第9話 ウルクスの隠し事
こんにちは、味噌ラー油です。
小説初投稿&初連載です。
今回から新章突入しました〜。
未熟な文章ですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
※表現力が未熟すぎるので、内容を更新することがあるかもしれません。ご了承ください(汗)。
人間と悪魔の子・へーミシュは、ソフィアたちと共に、母親の魂を探す旅へと出発した。まず目指す目的地は、ウルクスの故郷、魔法使いの村だ。今もこうして、境界中に広がる森の中を歩いている。本当は、ランドルフを担いで、箒に乗ったウルクスと一緒に飛んで移動するつもりだったのだが、まさかソフィアとアルマまでついてくるとは。翼のあるアルマはともかく、さすがにソフィアとランドルフの二人を担いで飛び続けるのは体力的に厳しい。
ウルクスの村までは、翼で飛べばひとっ飛びなのだが、霧で覆われ、右も左も分からない境界の森を歩くとなると、丸二日はかかる。おまけに想定外の人物までついてきてしまっては、さらに時間を費やすことになりそうだ。特にソフィアは、体力がないのか、もうへばりかけている。
「ちょ、ちょっと、へーミシュ、そろそろ休まない?」
いつかは言うだろうと思ったが、ついに後ろを歩いていたソフィアが言った。
「もうかよ? まだ歩かないと、明日の日暮れまでに村に辿り着けないぞ」
へーミシュは顔だけソフィアの方に向けると、そう言った。アルマが、「ちょっと! なんでそんなひどいこと言うのよ!」と文句を言ってきたが無視した。
「まあでも、もう日も暮れるし、今日はそろそろ休もうか」
ソフィアの様子を気遣ってか、ウルクスがそう言ったので、へーミシュはしぶしぶ足を止めた。
「じゃあ、役割分担しようか。へーミシュとソフィアは薪を拾ってきて。あと、アルマは、近くに川があるから、そこから水を汲んできてくれるとありがたいな。ランドルフは、僕と一緒に食事の準備をしよう」
「わかったのである〜!」
ランドルフが、人間の姿に変身すると、ウルクスに元気よく返事をした。
* * * * *
『焔』
ソフィアとへーミシュが集めてきた薪に、ウルクスが火を着けた。ランドルフが「お腹減ったのである〜」と言う。ソフィアも「そうだね〜」と返した。グゥ〜っという音がしたかと思うと、アルマがお腹を抑えて顔を赤くしている。
「うう、私もお腹すいた……」
「天使も腹減るんだな」
「う、うるさいわね、しょうがないじゃない!」
へーミシュがアルマをからかっていると、ウルクスが「まあまあ、そのくらいにしてご飯にしよう」と言った。
「あ、そうそう、あたし、川で魚とってきたのよ!」
アルマが大きな声で言った。ウルクスが、「おお、ありがとう!おかずにちょうどいいや」と嬉しそうに答える。
「お魚!! アルマ、ありがとうなのである〜!」
ランドルフはアルマとハイタッチした。
みんなで焚き火を囲み、持ってきていた塩漬けの干し肉を火で炙る。水が熱されて弾ける音と、油が焼けるいい匂い。へーミシュが隣を見ると、ランドルフがよだれを垂らして待っていた。
「ランドルフ、よだれ……」
「お、お肉……はっ!」
慌ててランドルフが口元を拭う。その様子を見て、ソフィアがくすりと笑った。「ん、ソフィア、まさかまた……」とランドルフがソフィアに疑りの目を向ける。
「い、いや、別にかわいいなんて思ってないよ」
見事に墓穴を掘ったソフィアをよそに、へーミシュはまだ湯気が立っている肉にかぶりついた。
「か、かわいいって言うなって、何度言ったら分かるのである〜!」
ランドルフがソフィアに向かって、目を閉じたまま腕を振り回した。すっかりお馴染みになった光景を、ウルクスもアルマも止めることなく、微笑ましく見ている。
そうこうしているうちに、焚き火の周りで焼いていた魚にも火が通ってきた。
「ほれ、ランドルフ。焼けたぞ」
ランドルフに魚を差し出す。元々人狼は肉が主食なのだが、人間に育てられたランドルフは、魚も大好物だ。
「わぁい! 頂きますなのである〜!」
ランドルフは、ソフィアへのかわいらしい攻撃をやめて、へーミシュから受け取った魚にかぶりついた。口いっぱいに頬張って、一気に飲み込む。
「ぎゃふっ!!」
「ど、どしたのランドルフ!?」
ランドルフがむせた。ソフィアが隣で大慌てしている。
