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〖設立〗がインストールされました②

 組合の支部にはそれぞれ支部長が一人存在している。

 文字通り支部のトップ。

 支部が管轄するエリアを束ねる。

 事実上、全てのギルドを管理する立場の人間で、上位ギルドであっても彼らに頭が上がらない。

 冒険者やギルドにとって、絶対的な存在と言える。

 俺も会うのは初めてだ。

 メガネをかけ長身ですらっとして、貴族の使用人のような服装をした男性。

 年齢は俺よりは高いけど、老けているわけでもない。

 この人が、ここの組合のトップか。


「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい。レオルスです」

「レオルス様ですね。そちらの方は?」

「私はライラだ! よろしく頼むぞ、支部長とやら」


 おいやめろ。

 目上の人に対してもっと礼儀正しくしてくれ。

 と、心の中で叫ぶ。

 ライラは気づいていない様子だ。

 契約で繋がっているから俺の心もわかるんじゃなかったのか?

 都合のいい耳だ。


「聞こえておるぞ」

「……本当に都合のいい耳だな」

「お前さんが言いたいことはわかる。だが私は見た目や立場で人を比べたりはせん。そうでなければ、大事なのは誰かではなく、何者になれたかだ」


 実にライラらしい見解だ。

 いくつもの英雄譚をその身に宿す彼女だからこそ、地位や権力にはこだわりがない。

 大切なのは何者になれたのか。

 俺もそう思うけど、立場だって大事なんだぞ。


「ふふっ、面白い方ですね」

「す、すみません……」

「お気になさらず。私も地位や立場に拘るつもりはありません。冒険者に身分は関係ありませんから」


 そう言って支部長はニコリと微笑む。

 思ったより優しい人なのかもしれない。

 もっと怖いイメージがあった。

 意外と人情に溢れ、親しみやすい人なのかも。


「私が重要視するのは一点、冒険者としての実績の有無です。それ以外の要素は必要ありません」

「――!」


 なんてことはなかった。

 一瞬で理解する。

 この人にとっては、肩書なんて関係ない。

 ただ何を成したのかが大事なのだ。

 人格も、過去も、この人は気にしていないのだろう。

 とても冷たくて、寂しい瞳だ。


「レオルス様、ギルドを設立したいそうですね」

「はい。ただ人数がその……」

「足りないということは伺っております。これは規定ですので、クリアしていただかないとギルドは設立できません」

「……ですよね」


 支部長ともなればルールにも厳しい。

 この人にハッキリと拒否されたのなら、まっとうに人数を集めるしかないだろう。

 と、半ばあきらめかけた時、ラクテルさんは続ける。


「ただし、何事にも例外というものはございます」

「――例外?」

「はい。この場合は特例でしょうか。そろそろ結果が出るころでしょう」

「結果?」


 何の話をしているのだろう。

 俺は首を傾げる。

 すると、受付カウンターの奥から俺の対応をしてくれていた受付嬢が急いで戻って来た。

 走ってきたのか、少し呼吸が早い。


「お待たせいたしました。ラクテル支部長」

「ええ、結果は?」

「はい。提出いただいた結晶は本物です」

「そうですか」


 ラクテルさんはニヤリと笑みを浮かべ、ニコやかに俺へと視線を戻す。

 待っていたのは阿修羅の結晶の鑑定だったようだ。

 組合には結晶が本物かどうかを判別する特別な装置がある。

 実際に見たことはないけど、彼らに嘘は通じない。

 過去に偽物を作って報酬を受け取ろうとした愚か者がいたらしいけど、しっかりバレて永久追放されている。

 その鑑定によって、阿修羅の結晶は本物と判断された。


「レオルス様、あの結晶はどうやって手に入れたのですか?」

「それはもちろん、ボスを倒したんです」

「あなた一人で?」

「はい。あ、でも彼女も一緒だったので二人ですね」


 俺はライラに視線を向ける。

 ライラはどうだ、と言わんばかりに胸を張る。

 小さな身体には不釣り合いな胸が揺れる。


「ま、私は直接戦えないからな。実質、阿修羅を倒したのはレオルス一人の力だよ」

「阿修羅? ボスモンスターの名前ですね」

「そうだぞ。武神阿修羅、三つの顔と六本の腕を持つ怪物だ」

「……なるほど、確かに目撃情報とも一致していますね」


 ラクテルさんは顎に手を当て考えている。

 阿修羅の外見特徴は、すでに組合が把握していたようだ。

 俺たちの前に、誰かが最下層にたどり着いたのだろう。


「本当に、レオルス様お一人で倒されたのですね?」

「はい。嘘はついていません」


 ラクテルがじっと俺の顔を見つめている。

 まるで鑑定されている気分だ。

 けれど俺は動じない。

 言葉にした通り、嘘は一つも口にしていないのだから。


「――わかりました。では、今回は特例として、ギルドの設立を認めましょう」

「本当ですか!?」

「はい。ボスモンスターを単独で倒せる人材は貴重ですからね。ただし条件はあります。設立は認めますが、人数が不足していることは事実です。これより一か月以内に、残り三名のメンバーを集めてください」

「い、一か月……」


 中々厳しい条件だった。

 それじゃほとんど今の状況と変わらないぞ。


「ご安心ください。私のほうでも協力させていただきます。必要でしたら、組合から候補者を提供しましょう」

「そこまでしてくれるんですか?」

「はい。レオルス様の実績に、私たちも期待しています」


 ラクテルさんが見ているのは実績だ。

 俺の、ボスを一人で倒したという実績を評価してくれている。

 ある意味一番わかりやすく、信用できるタイプの人だ。

 組合も協力してくれるなら現実味が出てくる。


「これで……」

「――ちょっと待った! その結晶は俺たちの物だぜ」

「――!」


 声が響く。

 勢いよく振りかえると、ニヤケ顔のカインツがいた。

 かつての仲間たちを連れて。

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