」


 帰り道、俺に背負われたクロムが目を覚ました。

 この様子だと制御は上手くいったらしい。

 ホッと胸をなでおろす。


「レオ兄が……助けてくれたのか?」

「かもな」

「照れるでない。事実だろ?」

「うるさいな」


 結果的に上手くいっただけだ。

 さっきまで不安で仕方がなかったし、あまり胸を張れないな。


「……暗闇の中で、声が聞こえたんだ」

「ん?」


 クロムがぎゅっと、俺の背中に身体を寄せる。


「ありがとな、レオ兄」

「どういたしまして」

【作者からのお願い】

これにて『人狼編』は完結です!

引き続き読んで頂きありがとうございます!


ぜひともページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から、お好きな★を頂ければ非常に励みになります!



評価が多いと作者が元気になります!!!



次回をお楽しみに!

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