「の、喉に骨が刺さったのである……」
泣きそうな目になっているランドルフ。
「あわわ、今取ってあげるからね……!」
ソフィアが取り除こうとしてランドルフの口の中を覗き込む。「よしっ! 取れたっ!」と取り出したのは、そこそこの太さと長さの骨だった。
「慌てて食べるからだよ……」
へーミシュはボソッとつぶやいた。だが、それがアルマの癪に触ったらしい。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない! かわいそうでしょ!!」
「ま、また始まった……」
「また始まった、じゃないっ! 何でまたあんたはいつも意地の悪いことを!」
「い、いや、ほんとのことを言ったまでなんだが……」
「ほんとのことでも言っちゃいけないことはあるでしょ!!」
わあわあとまくしたてるアルマに反論しようとするが、今日はなぜか分が悪い。(そ、それは確かに、少しは意地悪なことを言ったかもしれないが……)と、へーミシュは心の中で思った。
「だいたいランドルフはまだ子供なんだし。これでもし今度泣かせたら、ミカエル様に言いつけてやるんだから!」
「どういう告げ口だよ……」
(てか、虎の威を借る狐じゃねーか)
へーミシュは心の中でツッコミを入れる。
面倒臭くなってきたへーミシュは、「……悪かったな」とそっぽを向いた。しかし、今度はアルマの言葉がランドルフの気に障ったらしい。
「ア、アルマまで子供扱いするのである!? みんなひどいのである〜!」
「ご、ごごごごめんランドルフ! そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「も〜っ! アルマなんて知らないのである〜っ!」
ランドルフがアルマをポカポカと叩いた。
「ま、まあまあ、へーミシュもアルマも、ランドルフも落ち着いて! ご飯冷めちゃうよ」
ウルクスが何とかみんなをなだめようとしている。
「……っ、ふふふっ……!」
笑い声が聞こえた方を見ると、なぜかソフィアが笑っていた。
「ど、どうしたの、ソフィア?」
「どうしたんだよ、突然笑い出したりして」
へーミシュとアルマが同じようなタイミングで言って、また睨み合いになる。そんな様子を見て、ソフィアが笑いを堪えて言った。
「ごめんごめん、なんか、家族のこと思い出しちゃって……」
「そ、そうか……」
へーミシュは眉尻を下げた。他に方法がなかったとはいえ、いきなり異郷に連れてこられては、ソフィアも混乱するばかりだったろう。それが悪魔の城なら、なおさらだ。最近は、ランドルフやグレモリーと仲良くしていたが、それでも、家族のことを思い出さないわけがない。
(助けるつもりで境界に連れてきたけど、これでよかったんだろうか……)
「ソフィア、寂しいのである……?」
ランドルフが心配そうに聞いた。
「あ、ううん、そうじゃないの。今は寂しくないよ。こっちに来て、いろいろな人とも仲良くなれたし」
そう言ってソフィアは微笑んだ。その笑顔を見て、へーミシュは少しだけ安心した。
(まあ、ソフィアの状況を考えれば、帰りたくても帰れないしな……)
へーミシュは、気を取り直して、「ほら、早く食べないと冷めるぞ」とソフィアたちを促した。
* * * * *
風が木々を揺らす音で、へーミシュは目を覚ました。もともと眠りは深い方で、一度寝たらなかなか起きないのだが。慣れない外での眠りだからだろうか。
(いや、違う)
寝起きだったためか分からなかったが、次第に感覚が研ぎ澄まされていくと、少し遠くで魔力の塊が動くのを感じた。
(魔物か。そこまで強くはなさそうだが……)
魔物。冥界で生まれ、魔力を普通より多く内在する生物。魔族の仲間だが、言葉が通じないものが多い分、敵にもなり得る。もしこちらに危害を加えてくるようだったら、倒さなければならない。
(まあ、しばらく様子を見てみるか)
いくら魔物といえど、身内のようなもの。むやみに倒すことはしたくない。そのうちどこかに去っていくことを期待して、へーミシュは再び目を閉じた。
再び気づいた時には、魔物の気配はすぐ近くまで迫っていた。へーミシュは、もたれかかっていた木から身を起こした。
「へーミシュ」
どうやらウルクスも気づいたらしい。木の上でくつろいでいたアルマも降りてくる。
「うーん、どうしたの……?」
