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〖人狼〗がインストールされました③

 この世界にはいくつもの不思議がある。

 ダンジョンという最大の秘密が明かされた今、他の秘密なんて小さなこと。

 とはならないだろう。

 何百、何千年と続くこの世界には、今もどこかで新たな秘密が生まれている。

 もしかすると、俺の手が届く距離のどこかにも、気づいていない不思議が眠っているのかもしれない。


 ギルド結成から十日後。

 異例の速度でギルドホームを手に入れた俺たちは、少しずつ生活に慣れ始めていく。

 活動資金もブランドー家が支援してくれそうだったけど、さすがにそれは丁重にお断りさせてもらった。

 何もかも与えられては冒険者の自由から逸脱する。

 ホームをもらっただけで十分だ。

 あとは自分たちの力で、このギルドを支え大きくしていきたい。

 

「とりゃー!」

「っと!」


 俺とクロムは屋敷の中庭で木剣を交える。

 ライラは少し離れた木の下でちょこんと座り、退屈そうに欠伸をしていた。


「凄い動きだな。クロムは剣術を教わらなかったの?」

「教えてもらったぜ?」

「教えてもらってこの動きなのか……」


 剣術というより、野生の獣が本能で獲物に襲い掛かっているみたいだな。

 型も何もあったものじゃない。

 それでも十分に強いのは、彼女の身体能力の高さ故だろう。

 羨ましい才能だ。


「考えて動くのは性に合わねーんだよ! だから訓練も実戦形式がいい! 強い奴と戦えば、その分だけ強くなれる! だからもっと本気で頼むぜ!」

「いや、ちょっと休憩させてくれ。もう十回目だ」

「なんだよー、だらしねーなー。レオ兄はめちゃくちゃ強いけど、体力はねーんだな」

「クロムが無尽蔵なだけだって」


 俺はその場にしゃがみ込み、大きく深呼吸をする。

 昼間の空いている時間、クロムの相手をするのが日課になりつつあった。

 俺にとっても訓練になるから了承したけど、このハイペースはさすがにきつい。

 スキルの持続時間延長以前に、体力をつけないとな。

 というかいつの間にか呼び方も簡略化されているし……。


「レオルスさん、クロム」

「た、ただいま戻りました」

「お帰り、二人とも」


 ちょうどいいタイミングで買い出しに出ていた二人が戻って来た。

 家事も分担してやっているけど、料理はもっぱらエリカの担当になっていた。

 彼女は五人の中で一番料理が上手い。

 自分でなんでもやれるようにと、ブランドー家にいた頃から練習していたとか。

 本当に真面目でいい子だ。


「そんじゃレオ兄! もう一戦しようぜ!」

「今日はここまでだ。二人も帰って来たし」

「ええー、いいじゃんか~」

「クロム、あまりレオルスさんを困らせちゃダメだよ?」

「うぅ……わかりました。お嬢」


 しょぼんとするクロム。

 どうやらエリカの命令には嫌々でも従うらしい。

 まるで飼い主とペット……いい過ぎか。


「ん? それ……リンゴかよ」

「うん」

 