ソフィアまで起き出してきた。「ああ、お前は寝てていいぞ。ランドルフを頼む」とソフィアに言い、ウルクスと共に魔力の根源へと向かう。
へーミシュが『曙光』と唱えると、暗闇の中に目が浮かび上がって見えた。光を強くして全身を照らし出すと、魔力の正体は、大きなクマの魔物だった。
「あたしに任せて!!」
後ろから威勢のいい声が聞こえて、声の主であるアルマが矢を放った。勢いよく飛んだ矢は魔物のすぐ近くまで迫ったが、途中で急に速度が落ち、魔物に当たることなく地面に落ちた。
「ええっ!? 何で!?」
アルマが叫ぶ。
「お前の霊力じゃ、まだこいつには勝てねえよ」
「魔力で妨害されてるんだ」
へーミシュとウルクスが素早く構えながら説明した。アルマが、「そ、そんなぁ〜」とガックリ肩を落とす。
そうしている間に、へーミシュたちは魔物の前に立ち塞がった。魔物が唸り声を上げ、威嚇している。
「どうやら、言葉は通じなさそうだな」
「そうみたいだね。魔力もそこまで強くないし」
ウルクスはへーミシュと短く言葉を交わすと、魔物を退けるために軽めの攻撃を加えた。
『流渦!』
ウルクスが唱えると、ウルクスの少し先の地面に、水色の魔法陣が浮かび上がる。やがて魔法陣は渦となり、凄まじい回転速度で魔物にぶつかった。魔物は足を取られ、叫び声を上げながら倒れた。
「これで去ってくれればいいけど……」
ウルクスが不安げにつぶやいた。「ちょっと様子を見てくる」と言って、ウルクスが魔物に近づく。
その瞬間、クマの魔物が目を見開くのが見えた。
「ウルクス——!」
へーミシュが言うよりも早く、魔物が起き上がり、ウルクスに体当たりした。
「ぐっ!」
「ウルクス! 大丈夫か!?」
へーミシュは、吹き飛ばされて座り込むウルクスを庇うように、魔物の前に立った。そして、剣・夜を抜こうとした、その時——。
後ろから紫色の光が差した。あたりの空気が一気に重くなるのがわかった。感じたことがないような強力な魔力に、へーミシュの動きが止まる。半分が悪魔であるヘーミシュすら威圧する、慣れない魔力の、その出どころを感じ取った時、へーミシュは振り返った。
「ウルクス・・・・・・!?」
光は、ウルクスの額に巻かれた布の、内側から差していた。ふらふらと立ち上がったウルクスの目は、光を失い、虚になっている。魔物が一歩退くと、紫の光はさらに強くなった。
『逃ガスカ』
ウルクスの口から、ウルクスよりも低い声が聞こえた。異変を感じ取ったのか、後からやってきたソフィアが固まるのが、視界の端に見えた。
「おい、どうしたんだよウルクス!」
へーミシュが呼びかけると、紫色の光は止んだ。ウルクスは、しばらく宙を見つめていたが、ハッとしたように「ご、ごめん、大丈夫……」と言った。
「お、おう……。とりあえず、あいつをどうにかするぞ」
へーミシュはそう言って剣を抜いた。
夜は、父カリタスが、悪魔の王ルシファーから受け継いだとされる剣。持ち主の魔力を吸い取り、増幅させて攻撃する魔剣だ。
へーミシュが剣を抜くと、鞘から刀身が少し出ただけで、魔力が辺りに溢れ出した。クマ型の魔物は、へーミシュの魔力を感じ取ると、すごすごと逃げていった。
「ウルクス、大丈夫!?」
ソフィアがウルクスに駆け寄る。ウルクスは「う、うん、大丈夫……」と答えた。
「な、何が起こったのである……?」
ランドルフが尋ねたが、ウルクスは、苦笑いしながら「心配かけてごめんね……。でも、本当に大丈夫」としか言わない。それをへーミシュはただ無言で見つめた。
(あの紫の光、それに、あの強大な魔力……。まさか……)
「じゃあ、朝ごはんを食べて、出発しようか」
ウルクスにそう言われて、ランドルフが釈然としない表情で「わかったのである……」と言った。
ウルクスがソフィアと朝ごはんの用意をしている間、へーミシュは悶々と考えていた。アルマに「あんたも手伝ったらどうなの!?」と言われたが、「うるせえ」と言って木の上へと飛び上がった。「逃げるなー!」というアルマの声が下から聞こえている。
へーミシュは木の幹にもたれかかりながら、考え事の続きをするのだった。
《第9話 ウルクスの隠し事 了》
最後まで読んでいただきありがとうございました!
拙い文章ですみません……(汗)。
さて、ウルクスは一体何を隠しているんでしょう……?
これからも連載頑張ります。