 クロムが赤くて丸いリンゴを見ると目を細める。


「クロムはリンゴが嫌いなのか?」

「別に味は嫌いじゃねーよ。ただなんかそれ見てると身体がうずうずして落ち着かないんだ」


 クロムはリンゴを見ながらそわそわする。

 リンゴの色と同じ赤い瞳が、少しだけ色濃くなったように感じた。

 俺が彼女の瞳を見ていると、クロムが視線に気づく。


「ん? なんだよ」

「あーいや、綺麗な眼だなと思って」

「そ、そうか? なんか照れるなー」

「お前さんも成長したな。女子の前で他の女子を口説けるようになるとは」

「そうじゃないって」


 さっきまで木陰で欠伸をしていた癖に、いつの間にか俺の隣にライラが立っていた。

 こいつはすぐ話をそっち方向に誘導する。

 さっさと話題を逸らそう。

 彼女たちには買い出しともう一つ、冒険者組合に行く用事も頼んでいた。


「ダンジョンの情報はどうだった?」

「は、はい。新しいダンジョンの情報が入っていました」


 フィオレがおどおどしながら説明してくれる。

 発見は三日前。

 場所は街の南西にある大森林奥地。

 ダンジョンの規模は調査中のため不明だが、出現に条件がある。

 その条件というのは――


「月が出ている夜にしか、入り口が開かないそうです」

「夜間、しかも月夜限定のダンジョンか」

「そんなのあるんだな! どういう仕組みなんだ?」

「仕組みはわからないよ。偉い学者さんたちがずっと研究してもつかめないんだから」


 クロムにエリカがそう説明している。

 常識的にはそうなっている。

 だけど俺は、詳しく知っている人物にこっそり尋ねた。


「どういう理屈なんだ?」

「簡単だ。繋がっている先の世界が、夜と月に深く関わりがあるんだろう。たとえば太陽が昇らない世界とかだな」

「そんな世界があるのか」

「さがせばいくらでもあるぞ? この世界での常識は、他の世界では非常識だ」


 この世界とつながるいくつもの異世界。

 ライラの中にある幾千もの英雄譚が、世界の広さと歴史の深さを物語っている。

 俺たちはダンジョンに入ることで、異なる世界に少しだけ触れられる。

 月夜の森林ダンジョン。

 果たしてどんなところだろう。


「そ、それからもう一つ、組合から注意勧告がでていました」

「注意勧告? 森林のダンジョンに?」

「は、はい。そこだけじゃないのですが、最近ダンジョンに無許可で侵入する盗賊がいるみたいで」

「盗賊か……」


 組合の許可なくダンジョン攻略に参加する者たち。

 彼らの目的はダンジョン内にあるお宝だ。

 宝を手にするためには手段を選ばず、どんな非道でも平然と行う。

 それ故に厳しく対処される。

 

「注意しておこう。出会わないことを祈りながら」


  ◇◇◇


 翌日。

 俺たちは月夜のダンジョン探索に出発した。

 今宵は満月。

 綺麗な月を眺めながら、目的の森林に入る。


「夜の森って不気味ですね」

「そうだね。時々ダンジョンから出てきたモンスターが徘徊していることもあるし、普段なら近づかないよ。暗くて足元も見えないし」

「暗いかぁ? 洞窟に比べたら明るいだろ!」

「よ、夜目が効くのはクロムだけ、ですよ」

 

 クロムは夜道でもお構いなしに普段通りの速度で歩く。

 夜目が効くのも野生動物っぽい。

 到着まで少し時間があるな。


「二人とも使用人、メイドだったんだよね? いつから一緒なんだ?」

「わ、私は最初から、メイドの家系に生まれたので」

「そうだったのか。じゃあクロムも?」

「オレは違うぞ! 孤児だからな」

 

 唐突に、さらっと告げられた事実に思わず口を閉じる。


「ん? なんだよ。オレ変なこと言ったか?」

「……いや、悪かった。今の話、聞いてもよかったのか?」

「そんなことかよ。別に気にしてないからいいぜ! 赤ん坊の頃に屋敷の庭に捨てられてて、そこをおじさん、じゃなくて当主様が拾ってくれたんだ。おかげで今も生きてるし、当主様には感謝してるんだぜ!」

「そうだったのか」


 重たい事情を雑談でもするかのようにさらっと。

 ブランドー公爵も、孤児を拾って大きくなるまで育ててあげるなんて、やっぱり優しい人だな。

 

「クロムは強いな」

「なんで? オレよりレオ兄のほうが強いじゃん」

「心の話だよ。寂しいとか思わなかったのか?」

「全然! だってオレにはお嬢とフィオレがいたからな!」


 彼女は底抜けに明るく笑う。

 この笑顔は、心からそう思っている証拠だろう。


「まぁでも、親の顔は見てみたいかな。オレが外に出たかったのも、半分はそれだし」

「半分?」

「おう。もう半分はいっぱい動き回りたかったからだ!」

「……ふっ、クロムらしいな」


 思わず笑みがこぼれる。

 普通ならもっと暗くなるような話題なのに、彼女と話していると強制的に明るくさせられる。

 こういう人間が一人いてくれると、毎日が楽しくなるだろう。

 きっとエリカたちも、そんな彼女と一緒にいられて幸福なはずだ。


「家族……か」


 俺も少し、憧れるな。

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